「大丈夫か? 手首を捻挫したりしていないか?」
「ぐっ……」
男はかなり痛かったのか涙を流しているが、逃げずに踏み留まっている。
「よし、続けてくれ。麻痺毒のテストなのに、そもそもまだ刃が俺に届いていないのでは話にならないからな」
「ひ、ひぃっ! こ、こ、降参だ! 許してくれっ!!」
「なんだ、もう終わりか。もっと頑張ってくれよ」
「ひっ!?」
俺は男の肩に手を置く。
恐怖で真っ青になっているな。
「では、こうしよう。俺は闘気を限界にまで抑える。その状態で、元々の肉体強度が低い部位……そうだな、首筋でも斬りつければいい。な、簡単だろ?」
「え? は、はい……」
「よし、じゃあやってくれ」
そう言って、俺は腕組みをして構える。
闘気の出力を抑えていく。
S級スキル竜化は強大なんだが、その分手加減は難しいんだよな。
暴れ回るように体内から湧き出てくる闘気を必死に抑える。
そして、ミジンコレベルにまで抑えた。
「すーっ……。ふぅ……。はぁ……。行くぜ……」
男は深呼吸すると、意を決した様子で俺の首に向けてナイフを振り下ろした。
ピッ……。
俺の首筋に、ほんの少しの切り傷が入る。
「おっ! これは……」
「は、はははははっ! こうなったらもうこっちのもんだ! この毒はビッグ・エレファントですら数秒で動けなくするシロモノなん――」
「まぁ、こんな程度か……」
俺はその場を歩いてみせる。
少しだけ動きづらいが、大したことではない。
「な、なにいっ!? うそだろっ!! 一体何なんだ、お前はっ!?」
「ただの冒険者だよ。スラムの違法奴隷商を潰す依頼を請け負っただけのな。しかし、お前のとっておきの毒がこの程度とは、期待外れだよ」
「くっ……」
「せいぜい、長時間同じ姿勢をしていた時に足が痺れて、歩きづらくなるのと同じくらいの感覚だな。まぁ、たまにはこういうのも悪くはないな」
俺はあえて男に背を向けて、悠々と歩く。
そうしている内に、痺れが抜けてきた。
どうやら、S級スキル竜化が作用しているようだ。
そんじょそこらの毒はそもそも俺に効かないし、多少強力な毒でもこの通りすぐに抗体ができる。
俺を毒で無力化したいなら、世界トップクラスの毒が必要だろうな。
「ば、化け物かよ……」
男は呆然と立ち尽くしていたのだった。
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