冒険者ギルドで登録を済ませた。
先輩冒険者に絡まれたので、軽く蹴散らしておいたところだ。
シルバータイガーの情報を収集するためには、Bランク以上になる必要がある。
魔物の討伐歴に応じて、ランクアップ査定があるらしい。
「これはどうだ? 近くの山で狩った魔物だ」
ドシン!
俺はアイテムバッグからギガント・ボアの死体を取り出し、床に置く。
「なっ! ななな……」
受付嬢が口をあんぐりと開けて、驚いている。
確か、ギガント・ボアはA級の魔物だったか。
あの山の途中で立ち寄った村では、肉を提供して感謝されたことがある。
栄養や魔力が豊富に含まれているらしい。
何より、味がいい。
「そ、それはギガント・ボア!? ライル様、どうやってこれを?」
「ん? だから、近くの村で狩ったと言っているだろう」
「ギガント・ボアは、この近くの山には生息していません! 相当な高山でないと……。もしや、『雪原の霊峰』ですか?」
「ああ、確かそんな名前の山だったな」
俺とリリアは、竜化状態の飛行能力で竜王国からここまでやってきた。
竜が人々に視認されると、大騒ぎになる可能性がある。
そのため、わざわざ人目につかない高山に降り立ち、竜化状態を解いて下山してきたのだ。
あの山には、そこそこサイズ感のある魔物がたくさんいた。
S級スキルを持つ俺や竜王であるリリアの敵ではないが、一般的には苦戦必至な魔物なのかもしれない。
「ギ、ギガント・ボアを倒せる新人……。これは凄まじいですね……」
「どうだ? Bランクに昇格できそうか?」
「い、いえ……。ギガント・ボアはA級の魔物ですので、この功績が無事に認められればAランクすら見えますが……」
「ふむ。なら、早く上げるといい」
極端に目立つと、ブリケード王国に気づかれて追手を差し向けられる可能性がある。
とはいえ、いつまでも低ランクでまごついているつもりもない。
ある程度は成り行きに任せよう。
「い、言いにくいことですが、これだけなら功績が認められない可能性があります」
「なぜだ?」
俺は受付嬢をジロッとにらむ。
「と、討伐済みの魔物をアイテムバッグから出しただけでは、死体をたまたま拾ったり、他の冒険者から購入した可能性が残るからです」
「ふむ。しかし、そんなことを言い出せばキリがないだろう。完全に証明することなどできはしない」
「ええ。基本的には、死体や討伐証明部位を提出した時点で功績は認められます。しかし、ライル様とリリア様は本日ご登録されたばかりの新人ですので、審査の目が少し厳しくなるかもしれません。買取金額は適正額を提案させていただきますが、ランクアップ査定となりますと……」
受付嬢が言うことにも、一理はある。
まずは低ランクや中ランクの依頼をこなして、信頼を得る必要があるということか。
「わかった。買取はしてもらうが、功績の審査は保留でいい。まずは、低ランクの依頼からこなしていくことにしよう」
「は、はい。そうしていただけると助かります」
受付嬢がほっと胸をなでおろす。
彼女にしても、俺の実力を心の底から疑っているわけではないのだろう。
何しろ、目の前でCランク冒険者たちを一蹴したところを目撃したのだから。
しかし、それを直接見ていない冒険者ギルドの上層部は、話が別だ。
俺の功績を認めない可能性がある。
受付嬢にしても、上層部と俺との板挟みで苦しい胸の内だったのかもしれない。
「それで、何かいい依頼はあるか?」
「ええっと……。Eランクの『薬草の採取』や、Dランクの『ゴブリンの討伐』などがいいと思います。ライル様であればもっと高難度の依頼も可能かとは思いますが、なにぶん初依頼ですので……」
「わかった。それでいい。受注の処理をしてくれ」
俺はそう言う。
CランクやBランクの依頼をこなしたところで、結局は先ほどのギガント・ボアのようなやり取りが繰り返されるだけだろう。
それなら、まずは低ランクの依頼をこなしていくべきだ。
まあ、数日程度こなしてやれば、最低限の信頼は得られるだろう。
そうなれば、Cランク以上の依頼をこなしていけばいい。
簡単な仕事だ。
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