囚われの女冒険者2人は、ミルカの親の仇だったらしい。
剣を抜き襲いかかろうとするミルカを、俺は羽交い締めにする。
「か、仇? 何の話ですか……?」
物腰の柔らかい金髪の方が震え声でそう問う。
牢屋に囚われているときに、剣を抜かれて迫られたらビビっても無理はない。
「って、お前はよく見りゃあの村の奴じゃねえか! 助けに来るのが遅いんだよっ!!」
赤毛の女がミルカに向かって叫ぶ。
やはり知り合いか。
というより……。
「どの口がそんなことを言うっ!? アタシは言っただろ! たった6人のパーティで、30人以上いる盗賊団に勝てるはずがないって!!!」
ミルカがそう叫ぶ。
確かに、普通はそう考えるよな。
「ふん! 計画通りに行けば、勝てるはずだったんだよ! リーダーがうっかり罠を踏まなければ、奇襲で倒せていたはずだ!!」
赤毛の女がそう反論する。
まあ、一理なくもない。
人数差があろうと、奇襲の初撃で数を減らせれば、なんとかなる可能性はあるだろう。
相手は所詮盗賊団。
軍兵や冒険者になりそこなった底辺共の集団だしな。
「お、お前たちのその迂闊なミスで、村にどんだけ被害が出たと思っているんだ!! 見せしめだと言って、アタシのお父さんとお母さんは……。ううっ……!!」
ミルカが泣き出してしまった。
……というか、両親を殺されていたのか。
俺はそっとミルカの肩に手を置く。
「ぐすん……、この人たちのせいで、村は滅茶苦茶になったんです。許せるわけないじゃないですか……」
ミルカは嗚咽混じりにそう言う。
「あー、なんだ? つまりはこういうことか?」
俺はミルカの頭をポンポンしながら、囚われの2人組に確認を取る。
「お前らの作戦がうまくいかなかったせいで、村に犠牲者が出たということだな?」
「そ、それは……。はい。そのようですね……」
金髪の女が首肯する。
「ちっ! 人間なら、誰でも失敗はするものだろ! あたいたちは盗賊団を殲滅するために全力を尽くした! それに、こっちにも犠牲者は出てるんだ! あたいたち2人以外は、全員殺された!!」
赤毛の女がそう主張する。
この話だけを聞くなら、確かに一理ある言い分だ。
しかし……。
「お前らは、ミルカの注意に聞く耳を持たなかったのだろう? 『たった6人では勝てるはずがない』と言われていたのにな」
まあ、俺も同じことを言われて無視したので、あまり強くは言えないのかもしれないが……。
俺の場合は、確かな実力を見せてミルカを黙らせた。
それに、実際に俺は盗賊団の殲滅と捕縛に成功した。
一方でこの女たちのパーティは壊滅している。
自分に絶対の自信を持ち人のアドバイスを無視するのは結構なことだが、それには責任が伴うのだ。
おごり高ぶった判断で人に迷惑を掛けたのであれば、報いを受けなければならない。
「も、申し訳ありません……。罪を償います……」
金髪の方は殊勝な態度だ。
目からは涙すら流している。
心の底から行動を悔いているのだろう。
しかし……。
「罪って何だよ! あたいたちは意図して失敗したわけじゃねえ! それぐらい分かれよ!!」
赤毛の方がそう主張してくる。
「おい、お前……」
俺は呆れながら、赤毛の女に声を掛けようとしたのだが、その前にミルカが声を荒げる。
「ふざけんじゃねええぇっ! てめえ、よくそんなことが言えるなっ!?」
牢屋の中に響き渡るミルカの怒号。
2人の女がビクッと身体を震わせる。
「やれやれ。埒が明かないな。盗賊たちも連れ帰る必要があるし、とりあえずこいつらも村に連れ帰ればいいだろう。リリアやアイシャとも合流しないとな」
俺はそう言う。
「ライルさまっ! それでは、アタシの気が収まりません……!」
ミルカが食い下がってくる。
「あのなぁ……。お前の気持ちは分かるが、感情的に行動しても解決しないぞ?」
「でも……! アタシはこいつらに村をめちゃくちゃにされたんですよ!? なのに、こいつはのうのうと生きていて、しかも反省の色もないなんてっ!!」
ミルカの怒りは収まりそうにない。
村に帰ってからいくらでも裁きを下せばいいと思うのだが、それまで我慢できなさそうだ。
まあ、復讐の対象を前にして冷静でいろと言う方が無理な相談か。
仕方がない……。
可愛いオモチャミルカのためだ。
ここは一計を案じてやろう。
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