キミと走る明日を -ゴースト・イン・ザ・メモリー-

たとえ、もう2度と会えなくなるとしても
平木明日香
平木明日香

第5話

公開日時: 2025年2月10日(月) 23:40
文字数:868


 タクトは、ある人物に会うために深夜のネットカフェへ向かった。


 「……久しぶりだな、タクト。」


 薄暗い個室のモニター前に座るのは、白石ナオ。

 彼の中学時代の友人であり、現在は天才的なハッカーだった。


 「どうしても、調べたいことがある。」


 「何を?」


 「人間の意識が、デジタル世界に存在する可能性について——。」


 白石はしばらく黙った後、ニヤリと笑った。


 「……お前、面白いことに足を突っ込んでるな。」


 そして、タクトは“デジタル・ダイブ”という言葉を初めて知ることになる——。




 *



 「……デジタル・ダイブ?」


 タクトの問いに、白石ナオは静かにうなずいた。


 「聞いたことないか? 人間の意識をデジタル空間に転送する技術のことだよ。」


 「そんなの、SFの話だろ?」


 「今はな。でも、理論上は不可能じゃない。」


 ナオはモニターに映し出された複雑なコードを指さした。


 「昔、ある企業が“電子意識保存”の実験を行っていた。人間の脳波をデジタル信号に変換し、仮想空間に保存するってやつだ。」


 「……そんな研究が、本当に?」


 「公式にはすべてのデータは破棄されたことになってる。でも、裏ではまだ動いてる。」


 ナオはカチカチとキーボードを叩き、あるファイルを開いた。


 画面に表示されたのは、ひとつのコードネーム——


 「Project SAORI」


 タクトの心臓が跳ね上がる。


 「……Saori?」


 「偶然とは思えないだろ?」


 タクトは画面に食い入るように見つめた。


 もしこれが、早織と関係があるのだとしたら——

 彼女は、本当にデジタルの世界に囚われているのではないか?


 「お前、これを調べるつもりか?」


 ナオが鋭い目を向ける。


 「……俺は、早織を助けなきゃならない。」


 タクトの決意を感じたのか、ナオはため息をついた。


 「やれやれ……相変わらず無茶するな、お前は。」


 ナオはキーボードを叩き、タクトのスマホに何かのプログラムを送信する。


 「これを使え。俺が作った“ゲート”だ。」


 「ゲート?」


 「簡単に言えば、仮想空間にアクセスするための鍵みたいなもんだ。ただし——」


 ナオは真剣な目で言った。


 「どこに繋がるかは、俺にもわからない。」



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