タクトはスマホの画面を見つめながら、深く息を吐いた。
(……もし、本当に早織がデジタルの世界に囚われているとしたら?)
ありえない。
いや、ありえないはずだ。
だが、あのメールは何だ?
なぜ「Saori」という署名があった?
そして、なぜ病室で彼女の心拍が一瞬だけ乱れた?
疑問が積み重なり、タクトの中の「常識」が揺らぎ始めていた。
(……やるしかない)
タクトはスマホを手に取り、早織からのメールを開いた。
画面をスクロールする。
すると、いつの間にか、そこに新たな一文が加わっていた。
「鍵は、私たちの“約束の地”にある。」
「——約束の地?」
タクトの脳裏に、ある記憶が蘇る。
それは、まだ幼かった頃のこと——
「ねえ、タクト。もしどこかに、ふたりだけの世界があったら、行ってみたいと思わない?」
「ふたりだけの?」
「うん。誰にも邪魔されなくて、時間も止まってて……永遠に一緒にいられる場所。」
「そんな場所、あるのかよ?」
「あるよ!」
早織は無邪気に笑いながら、ノートの一ページを破り、地図のようなものを描いた。
そこには、適当な線が引かれた円と、**「約束の地」**という言葉が記されていた。
「ここに行こうよ。いつか、ふたりで。」
「バカみたいだな。」
「バカじゃないもん!」
「じゃあ、行く方法は?」
「……それはね、未来の私たちが考えるの。」
「未来の俺たち?」
「うん。だから、タクト。絶対に忘れちゃダメだよ。」
(……まさか)
タクトは部屋の棚を漁った。
何年も前の、色褪せたノートを見つけ、ページをめくる。
そこにあった。
幼い字で書かれた、歪な円。
そして、その中央には——
「約束の地」
「……本当に、あったのかよ。」
早織は、ずっとこの場所のことを覚えていたのか?
事故に遭い、意識を失った後も?
「これが……“鍵”?」
タクトはスマホを握りしめた。
行く方法を、探さなければならない。
彼女が待つ、その世界へ。
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