シルバータイガーを討伐するための仲間を求めてぶらついていたところ、少女に声をかけられた。
どこかで見覚えがあるのだが、思い出せない。
少女が俺とともに歩きながら、話しかけてくる。
「それにしても、ずいぶんとご活躍なさっておられるようですね!」
「ん? ああ、そこそこだな……」
俺は適当に話を合わせつつ、記憶を辿る。
このストレアで俺が知り合った者など、そう多くはない。
ましてや、これぐらいの年代ならかなり限られる。
冒険者?
いや、こんな少女に荒事は無理だ。
強力なスキルを持っているなら話は別だが、この年齢ならスキルを得ているかさえ微妙なところである。
となると、宿屋か?
いや、それも違うな。
宿屋の店員は20歳を超えていたはずだ。
となると――
「ライル様? どうかされましたか?」
「あ、いや……失礼。なんでもないんだ」
「そうですか。あっ、見えてきましたよ! 私の父が頭取を務める商会です!」
少女が指差した先には、大きな建物があった。
俺の記憶も蘇ってくる。
「おお、そういえば君は……」
「え? ひょっとして、忘れていらっしゃったんですか!? ひどいですよぉ~!!」
少女はぷくっと頬を膨らませているが、すまないが本当に忘れてしまっていたのだ。
というか、今でも完全には思い出せていない。
商会の頭取の娘であるという事実を思い出せただけだ。
「すまんな。俺は記憶力が悪いのだよ。改めて名前を教えてくれないか?」
記憶力が悪いというのは、もちろん嘘だ。
第一王子として教育を受けた俺は、高い記憶力を持つ。
この少女の名前については、覚える価値がないと判断していただけだ。
しかしここに至り、少女に利用価値を見出した。
名前ぐらいは覚えてやってもいいだろう。
……ん?
また思考が上から目線になってしまっているな。
いくら第一王子の俺とは言え、庶民を過剰に見下すことは控えてきたはずなのだが。
やはり、S級スキル竜化から人格への影響を完全にゼロにすることは難しいようだ。
まぁ、少し前までの暴力性や残虐性を抑えられているだけ良しとしておこう。
以前の俺なら、この少女が生意気な態度を取っただけで全裸で土下座させていたかもしれない。
「もうっ! 仕方ありませんね……私はスピカといいます。以後、お見知りおきをお願いしますね」
「ああ、よろしく頼む。ところで、俺に何か用事でもあるのか?」
「はい。あの……」
スピカが顔を赤らめながら、うつむいた。
何だ、突然もじもじし出したぞ。
「ライル様のお話を聞きたいな、と思いまして。私、ライル様にずっと憧れていたんですよ! いつかまたお会いできたらいいな、と思っていたのですけど……まさか、こんなに早く会えるなんて!! 運命を感じちゃいます!」
スピカがそう熱弁する。
ま、悪い気はしないな。
この様子なら、”例の件”を進めてもよさそうだ。
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