——暗闇が、意識を飲み込んでいく。
耳鳴りのような低いノイズ音が響き、身体の輪郭が溶けていく感覚。
だが、恐怖はなかった。
タクトは、ただひたすらに前を目指す。
(……俺は、必ず辿り着く。)
そう誓った瞬間——
——視界が開けた。
目の前には、再び**「約束の地」**が広がっていた。
風に揺れる白い草原。
空は青く、雲がゆっくりと流れている。
そして、その中心に——
「……早織!」
タクトは駆け出した。
そこには、前と同じように立っている龍野早織の姿があった。
「タクト……本当に、また来たんだね。」
微笑む彼女の表情はどこか切なげだった。
「当たり前だろ。……お前を迎えに来た。」
「……ダメだよ、タクト。」
「……え?」
早織は首を振る。
「私は、もうすぐ“消滅”する。……私自身が、この世界の一部だから。」
「お前が……この世界の一部?」
タクトは思わず問い返す。
早織は静かに語り始めた。
「私の意識は、事故の時にこのデジタル世界に流れ込んだの。」
「流れ込んだ……?」
「本当は、私はあの時……死んでいたはずだった。」
タクトの心臓が強く締め付けられる。
「でも、あるシステムが私を“救った”の。」
「システム……?」
「Project SAORI。」
その言葉を聞いた瞬間、タクトは息を呑んだ。
(ナオが言っていた、あの計画……!?)
「でも、この世界は“仮初の命”をつなぎ止めるだけの場所。いずれ崩壊する運命にある。」
「だったら……だったら、俺がお前を連れ戻す!!」
タクトは必死に叫んだ。
「お前が現実に戻れれば、また——!」
「タクト。」
早織はそっとタクトの手を取る。
彼女の指は、ひどく冷たかった。
「私の肉体は、もう限界なんだよ。」
「……!」
「……私を迎えに来てくれて、本当にありがとう。でも、これはもう変えられない運命なの。」
タクトは、拳を握りしめた。
そんなこと、認められるはずがない。
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