「……まさか、お前は」
「お?」
俺はリリナの頭を撫でる。
こうすると、彼女はとても喜ぶのだ。
「ど、どうしたのじゃ、急に?」
「いや……」
俺は確信する。
やはり、彼女は……。
「お前、リリアか?」
「ふふふ……。ようやく気付いたようじゃの」
リリナが口角を上げる。
顔立ちは、リリアとリリナではっきりと異なる。
だが、その笑い方はまさにリリアと同じように見えた。
「……ルーシーとの愛の結晶に、こんな邪悪なものが紛れ込んでいたとは……。お前と暮らした日々は間違いなく宝物だった。しかし、悪を放ってはおけん。悲しいが、娘よ……」
「ちょっ……! ま、待つのじゃ!!」
俺は諸悪の根源を排除するべく、魔力を開放する。
後顧の憂いを断つには、殺すのが確実だ。
最低でも、特殊な拘束をした上での軟禁は必要だろう。
俺の魔力量や敵意に恐怖を感じたのか、リリナは弁解するように捲し立てた。
「余は父の娘で間違いないのじゃ!」
「だが、前世は竜王リリアなのだろう?」
「確かにそう言ったのじゃが……。正確には違うのじゃ! 母の体内にあった魂が余にも受け継がれていて、その中で特に自我の強かったものが竜王リリアで……」
「……ほう? つまるところ、お前は何者なんだ?」
「余は……リリナじゃ! 父と母の娘じゃ!」
リリナが叫ぶ。
詳しいことは理解しきれていないが、おおよその事情は分かった。
リリナは『前世』という表現を使ったが、それは正確ではない。
リリナの魂の中に、竜王リリアの魂が併存しているようだ。
小さい頃から『余』とか『~なのじゃ』とか言っていたのも、その影響なのだろう。
竜王リリアの魂は、いつどうやって紛れ込んできたのか?
おそらく、俺との決戦に敗れた際に苦し紛れにルーシーの体内に魂だけで逃げ込んだのだろう。
その後、妊娠のタイミングで赤子へ乗り移ったのだ。
それが偶然の出来事か意図的なものかは分からないが……。
「分かった……。とりあえずは信じることにする」
「ほっ……」
「だが、なぜ今になってそれを伝えようと思ったんだ?」
「……子どもの頃は、体にいくつもの魂があるのが普通じゃと思っていたのじゃ。じゃが、大きくなるにつれ、その異常性に気付くようになった。そして、少し前にあった成人の儀で、余は強力なスキルを授かった。その影響か、竜王リリアを始めとする魂たちがより鮮明に感じられるようになって……。余もようやく、自分の状態を理解できたのじゃ」
「なるほどな」
俺は納得する。
リリナは、あくまで俺とルーシーの娘だ。
竜王リリアではない。
だが、竜王リリアの魂からも強い影響を受けているようだ。
「興味深い現象だ。そう言えば、リリナが授かったスキルは――ん?」
俺は攻撃の前兆を感じ取る。
これは……。
「うりゃあああぁっ! 【聖剣・エクスカリバー】!!!」
「なっ……!?」
「伏せろ、リリナ!!」
俺は咄嗟に娘を押し倒す。
それとほぼ同時に、俺とリリナのいた場所を光の刃が通過した。
「あ、危ねぇ!? この剣筋は……。おい、ルーク! またやったのか!?」
俺は叫ぶ。
直後、息子であるルークが血相を変えてこちらに走ってきた。
「す、すみません! お父さん! まだスキルの制御ができなくて……!」
「剣を宮殿近くで振り回すな! 危ないだろ!!」
「は、はい……。次からは気をつけます」
ルークが頭を下げる。
リリナの双子の弟であるルークは、姉に比べてややおとなしい子だった。
しかし、彼が得たスキルもまた凄まじい。
俺の後を継ぐのに十分な力だ。
「まったく……。それで、ルーク? 間に合いそうなのか?」
「はい。そっちの方の準備は、もう終わっています」
「さすがは俺の息子だ」
俺は彼を褒める。
聖竜帝国は、またもや戦争の危機に直面していた。
ここ最近、はるかな海の向こうにある魔大陸から、魔族たちがたびたび侵攻してくるようになったのだ。
もちろん、黙ってやられている俺たちではない。
逆に魔大陸に攻め入るべく、新たな軍――遠征軍を編制中だ。
その軍の副大将が、ルークなのである。
「外敵を粉砕しつつ……久しぶりの家族旅行といこうか。楽しみだな」
俺はルークやリリナの頭を撫でつつ、そう呟いたのだった。
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