S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い。お前たちは、俺たちの属国として面倒を見てやるよ

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

最終話 家族旅行

公開日時: 2024年8月15日(木) 01:40
文字数:3,138

 数週間後――


「では、出港だ!」


 俺の掛け声で遠征軍は出発した。

 目指すは魔大陸。

 長い航海になるだろうが、俺たちならば乗り越えられるはずだ。


「わーい!  父よ、魔大陸とやらが楽しみじゃのう!」


「ちょっと、リリナ姉。遊びに行くんじゃないんだから……」


 俺たち一家に割り当てた大部屋のリビングで、リリナとルークがじゃれ合っている。

 3つの大隊からなる遠征軍は総勢1000人を超えており、一隻の大型船に乗り込んで進んでいた。

 総大将は俺で、副大将がルーク。

 そして、3人の大隊長は……


「ご主人、アタシの配下どもの士気は高いぜ」


「右に同じくです。私の配下たちも、やる気に満ちていますよ」


「みんな、略奪のチャンスを心待ちにしているぜ」


 レスティ、ロゼリア、ガルドだ。

 紅猫族の元奴隷、レスティ。

 俺がまだブリケード王国の第一王子だった頃の、親衛隊隊長を務めていたロゼリア。

 ブリケード王子の元第二王子で、今や女体化した上でブリケード王国の女王となっているガルド。

 いずれも竜の加護を持つ強者である。

 元より中上級スキルを所持していたこともあり、その実力はトップクラスだ。

 そして――


「むぅ……。なぜ余が独立遊撃隊とやらの隊長なのじゃ!?」


「しょうがないと思うよ。リリナ姉は気分屋だから」


「うむむ……。そんなことはないのに……」


 リリナは駄々をこねている。

 彼女の精神はまだまだ未熟だ。

 竜王リリアの魂から影響を受けているのか、傲岸不遜なところがあり、気分屋なところもある。

 大人数の兵を任せることはできない。

 だが、彼女ほどの強者を遊ばせておくのももったいない。

 そこで独立遊撃隊の隊長を任せることにしたのだ。


「ライル様、あたいは何もしなくていいのか? 王妃なのに……」


「王妃だから、だよ。遠征軍と名乗ってはいるが、半分は家族旅行みたいなもんさ。ゆっくり羽を伸ばしてくれ」


「そうか……。ライル様がそれでいいなら……」


 ルーシーが頷く。

 彼女は竜の加護を持っており、その戦闘能力は高い。

 だが、元はただの村娘だったこともあり、レスティやロゼリアあたりにはどうしても劣ってしまう。

 ルーシー特有の事情として『たくさんの他者の魂をその身に宿している』というものがあるが、最近はホムンクルスへの転生も進んでいる。

 そのため、彼女に昔ほどの戦闘能力はない。

 王妃として、家族旅行を楽しんでもらおう。

 ま、彼女に限らず、全体的にのんびりと遠征を楽しんでもらうつもりだが……。


「ふふ……。サティも張り切っていましたよ。『ついに初陣だ!』って」


「サティは勇敢だよなぁ。アタシの娘なんて、いつもクヨクヨしてるぞ」


「ミラちゃん、研究職向きの魔法使いですからね。私の娘は懐いていますが……」


「今頃、4人で仲良くやっているでしょう。将来的な道は分かれると思いますが、遠征中の臨時パーティとしては最高のメンバーです」


 サテラ、ミルカ、スピカ、アイシャの声が聞こえてくる。

 彼女たちはそれぞれ、俺の準側室もしくは愛人だ。

 サテラは山村生まれ。

 ミルカは盗賊被害に遭っていた村の娘。

 スピカはストレアの町の大商人の娘であり、今や聖竜帝国でも有数の大商人の会長。

 そして、アイシャはストレアの冒険者ギルドのギルマスの娘であり、ギルド職員として隠密の仕事も請け負っていた女だ。


 言うまでもなく、彼女たちは全員が俺の子を生んでいる。

 サテラの娘サティは格闘家、ミルカの娘ミラは研究職寄りの魔法使いで……。

 スピカやアイシャの娘は、それぞれ親の仕事に興味を示しているらしい。

 格闘家、魔法使い、商人、隠密……。

 確かに、パーティとしてバランスがいいな。


「冒険者の魂がうずきますね、シャオさん」


「ああ。だけどよ、アタシたちの子どもはまだ小さいからな。今回は付きっきりで世話しねぇと」


「そうですね……」


