楽しみだったパーティープレイでの戦いの筈が……
戦闘前に決めたマイルール。
『誰一人、かすり傷さえ負わずに終わらせる――――』
を念頭に置いて、巨大オークの透明壁のスキルを解除する。
ユーアに透明壁のスキルは2個使っている。
なので今の私の手持ちは『 』機。
この残った『 』機と、私自身の培ってきたプレイヤースキルで、全員を完璧に守り切ってこの巨大オークを全員が無傷で封殺してやる。
「よし、解除したよっ! みんな警戒してっ!!」
私はすぐさま、3機を円の形にして展開する。
まずは防御して力量を図ろう。
『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!』
巨大オークは、やっと解放された喜びなのか、それとも怒りなのか、空気がビリビリと震えるような雄叫びを私たちに浴びせる。
まあ、絶対に後者だろうけど。
その瞬間。私の後方より――
「う、う、なんだこれはァァッ!!!!」
「うぐぐぐっ!!」
「ク、クレハンさんっ!!」
苦しみと痛み、そして悲鳴を上げる声に、私は即座に反応して振り返る。
私は一番近くの苦しそうに呻いているルーギルを見る。そして口を押えているユーア。更に持ち場にうずくまって、肩を抑えているクレハンを見つける。
「ちょ、ちょっとどうしたの、みんなっ! なにかに攻撃されたのっ!?」
そんな三人の様子に、私は慌てて声を掛ける。
私には何も影響なかったけど見えない何かの攻撃があった!?
あの叫び声に何かの攻撃が含まれていたっ!?
私はみんなを透明壁で覆ってその様子を見る。
その際にアイテムボックスより『RポーションL』を取り出しておく。
死なない限り何があっても大丈夫なように。
「じょ、嬢ちゃんッ!」
「ど、どうしたのっ! ルーギルっ!」
「スミカお姉ちゃんっ!」
「ユーアっ!」
は、よく見たら空中の透明壁で大丈夫そう。
「ス、スミカさんっ!」
「ク、クレハンっ!」
「ふ、二人とも一体どうしたのっ!?」
体を抱いて苦しんでいるルーギル。そして肩を抑えて蹲っているクレハンに、悲鳴にも似た声でそう問いかける。
絶対に守るって決めていたのに。
なんだって開始早々こんな事に――――
「じょ、嬢ちゃんに貰った薬が、か、体がァ、チカラがァ、抑えきれねえッ!」
「へっ!?」
「ス、スミカさんに借りた武器を使ったら、か、肩が外れましたぁ!」
「はぁっ!?」
えええええっ――――!!
『そ、それって…………』
ルーギルは「ブーストアップα」が予想以上に効きすぎた?
クレハンは「スペツナズ・ナイフ∞」の射出のリフトで肩が外れた?
『誰一人かすり傷さえ追わずに戦いを終わらせる』
その光景は私が決めたそんな『マイルール』が、
敵と戦ってもいないのに一瞬で破られた瞬間だった。
これって私が悪いのぉ!?
「………………終わった」
そう言って私は力なく地面に膝をつく。
『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!』
ガンッガンガンガンッ!
