「恨みなんかないさ。ただの仕事だよ。退屈でつまらん仕事だがな」
俺はそう返答する。
別に、奴隷商や奴隷に対して俺は悪感情を持っていない。
王族として、国民を円滑に統治する手法も学んできたからな。
適度に社会的身分を分けた方が、王族に対して不満を抱きにくくなるものだ。
「りゅ、竜が喋った……?」
男が驚愕に目を見開く。
彼の背後の牢屋内では、少女もわずかに目を大きくしている。
「竜が喋ることも知らんのか? 浅学な奴め……」
まぁ、喋ることができるのは一部の上位竜だけなのだがな。
だが今はそんなことどうでもいいだろう。
「ひぃ……! た、助けてくれぇ……!」
檻の中の少女を人質に取ろうというのだろうか。
彼は震える手で牢屋の鍵を開け、中に入ろうとする。
しかし――
「ぐげっ……!」
次の瞬間、男の頭が胴体から離れる。
血しぶきを上げて倒れた頭部は、そのまま地面を転がって動かなくなった。
「これで仕事は終わりだ。このまま帰ってもいいが……」
俺は呟きながら、ゆっくりと歩み寄る。
そして、しゃがみ込んで牢獄の少女と目線を合わせた。
「おい、お前。ここから出たいか?」
「あ……う……」
少女はかすかな声を漏らすばかりである。
どうやら、相当にヒドイ目にあってきたらしい。
全身におびただしい数の傷がある。
顔色はかなり悪く、目に生気もない。
これは思っていたより重症だ。
少し待っても反応がない。
そこで俺は強硬手段に出ることにした。
「ほら、このポーションを使ってやろう」
俺はアイテムバッグから取り出した上級回復薬を、彼女の全身にぶっかけた。
すると――
「う、ううっ……! か、身体が……?」
少女は初めて、意味のある言葉を発したのだった。
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