盗賊団の構成員を撃破した。
残るは、ただ1人だけである。
「お前が盗賊団のボスだな。俺の指弾を防ぐとは、なかなかやるな」
こいつだけは、闘気による防御と盾をうまく組み合わせて、粘っていたのだ。
「ぜえ、ぜえ……。な、なんてふざけた野郎だ……」
とはいえ、既に満身創痍ではあるが。
他のザコよりも多少粘ったというだけで、俺に対抗できるレベルには程遠い。
「1つ提案しよう。俺の攻撃を防ぎきり1分後に立っていれば、逃してやる」
ミルカが『なぜそんなことを』という顔でこちらを見てくるが、俺はその抗議を目で制す。
「ふんっ……。俺様相手にそんな条件を出すとはな。舐められたものだ」
盗賊の男はそう言うものの、声には余裕がない。
「どうした? 怖いか?」
「怖くなんかねぇよ!! いいぜ、受けて立とうじゃないか!!」
威勢のいい言葉とは裏腹に、足は震えていた。
「では行くぞ」
「来いやぁあああ!」
こうして、盗賊との闘いが始まった。
1分間。
短いようで、長い時間である。
「【指弾】」
俺は右手の指で空気の塊を飛ばしてく。
盗賊団のボスは、それを必死に防ぐ。
闘気の出力、身のこなし、盾の使い方……どれをとっても悪くない。
これだけの実力があれば、盗賊などではなく軍兵や冒険者としてもそれなりに活躍できただろうに。
何らかの訳ありだろうか。
事情によっては、俺の配下にしてやらんこともないのだが……。
残念。
こいつはミルカの村の敵なのだ。
今も、ミルカが殺意を目に宿らせながら見ている。
慈悲をかけるわけにはいかない。
「なかなかやるな。では、左手も使うとしよう」
俺はポケットに入れていた左手を抜く。
「なっ!? 左手だと!? ふ、ふざけるなああぁ!!!」
「左手を使わんとは言っていないだろう。では、いくぞ」
俺は再び空気の塊を放つ。
今度は左右の手からの同時発射だ。
「おらあああぁ!!」
盗賊団のボスが、力を振り絞って2発とも防ぐ。
「悪党とはいえ、死力を尽くす姿は美しいな。あと20秒だ。防いでみせろ!!」
パチッ!
パチパチッ!!
パチパチパチパチパチパチパチパチッ!!!
俺は指弾のペースを上げていく。
「ぐっ、うっ……」
ボスは対応しきれずに、被弾していく。
体にいくつもの穴があいていく。
さらに……。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!!!
俺はラッシュをかける。
残り時間は10秒。
これを耐えきれればボスの勝ちだが……。
「ぐ、ぐふっ!」
ボスが膝をつく。
この状態でも、ギリギリ立っていると言えなくもない姿勢だ。
しかしもちろん、このまま待つつもりはない。
「終わりだな」
5……4……3……2……1……。
0になる寸前だった。
「【指弾】」
俺はひと回り強めの指弾を放つ。
ドガッ!
盗賊団のボスは、大きく弾き飛ばされ壁に激突し、倒れた。
最初から、こいつに勝ち目などなかったのだ。
アリの巣に強めの個体がいたので遊んでやっただけの話である。
「なかなか面白い見世物だったぞ」
俺は最後にそう労いの言葉をかけてやったのだった。
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