「ふふふ……。余は前世の記憶を取り戻したのじゃ!」
空の軍勢を撃退してから数年が経過した、ある日のこと。
俺が執務室で仕事をしていると、リリナがやってきてそう言った。
「あー……。はいはい、それはすごいな」
「む……。その反応はなんなのじゃ?」
「いや、リリナもそういう年頃になったんだと思ってな」
俺は苦笑する。
リリナは14歳となった。
この年齢になると、自分が特別な存在だと思い込み始めたりするものだ。
どこかの文献によると、たしか『ちゅーに病』という病名だったか。
「可哀想なものを見る目をやめよ! 余は正気じゃ!」
「はいはい」
「むー……。信じていないのじゃな? よし、それなら父のとっておきの秘密を暴いてやろう!」
「ほう? 俺のとっておきの秘密だと?」
俺は興味を示す。
秘密か……。
誰にでも、1つや2つ隠したいことはあるだろう。
俺だって例外ではない。
リリナのことは可愛い娘だと思っているが、それでも話していない事柄はいくつもある。
「ふふ……。言ってもいいのかえ? 本当に言うぞ?」
「ああ。分かったから、早く言えよ」
「では……言うぞ。実は、父は……」
「俺は……?」
リリナが一呼吸おく。
そして、口を開いた。
「首元を噛まれるのが好きなのじゃ!」
「……は?」
俺は思わず間抜けな声を出す。
首元を噛まれるのが好き……?
「……何を言っている? S級スキル【竜化】を持つ俺の皮膚は頑強だ。そんじょそこらの者に噛まれたところで、痛みどころか痒みすら感じないぞ」
「ふふ……。噛まれることが好きというのは否定しないのじゃな?」
「あ……」
しまった……。
リリナがニヤニヤと笑っている。
隠していた俺の性癖がバレてしまった。
子どもに話すようなことではないのに……。
……しかし、妙だな?
この性癖はルーシーやロゼリアあたりも知らない。
彼女たちはそれぞれ強いのだが、顎の力や歯の頑丈さは普通だ。
性癖を伝えて噛んでもらっても、逆に彼女たちの歯を痛めてしまうだけ。
だから、あえて言っていなかったのだ。
「ふふふ……。父よ、安心せよ! 余が噛んでやろう!!」
「おい、やめろ! さすがの俺でも、実の娘とそういう関係になるのは……」
「問答無用じゃ! とりゃー!!」
「やめろー!」
俺は必死に抵抗する。
だが、リリナは強い。
先日の成人の儀で何か強力なスキルを得たらしく、その身体能力はさらに増している。
「ふふん! 観念するのじゃ!!」
リリナが俺に襲いかかり、そのまま首元に噛みつく。
俺の皮膚があっさりと破れ、血が滴った。
「あれ……。父よ、何も感じないのか?」
「……いや、これは……」
俺は混乱する。
誰も知らないはずの性癖を、なぜ彼女が知っているのか?
それに、この噛み方……。
懐かしい記憶がある。
この噛み方は……。
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