キミと走る明日を -ゴースト・イン・ザ・メモリー-

たとえ、もう2度と会えなくなるとしても
平木明日香
平木明日香

デジタル・ダイブ

第4話

公開日時: 2025年2月10日(月) 23:35
文字数:779


 タクトはスマホの画面を見つめながら、深く息を吐いた。


 (……もし、本当に早織がデジタルの世界に囚われているとしたら?)


 ありえない。

 いや、ありえないはずだ。


 だが、あのメールは何だ?

 なぜ「Saori」という署名があった?

 そして、なぜ病室で彼女の心拍が一瞬だけ乱れた?


 疑問が積み重なり、タクトの中の「常識」が揺らぎ始めていた。


 (……やるしかない)


 タクトはスマホを手に取り、早織からのメールを開いた。


 画面をスクロールする。


 すると、いつの間にか、そこに新たな一文が加わっていた。


 「鍵は、私たちの“約束の地”にある。」


 「——約束の地?」


 タクトの脳裏に、ある記憶が蘇る。




 それは、まだ幼かった頃のこと——



 「ねえ、タクト。もしどこかに、ふたりだけの世界があったら、行ってみたいと思わない?」


 「ふたりだけの?」


 「うん。誰にも邪魔されなくて、時間も止まってて……永遠に一緒にいられる場所。」


 「そんな場所、あるのかよ?」


 「あるよ!」


 早織は無邪気に笑いながら、ノートの一ページを破り、地図のようなものを描いた。


 そこには、適当な線が引かれた円と、**「約束の地」**という言葉が記されていた。


 「ここに行こうよ。いつか、ふたりで。」


 「バカみたいだな。」


 「バカじゃないもん!」


 「じゃあ、行く方法は?」


 「……それはね、未来の私たちが考えるの。」


 「未来の俺たち?」


 「うん。だから、タクト。絶対に忘れちゃダメだよ。」



 (……まさか)



 タクトは部屋の棚を漁った。

 何年も前の、色褪せたノートを見つけ、ページをめくる。


 そこにあった。


 幼い字で書かれた、歪な円。

 そして、その中央には——


 「約束の地」


 「……本当に、あったのかよ。」


 早織は、ずっとこの場所のことを覚えていたのか?

 事故に遭い、意識を失った後も?


 「これが……“鍵”?」


 タクトはスマホを握りしめた。


 行く方法を、探さなければならない。


 彼女が待つ、その世界へ。

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