商人頭取の娘であるスピカによって、俺は商館の応接室へと案内された。
お茶が出され、向かい合って席に着く。
「それで、俺の話を聞きたいって?」
「はい! ライル様の冒険譚をお聞きしたいと思っておりまして」
「ふむ、冒険譚か」
スピカが身を乗り出してくる。
はやる気持ちを抑えて、我慢している感じだ。
「何でも構いません。ぜひとも聞かせてください! ライル様の英雄伝説を聞くたびに、心が躍ります!!」
「英雄と言われると少し大げさかもしれないが……」
むしろ、俺がやってきたことは悪役や魔王のようなものではなかろうか。
男は痛めつけたり虐殺したりして、女はなぶってきたのだから。
まぁ、殺したのは盗賊の男ぐらいだから、ギリギリセーフか?
「よし分かった。では――」
俺はスピカに武勇伝を語る。
とはいえ、俺の功績はまださほど多くない。
単行本にして1冊分くらいだろうか。
大量の銀月草を採取したこと、ゴブリンの群れを討伐し親玉のゴブリンキングを撃破したこと、盗賊団を壊滅させたことぐらいだ。
冒険者ギルドの職員アイシャを従えたり、村の少女ミルカを屈服させたり、冒険者キーネを調教したりしたことは伏せておく。
まぁ今の俺でも罪悪感はさほど感じていないのだが、堂々と誇ることでもないというのは理解できる。
「――といった具合であったな」
「素晴らしいです!!」
語り終えると、スピカが目を輝かせて拍手をした。
俺は照れながらも謙遜しておく。
「いやいや、そんなことはない」
「いいえ! そんなことあります! それこそ英雄と呼ばれるに相応しい功績ですよ!!」
「そうなのか?」
「そうですよ! 帝都の騎士団だって、ここまでの活躍はできないと思います!」
「確かにな……」
このストレアの町は、ディガーティア帝国に属する。
帝国の国力は、俺の祖国であるブリケード王国と同じか少し下ぐらいだ。
確かにそれならば、帝国騎士団であっても少数なら今回の俺ほどの功績を残すことは難しい。
念入りな準備の上、複数の中隊を動員する必要があるだろう。
「ライル様は本当に凄い方です!!」
スピカは鼻息を荒くしながら興奮気味にまくしたてる。
「ですから私は、ライル様のことを応援したくて……!」
「ほう?」
「私に何かできることはありませんか?」
「ふむ。それなら――」
自分から言い出してもらえるのはありがたい。
お言葉に甘えて遠慮なく進めていこう。
俺がそう思ったところで――
「失礼します。ライル殿がこちらにおいでだと聞いたのですが……」
壮年の男が、部屋に入ってきたのだった。
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