俺が竜化スキルを使いこなせるようになるための特訓期間は終わった。
とうとう、ルーシーたちを生き返らせるための俺の旅が始まる。
「最初は……、”白銀の大牙”じゃ!」
「白銀の大牙? 確か、シルバータイガーの牙のことをそう呼ぶのだったか」
俺はそう言う。
シルバータイガーは、B級の魔物だ。
一般人や低級の冒険者では歯が立たない。
ギルドの基準だと、中級の冒険者10人以上か、上級の冒険者複数人が要求される。
「そうじゃ! シルバータイガーは、あいにく人族の大陸にしか生息しておらんからの。余たちが自ら赴くしかあるまい」
「ふむふむ。しかし、いきなりシルバータイガーか。かなりの強敵だな」
D級の魔物であれば、鍛錬の一環としてソロで討伐したことはある。
また、C級の魔物も護衛兵に守られながらではあるが討伐作戦に参加したことがある。
しかし、B級の魔物と戦うのは初めてだ。
「何を言っておる? 今のお前さんなら、シルバータイガーなど一捻りじゃぞ?」
「え? そうなのか?」
今の俺はS級スキルである竜化をそれなりに使いこなせるようになった。
スキルのランクと魔物のランクを単純に比較はできないが、確かに今の俺であればシルバータイガーの討伐も可能なのだろうか。
あまり実感が湧かないな。
「戦闘自体を心配する必要はない。注意すべきは2点。シルバータイガーの牙を粉々にしてしまわないようにすることと、人族の領域で目立ち過ぎないようにすることじゃ」
「牙の件は当然だな。しかし、目立ち過ぎないようにするのはなぜだ?」
「お前さんの……ええと、ブリケード王国か。あそこに目をつけられんようにするためじゃ。余やお前さんがいくら強くとも、さすがに万の軍勢を差し向けられたらどうなるかわからぬからな」
リリアがそう言う。
第二王子であるガルドを殺したのは俺だ。
ブリケード王国が俺の所在を把握すると、確かに軍を差し向けてくるかもしれない。
さすがに万の軍勢を割くほどの余裕はないと思うが……。
王族のメンツというものもあるし、どう動くか予測できない。
「しかし、万の軍勢を差し向けられても、どうなるかわからない程度なんだな。確実に負けるわけではないのか」
「そうじゃ。ほとんどの人族は矮小な存在じゃから、万の軍勢でも敵ではない。人族としてのお前さんも、万の蟻ん子や芋虫に襲われたとしても、たぶん大丈夫そうじゃと感じるじゃろう? それと同じじゃ」
確かに、蟻や芋虫が1万匹襲ってきたとしても、人族形態の俺で掃討できそうだ。
いざとなれば、逃げてもいいし。
少なくとも、簡単に殺されてしまう未来は予測できない。
ぐっすり寝ているところに同時に奇襲されたら殺されることもあるかも、ぐらいの感覚だ。
「そうだな。しかし、竜にとっての人族は、人族にとっての蟻や芋虫と同程度なのか……」
竜化スキルを持っているとはいえ、俺は人族だ。
あまりの差に、少しへこむ。
「じゃが、人族にも稀に力を持つものがいる。並みの竜族と同等以上の力を持つお前さんは別格としても、お前さんと敵対していたあの人族もそこそこじゃ。さっきの例えで言えば、子犬や子猫といったところかの」
リリアがそう言う。
俺と敵対していた人族とは、俺の弟のガルドのことだろう。
彼はA級スキルの剣聖を持っていた。
竜族から見たA級のスキル持ちの人族は、人族から見た子犬や子猫と同じ程度らしい。
「ふむ。蟻が何匹いようと敵ではないが、さすがに子犬や子猫が何十匹も襲ってくれば、命の危険も感じるか……」
「その通りじゃ。ま、うまく連携されて同時に相手取った場合だけじゃがの。各個撃破したり、遠距離からブレスで仕留めればA級スキル持ちじゃろうと問題ないのじゃ」
竜王であるリリア、そしてS級スキル竜化を持つ俺は、並外れた戦闘能力を持つ。
そんな俺たちでも、決して無敵というわけではない。
油断せずに任務に取り組んでいく必要があるだろう。
「わかった。不用意に目立たないように注意する。それで、目的地まではどうやって行く? 普通に飛んでいくか?」
俺もリリアも、当然のように飛行能力を持っている。
魔素や天候の関係で飛行不能な領域もあるが、基本的にはどこへでも飛んでいける。
「シルバータイガーの生息域は、人族の生息域とかぶっておる。直接行くのはマズイ。竜が飛んでいると、目立つからの」
「なら、どうする?」
「近場に人が住んでいない高山がある。ひとまずそこまで飛んでいくのじゃ。そこで竜から人へ変化し、徒歩で人里まで降りる。あとは、シルバータイガーの情報収集をして、普通に討伐して素材をいただくのじゃ」
ふむふむ。
確かに、その筋書きで問題なさそうだ。
「よし。それでいこう。人族の街に着いたあとは、俺に任せてくれ。人族の常識は俺のほうがあるだろう?」
「それはそうじゃな。戦闘面やシルバータイガーの生態については余が力になるが、人族の領域での基本的な活動はお前さんに仕切ってもらうことになるじゃろう。期待しておるぞ」
「ああ、任せてくれ!」
今まで、ずっとリリアにお世話になりっぱなしだった。
少しでも、いいところを見せたいところだ。
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