「……早織……なのか?」
目の前の少女は、確かに早織だった。
病院のベッドで眠っていたはずの、彼女が。
だが、何かが違う。
透き通るような肌。
淡い光を纏うような輪郭。
まるで、ここに存在しているのに、完全には「現実」ではないような——そんな不安定な気配。
「やっと……来てくれたんだね。」
早織は微笑んだ。
「どうして、ここに……? 本当に、お前なのか?」
タクトは混乱しながらも、必死で問いかけた。
「私にも、よくわからないの。でも……私の意識は、この世界にいる。」
「お前の体は、病院にあるんだぞ……!」
「うん……知ってる。」
早織は、悲しそうに目を伏せる。
「……私は、もうすぐ消えるの。」
その言葉に、タクトの心臓が締めつけられる。
「何を言ってるんだ……!? 俺は、お前を助けに——」
「違うの、タクト。」
早織はそっと首を振った。
「助けるんじゃなくて、最後の約束を果たすために来たんでしょう?」
タクトは息を呑んだ。
最後の約束——?
(そんなの、俺は……。)
だが、その瞬間。
脳裏に、幼い頃の記憶がよみがえった。
「約束の地に行こう。いつか、ふたりで。」
それは、ずっと忘れていたはずの言葉。
(……俺たちは、約束を交わしていた……?)
「……もう、時間がない。」
早織の体が、微かに透け始める。
「……っ、待て!」
タクトは思わず早織の手を掴もうとした——
だが、その瞬間——
世界が、崩れ始めた。
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