「完全ダイブ……?」
「前回、お前は短時間だけアクセスして戻ってきた。でも、それじゃダメだ。」
ナオはモニターに複雑なプログラムコードを表示させた。
「もっと深く、もっと長く。お前自身の意識を完全にデジタル世界に適応させる必要がある。」
「でも……それって、戻ってこれるのか?」
ナオは答えなかった。
その沈黙が、何よりの答えだった。
「お前がやろうとしてるのは、現実の肉体を捨てるのと同じことかもしれない。二度と戻れなくなる可能性もある。」
「それでも……俺は行く。」
即答だった。
ナオは目を見開き、そして苦笑した。
「……はぁ。お前、昔からそういうヤツだったな。」
「頼む。準備をしてくれ。」
ナオは無言でキーボードを叩いた。
完全ダイブの準備が始まる——。
「タクト、ひとつだけ聞く。」
プログラムの最終設定をしながら、ナオが言った。
「もし、早織が助からないとしたら——それでも行くのか?」
タクトは静かに目を閉じる。
そして、力強く言った。
「俺は、早織と約束したんだ。」
「約束?」
「“約束の地に行こう”って。」
「……バカだな、お前。」
ナオはため息をつく。
「……いいぜ。準備はできた。」
タクトはスマホの画面を見た。
そこには、新たなプログラムが起動していた。
[GATE SYSTEM - FULL DIVE MODE]
「カウントダウン開始……10、9、8……」
タクトは息を呑む。
「……3、2、1——」
「——行くぞ、早織!!」
タクトは画面をタップした。
次の瞬間、意識が闇に沈む——。
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