男女がゴブリンに追われている。
俺は彼らの代わりにゴブリンと戦ってやることにした。
「揺蕩う炎の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。火の弾丸を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ファイアーバレット!」
俺は中級の火魔法を発動させる。
もっと上級の火魔法も使えるし、格闘や剣で倒すこともできる。
だが、ゴブリン程度であれば中級の火魔法が最適だろう。
上級の火魔法は森林火災が心配だ。
ならば格闘や剣で戦うのも候補に挙がるが、その場合はゴブリンの汚れが体や剣に付着する。
ゴブリンという汚物は燃やして消毒するに限るぜ。
「「ぎゃおおぉっ!」」
ゴブリンたちが焼け死んでいく。
火力もほどほどに抑えておいた。
瞬時に灰になるほどではない。
討伐証明部位の回収も可能だろう。
「す、すげえ……!」
「ゴブリンたちを一撃で……。あの年齢で中級の火魔法を使えるなんて……!」
途中まで逃げていた男女が振り向き、そう言う。
自分たちは逃げながらも、戦いの行末を気にしていたのだろう。
「ふん。この程度、造作もない」
俺はそう言う。
S級スキル『竜化』を持つ俺にとっては、赤子の手をひねるようなものだ。
これで、脅威は去った。
しかし、男女の顔はまだ晴れない。
今にも、再び逃げ出しそうだ。
「だ、だがよう。あいつらのボスが来たら、さすがに……」
「そうね。君も、今の魔法で魔力が尽きたでしょう? いっしょに逃げるわよ!」
男女がそう言う。
普通の魔法使いであれば、そもそもあの威力の火魔法を使えない。
多少優秀で使える者がいたとしても、1発で魔力が空になるぐらいの威力だ。
通常の感覚であれば、この者の言っていることは一理ある。
しかしもちろん、俺の魔力は尽きてなどいない。
「ふむ。ゴブリンの群れは壊滅させたが、まだ後続がいるようだな」
俺はそう言う。
先ほどの一団の後方から、援軍がやってきている。
そしてーー。
ドシン、ドシン!
大きな足音が聞こえる。
「ごあああぁっ!」
一際大きなゴブリンが、叫び声を上げる。
「み、見ろ! あいつはゴブリンキングだ!」
「ゴブリンキングはB級の魔物……。私たちDランク冒険者では厳しい相手だわ……」
男女がそう言う。
こいつらはDランク冒険者だったか。
冒険者ギルドで俺が一蹴したチンピラたちより、さらに下のランクである。
ゴブリンキングはもちろん、通常のゴブリンの群れですら厳しいのも頷けるな。
「ふん。何かと思えば、ゴブリンキングか」
俺はS級スキルを持つ。
『雪原の霊峰』では、A級のギガント・ボアを始め、多数の高ランクの魔物を撃破した。
今さらB級の魔物ごときに臆する俺ではない。
ささっと蹴散らしてやることにしよう。
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