私が赤ちゃんをベッドに戻している間にも、村の方から悲鳴が何度も上がっています。
どうやら、村の近くまでミドル・ボア来てしまったようですね。
「いい子で待っていてね」
私はそう言い残して、家を飛び出しました。
「に、逃げろ! こっちだ!」
「急げっ! 早くしろっ!!」
ミドル・ボアは体高2メートルを超える大きな猪型の魔獣です。
その突進力はかなりのもので、普通の人間ではまず勝てません。
「「うおおおっ……!」」
村の男衆が数人、必死の形相で鍬や鋤を構えています。
しかし、彼らの武器ではイノシシの分厚い皮膚を貫くのは難しいでしょう。
「おお、サテラ! 無事だったか!」
「うん、お父さん。……大丈夫? 怪我は……」
「ああ。俺たちは大丈夫だ。それより、お前は早く避難するんだ」
「何を言っているの。この村はもうすぐ、あいつに襲われるんだよ? そんな時に、私だけ逃げ出すわけにはいかないわ」
「そんな……! バカなことを言うんじゃない! ここはもうダメだ! さあ、早く逃げるんだ!!」
お父さんがそんなことを言っている間に、ミドル・ボアは村へ入ってきています。
「これ以上村に入れるな!」
「我らの誇りにかけて、食い止めるのだぁあああっ!!!」
「ぬおおおおっ!! てえいっ!!」
「ブモオオオオッ!!」
「「「ぐああああっ!!!」」」
しかし、彼らは勇敢な抵抗も虚しく、あっさりと蹴散らされていきます。
このままだと、あと数分後にはこちらにも来てしまうでしょう。
そうなれば、家や赤ちゃんだって無事では済みません。
お父さんが言うように、逃げるのも一手。
でも、ここは――
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
「えっ?」
私はお父さんの言葉を背にして歩き出します。
もちろん、ミドル・ボアの方に。
「な、何をしているんだ! 待ちなさい、サテラッ!!」
「大丈夫よ、お父さん。ちゃんと倒してくるから」
そう言って、私は走り出しました。
私が生まれ育った村。
愛着のあるこの場所。
絶対に失いたくありません。
「はぁあああっ!」
私は気合と共に拳を握りしめます。
すると、私の魔力に呼応し、右腕の部分が変質しました。
それは、赤く輝く竜の腕へと変わります。
「ライル様にいただいたこの力……、使わせていただきます!!」
私は大きく拳を振りかぶると――
「はあっ!!」
ミドル・ボアに目掛けて叩きつけました。
「ブモモッ!?」
一撃を受けたミドル・ボアは、そのまま勢いよく吹き飛びます。
やはり、ライル様のおかげで私も十分に戦えますね。
ミドル・ボアにトドメを刺すことにしましょう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!