何やら自由になった巨大オークが、私たちを覆っている透明壁を攻撃しているが、そんなものは気にならない。
この世界で、ある意味初陣に近いパーティープレイは、私がフラグを立てたせいで、最悪の始まりとなってしまった。
私は守る事が出来なかったのだ。
『うううっ…………』
二人のメンバーを。
そんな下を向き、落ち込む私に…………
『スミカお姉ちゃんっ! 立ってっ! 立ち上がって戦ってっ! ボクがまだいるからっ! ルーギルさんたちの為にも戦おうよっ!』
「えっ?」
肩を落として地面ににうずくまって『の』の字を書いている私に、空中から私を奮い立たせようとするユーアの力強い声援が聞こえる。
だけどユーア、私は――――
「だってユーア。私は誓ったんだよっ! メンバー全員が無傷で戦闘を終わらせられるように私が守るってっ! そ、それなのに、どうしたらっ! 二人はもう帰って…… ごめん二人ともっ!」
縋るようにユーアを見上げて、私の想いを伝えそして懺悔する。
(ってオイィッ!俺らまだ――――)
(ええっ!わたしまだ戦え――――)
『スミカお姉ちゃん。この世に絶対はないんだよっ! それよりも今はっ』
そう言ってユーアは立ち上がる。
そしてその小さい拳を握り一歩片足を前に出す。
『二人の仇を討つのが、今のボクたちの使命なんだよっ!』
「えっ? ユーア?」
そう力強く言い切った。
その姿の後ろには、眩しいほどの光が射していた。
そう。
その姿まるで――――
「わ、わかったよ天使ユーアさまっ! 私はまだ戦えるっ! そして二人の為にっ!」
私は地面に書いていたたくさんの『の』の字を消す。
そして立ち上がり未だに透明壁を殴っている巨大オークを睨みつける。
その憎い仇を倒すために。
「そこで待ってろっ! 巨大オークっ! 今私がお前を滅殺してやるっ! それを二人の手向けにするんだっ! それでこの戦いはお終いだっ!!」
そう。
私の手で全てを終わらせるんだ。
「ってオイッ! さっきから何をブツブツ言ってんだァ? 嬢ちゃんよォ」
「スミカさん、どうしたんですか? 突然しゃがみ込んで地面に何か書いてましたが」
「ねえ、スミカお姉ちゃん。あのオークもの凄く怒ってるみたいだよ?」
「…………ああ。ごめんね。ちょっと落ち込んでいたんだ」
私は衣服に付いた汚れを払って立ち上がり三人を見る。
因みに汚れは付いていない。
装備のお陰でいつでも新品同様だ。
さっきのあれは、現実逃避した私が見た幻覚だろう。
「ま、まあ、それはいいんだがよォ。俺たちが死んだみたいに言ってなかったかァ?」
「そ、そうですよね、なんかそう聞こえましたよ」
「ボクなんか、天使になってたよぉ」
「………………」
なんか三人の視線が痛い。
私はそんな三人の視線から逃げるように、
「そ、そんな事はいいから、早くアイツを倒しちゃおうッ!………… あれ? ルーギルはもう大丈夫なの? それとクレハンも?」
早口で捲し立てて二人の様子を確認する。
「ああ。 なんか少したったら落ち着いたぜッ。それにしてもスゲエなァ! この薬はよォ!」
「ええ。わたしはスミカさんから貰った回復薬を飲みましたから。次からナイフを射出する時は、もう少しきちんと構える事にしますよ」
「そ、そう。それなら良かった」
よしっ! これなら二人とも大丈夫だ。
『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!!!』
ガンッガンガンガンッ!
そんな私たちの近くでは、巨大オークが透明壁を叩き、その存在をアピールしてくる。
まぁ、こんな寸劇を目の前で見せられたら、誰だって我慢できないもんね。
「それじゃ、今度こそ奴と戦うから気合入れてねっ! 解除するよっ!」
「オウッ!」
「はい」
「うんっ!」
「なんだけど、その前に――――」
私は透明壁をしつこく殴打する巨大オークを睨む。
「そこにいると邪魔だからぶっ飛ばすっ! あといい加減しつこいっ!」
そう言い放ち、スキルのレベルの上がった透明壁をオークに叩きつける。
「ふんっ!」
ドッゴォ――――ンッッ!!!!
『グゴァッ!!』
一撃をまともに喰らった巨大オークは、短い悲鳴を上げて真横に飛んでいく。
ドガンッ ドガンッ!
と廃屋であった、家1軒分の壁をぶち抜き。
ゴガンッゴガンッ!
更に2軒目もぶち抜き。
ドゴォォ――――ンッ!!
『ブグォ――――ッ!?』
真横に吹き飛んだその巨体は、3軒目の壁の激突でその動きを止めていた。
それを間近で見ていた三人は、
「なあッ!!」
「はぁっ?」
「えええ――――っ!!」
その光景を目の当たりにし、驚愕の表情で、オークの飛んでいった方向を目で追い駆ける。
「よしっ!」
私はその威力に、小さくガッツポーズをする。
予想してたように私のスキルは大幅にパワーアップしたようだ。
なんせ今回はレベルアップにかなり苦労したからねっ!
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