「お兄ちゃん……」
「ライルよ」
「……ガルド、それにバリオスか」
それはかつて、ライルが家族と認識していた者たちだった。
具体的には、弟と父親である。
「いろいろあったけど、結婚おめでとさん。お兄ちゃん」
「うむ。余からも祝福してやろう。いろいろあったが、結婚おめでとうと言っておく」
「お前らに祝われても嬉しくない……と言いたいところだが、一応は受け取ってやる」
ライルは、ガルドとバリオスに祝福され、素直に喜ぶことはできなかった。
過去を鑑みれば当然のことである。
だが、他ならぬルーシーの意向もあり、彼らを結婚式や披露宴に呼ぶことにした。
そんな経緯もあり、ライルは祝福の言葉を大人しく受け取った。
「それで、何の用だ?」
「無粋な奴め。祝いの席で、さっそく本題に入るとは……」
「用がないなら帰れ。こっちも忙しいんだ」
「やれやれ、仕方のない奴だ……」
バリオスが嘆息する。
そして、ゆっくりと本題を切り出した。
「知っておるか? 聖国の攻勢が強まっている。こういった辺境の村も、いずれ戦場になるかもしれん」
「その話か。……ああ、知っているよ。だが、この村は俺が守るさ」
「ここはブリケード王国だ。聖竜帝国の帝王であるお前に直接の裁量権はない」
「ふん、属国の前王風情が何を言う。身の程をわきまえろ。自分の立場が分かっていないのか?」
「分かっておらぬのはお前の方だ。急速に勢力を拡大した聖竜帝国は、周辺国との軋轢が強まっている。聖国以外にも、警戒すべき国は多い」
「西方諸国に……東方の蛮族どもか……」
「そうだ。属国の辺境なんぞにかまけている暇はお前にはなかろう。戦闘能力だけの青二才でも、それぐらいは理解できるはずだ」
「ちっ……。クソ野郎が! 言ってくれるじゃねぇか……!」
ライルとバリオスが口論を始める。
そんな2人を、ルーシーやガルドは落ち着いた様子で眺めていた。
「はぁ……ライル様と御父様って、仲が悪いのか良いのか……」
「あれはじゃれ合いみたいなもんさ。S級スキル【竜化】を持つお兄ちゃんは規格外だが、親父だって元は国王。統治系の上級スキルを持っているし、ブリケード王国を統治する器はあった。……ま、今の国王は俺だけどな」
ルーシーの言葉に、ガルドが答える。
そんな彼の言葉通り、口論は徐々に落ち着いてきていた。
「おい、愚息よ」
「お前に息子と呼ばれる筋合いはない。……で、なんだ?」
「分かっているだろう? 我らが仲違いをしている余裕などないと」
「……ああ、確かにな」
ライルはバリオスの言葉を認める。
S級スキル【竜化】を持つ彼は、凄まじい戦闘能力を持つ。
1対1で負けることはあり得ない。
1対100でも、雑兵相手ならば一蹴できる。
それどころか、スキルを全開放して竜の姿となれば1対10000でも勝つだろう。
だが……さすがに周辺国家全てを同時に相手取れば、どうなるか分からない。
最終的には勝ったとしても、聖竜帝国やブリケード王国にいくらかの被害は出るだろう。
それに、S級スキル【竜化】を全開放すれば、また竜化現象が進行してしまうリスクもある。
現実的に考えて、利用できる戦力は利用するのが無難だ。
たとえそれが、忌み嫌っている元家族であっても……。
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