「くくく……。楽しみだねぇ、レスティちゃーん」
「うっ……」
奴隷商は、猫獣人の奴隷候補レスティとその母親を連れて、地下室へとやってきた。
ここならば、思う存分好き勝手できると考えたからだ。
「ひぃっ!?」
レスティが思わず悲鳴を上げる。
その地下室には、怪しげな器具が並んでいたからだ。
明らかに人を苦しめることを目的に作られた拷問器具の他、使い方がよく分からない器具もある。
それが余計に、レスティの恐怖を増大させた。
「お、お願いします。私はどうなっても構いませんから、娘だけは……許してあげてください」
「母さん!? 何言ってんだよ、ダメだってば!」
母親は、娘のために自分の身を捧げる覚悟だ。
奴隷商はニヤリと笑う。
「良いだろう。貴様が試練を乗り越えることができたら、娘だけは解放しようじゃないか」
「本当ですか?」
「本当だとも。約束するよ。ただし……」
そこで言葉を切って、再び嫌らしく笑ってみせる。
「もしもクリアできなかった時には、二人で儂に奉仕してもらうがなぁ?」
「……はい、分かりました」
「ああっ、母さん、待ってって!」
レスティが止める。
母親を信じていないわけではないし、自分が危機に陥ることも覚悟はしている。
だが、この男が言う試練とやらを乗り越えたところで、約束が守られる保証などどこにもないのだ。
そう考えると、母親の行動が心配でならなかった。
「大丈夫よ、お母さんに任せなさい」
「でもっ……」
「それより、今は生き残ることを最優先にしなさい。私のことは気にしなくていいから――」
「ッ! 分かったよ」
母の気持ちを無駄にしないためにも、レスティは泣くのを必死に堪えた。
「それでは、始めよう」
奴隷商が合図する。
すると、彼の部下が何やら怪しげな道具を持ってきた。
それは、注射器のような見た目をしていた。
「ひっ……。そ、その針はいったい何を?」
「安心しろ。これは毒ではない」
奴隷商にとって、レスティとその母親は一種の財産だ。
辺境の村からさらってきたので狭義の仕入れ値はゼロである。
だが、さらうための人手、さらった後の食費、万が一帝都の騎士団に嗅ぎつけられた場合のリスクなど……。
総合的に見れば、それなりのコストを払っている。
レスティたちをいたぶるためだけに、毒を盛るような真似はしない。
「この薬液には、少し特殊な使い方があるのだよ」
「特殊な使い方ですか……?」
「くくく。すぐに体験させてやろう」
奴隷商は笑みを浮かべながら、レスティの母親の腕を掴んだのだった。
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