 キーネとシャオも、遠征軍に参加している。

 かつて盗賊団を不用意に刺激して被害を拡大させた、元低ランク冒険者のキーネ。

 俺と出会う前から高ランク冒険者で、その腕を見込んでシルバータイガー狩りに参加してもらったシャオ。

 以前は戦闘能力に差のあった2人だが、あれから10年以上が経ったこともありその差は縮まっている。

 キーネのパーティメンバーの男たちも含め、共に依頼を受けることもあるらしい。


「ふふ……。いろんなことがあったなぁ……」


 大部屋で無秩序に繰り広げられる家族の会話に耳を傾けながら、俺は過去に思いを馳せる。

 素敵な出会いがあった。

 辛い出来事もあった。

 S級スキル【竜化】からの悪影響もあり、ちょっとオラついた時期もあった。

 だが、そうした経験が俺を成長させてくれた。

 今の俺は、最高に充実している。


「……ん? ルーク、どうした?」


「いえ、改めて確認したいことが……」


 ルークが神妙そうな面持ちを浮かべている。

 なにか重要な話だろうか?


「お父さん……。僕が副大将として確かな戦功をあげられたときは……」


「……ああ、リリナとの婚約の件か。男として、王として二言はないぞ。もちろん許可する」


「ありがとうございます!」


 ルークが嬉しそうに言う。

 彼はリリナに好意を抱いているのだ。

 双子なのにどうかとも思うのだが、細かいことは考えないようにしている。

 リリナにはリリアの魂が少し混じっているため、完全な双子というわけではない……のか?

 よく分からん。


 俺もリリアとは『そういう関係』だった時期があるし、ちょっとした嫉妬を覚えなくもないのだが……。

 自分の息子に嫉妬するのはみっともない。

 それに、リリナはリリアの魂を持つ存在であると同時に、俺の娘でもある。

 ただでさえ、俺は民衆どもから『好色王』だの『女好き王』だの呼ばれているのだ。

 万が一にも娘に手を出して、これ以上イメージを悪化させるようなことがあってはならない。


 代わりに、双子の姉と結婚したシスコン王としてルークの名を広めてもらうことにしよう。

 そうなれば、相対的に俺の悪評は薄まるはず。

 ルークには少し申し訳ないけどな。

 結婚自体は本人の望み通りだし、それぐらいは受け入れてもらわないと。


「ふふ……。ルークよ、頑張るのじゃぞ!」


「うん! リリナ姉のためにも、僕、頑張るよ!」


 リリナとルークが引き続きじゃれ合っている。

 本当に仲良しだな、この2人は。

 聖竜帝国の未来は明るい。

 俺の子や孫、そしてその子どもたちが、この国をさらなる高みに導いてくれるはずだ。

 そのためにも、まずはこの遠征兼家族旅行を無事に終えて――


「むっ!?」


 グラグラと船が大きく揺れる。

 まるで、何かが船に掴みかかっているような衝撃だ。


「な、何が起きているんだ!? 敵襲か!?」


「落ち着いてくれ、ルーシー。あれは……クラーケンの触手だ!」


 俺は窓を見る。

 巨大な触手が船に絡みついているのが見えた。


「クラーケン……? よしっ、今夜はイカ焼きじゃ! いくぞ、ルークよ!」


「うん、行こう! リリナ姉!!」


 2人が飛び出していく。

 甲板に出た彼らは、クラーケンの触手に攻撃を加え始めた。


「うりゃあ!」


「てやぁっ!!」


 リリナの蹴りとルークの剣が、クラーケンの触手を切断した。

 だが、討伐には至っていない。

 船上での戦いということもあり、ちゃんと手加減をしているようだ。


「子どもにばかり戦わせるわけにはいかないな。俺たちも行くぞ!」


「おう、ご主人!」


「お任せください!」


「やってやんぜ!」


 俺は剣を取り、飛び出した。

 その横には、レスティ、ロゼリア、ガルドが並ぶ。

 少し遅れて、別室からサティやミラまでもが飛び出してきた。


「みんな、遠征の前哨戦だ! 軽く蹴散らして、イカ焼きの大宴会を開くぞ!!」


「「「おー!!」」」


 俺たちはクラーケンに攻撃を加える。

 こいつを討伐したら、次は魔大陸だ。

 それ以降も、様々な出来事が俺たちを待っているだろう……。

 俺たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ!!!

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