タクトは、ある人物に会うために深夜のネットカフェへ向かった。
「……久しぶりだな、タクト。」
薄暗い個室のモニター前に座るのは、白石ナオ。
彼の中学時代の友人であり、現在は天才的なハッカーだった。
「どうしても、調べたいことがある。」
「何を?」
「人間の意識が、デジタル世界に存在する可能性について——。」
白石はしばらく黙った後、ニヤリと笑った。
「……お前、面白いことに足を突っ込んでるな。」
そして、タクトは“デジタル・ダイブ”という言葉を初めて知ることになる——。
*
「……デジタル・ダイブ?」
タクトの問いに、白石ナオは静かにうなずいた。
「聞いたことないか? 人間の意識をデジタル空間に転送する技術のことだよ。」
「そんなの、SFの話だろ?」
「今はな。でも、理論上は不可能じゃない。」
ナオはモニターに映し出された複雑なコードを指さした。
「昔、ある企業が“電子意識保存”の実験を行っていた。人間の脳波をデジタル信号に変換し、仮想空間に保存するってやつだ。」
「……そんな研究が、本当に?」
「公式にはすべてのデータは破棄されたことになってる。でも、裏ではまだ動いてる。」
ナオはカチカチとキーボードを叩き、あるファイルを開いた。
画面に表示されたのは、ひとつのコードネーム——
「Project SAORI」
タクトの心臓が跳ね上がる。
「……Saori?」
「偶然とは思えないだろ?」
タクトは画面に食い入るように見つめた。
もしこれが、早織と関係があるのだとしたら——
彼女は、本当にデジタルの世界に囚われているのではないか?
「お前、これを調べるつもりか?」
ナオが鋭い目を向ける。
「……俺は、早織を助けなきゃならない。」
タクトの決意を感じたのか、ナオはため息をついた。
「やれやれ……相変わらず無茶するな、お前は。」
ナオはキーボードを叩き、タクトのスマホに何かのプログラムを送信する。
「これを使え。俺が作った“ゲート”だ。」
「ゲート?」
「簡単に言えば、仮想空間にアクセスするための鍵みたいなもんだ。ただし——」
ナオは真剣な目で言った。
「どこに繋がるかは、俺にもわからない。」
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