スピカに武勇伝を語っていたところ、壮年の男が部屋に入ってきた。
彼にもどこか見覚えがある。
「ライル殿、お久しぶりですね。私のことを覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、もちろん。この商会の頭取だろう? よく覚えているとも」
まぁ、ギリギリだったが。
町ですれ違う程度では思い出せなかっただろう。
しかしさすがに、これほどのヒントを得ていれば思い出せる。
頭取の娘であるスピカが目の前にいて、その上この部屋は商会の客室だ。
以前、ゴブリンに襲われている彼を助けた後も、この部屋に案内された気がする。
「それは光栄でございます。……ところで、私の娘とのお話し中に申し訳ございませんが、少々よろしいですか?」
「ん? 何だ?」
「実はライル殿にあるお話をと思いまして……」
「俺に話? ……ふむ、話してみろ」
何か頼みたいことでもあるのだろうか。
まぁ、スピカとは何か実のある話をしていたわけではない。
俺には俺の目論見があるのだが、少しぐらいは頭取の話を聞いてやってもいいだろう。
「ありがとうございます。噂に聞いたのですが、ライル殿はシルバータイガーの”白銀の大牙”をお求めだとか」
「ああ。それがどうした?」
「もしライル殿さえ良ければ、シルバータイガーの討伐経験がある冒険者を紹介できますが、いかがでしょうか? 合わせて、有効な魔道具類もご用意できますが」
「ほぅ?」
思わぬ申し出だ。
俺としては願ってもないことだ。
しかし、なぜ俺が”白銀の大牙”を求めていることが伝わっているのか。
(まぁ、冒険者ギルドには口止めをしていなかったしな……)
俺の祖国であるブリケード王国に目を付けられないためには、過度に目立つことは避けたい。
だが、レアアイテムを手に入れるためには功績を上げる必要がある。
また、必要に応じて俺がレアアイテムを求めていることをアピールすることも必要だ。
そのバランス感覚は難しい。
できるだけ目立つことを避けてきたつもりだが、ひょっとするとそろそろブリケード王国に俺の情報が薄っすらと伝わっているかもしれないな。
「討伐経験のある冒険者というと?」
「はい。ストレアのギルドに所属するBランク冒険者です。名を、シャオ・ブランシェと言います。お聞きになった事はありますか?」
「……いや」
ない。
聞いたこともない名前だ。
まぁ、俺はこのストレアにほとんど馴染みがないので当然のことではあるが。
「実力と知識を兼ね備えた優秀な人物です。まだ若い女性ですが、いずれ一流の冒険者に成長することでしょう」
「ほう」
「もちろん、紹介料は当商会で負担します。その代わり、”白銀の大牙”以外の素材については当商会へ優先的に卸していただければと思います」
「……ふむ。いいだろう。その方向で進めてくれ」
人手が欲しいと思っていたところなのだ。
別の方策でも用意するつもりだが、有用な者は1人でも多い方がいい。
こうして俺は、今後の段取りについて詳細を詰めていったのだった。
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