*
「なあ、タクト。そろそろ学校来いよ」
昼休みのコンビニ前。
タクトは自販機の缶コーヒーを片手に、向かいのベンチに座る友人の岸本修司を見やった。
「……悪い。もう少し」
「早織のこと、だろ?」
その名前を聞いた瞬間、タクトの胸に鈍い痛みが走る。
龍野早織。幼馴染であり、家族のように近い存在だった。
二ヶ月前、柔道の合宿中に事故に遭い、植物状態になった。
「俺は、待つって決めたんだ。あいつが目を覚ますまで」
「……けど、そんなことしても、早織が喜ぶとは思えねえけどな」
タクトは無言でコーヒーを飲んだ。
修司はため息をつき、諦めたように肩をすくめる。
「ま、好きにしろよ。ただ、誰かに相談しろよな」
「相談って……何を?」
「お前、最近様子おかしいぞ。夜も寝てねぇんじゃねえか?」
タクトは答えなかった。
夜、スマホの通知が鳴るたびに胸がざわつく。
何度削除しても、**「私を助けて」**は送られてくる。
(いったい、誰が……?)
その夜、タクトはついに「ある事実」に気づくことになる。
メールが届くのは、早織が事故に遭った時刻と同じ、夜の10時23分だった。
そして、その日——
メールには、初めて**「ある名前」**が添えられていた。
「私を助けて ——Saori」
タクトの指先が震える。
思考が追いつかない。
(……嘘だろ?)
植物状態のはずの早織から、メールが届いている?
理解を拒む脳をよそに、タクトの心臓は激しく鼓動していた。
何かがおかしい。何かが、始まろうとしている——。
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