剣も魔法も使えない黒蝶少女、異世界でも無双する?

引き込もりゲーマーが異世界でもやりたい放題
べるの@
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お肉屋さんに惨敗する少女

公開日時: 2021年2月16日(火) 20:19
更新日時: 2021年2月16日(火) 20:22
文字数:3,650

オオカミの魔物の着ぐるみをきていた男性が『ログマ』さん。

 鳥の魔物の着ぐるみを着ていた女性が『カジカ』さん。


 なんで魔物の着ぐるみ着てたって?


 その訳は、ノコアシ商店と同じような理由だった。


 ライバル店がひしめく、この街の中の商売で生き残るのには、品揃えや価格も大事だが、それだとイタチごっこになり、競合同士で疲弊するだけ。


 なので、何処にも真似できない店の個性を出した方がいいらしい。

 要はインパクトが大事だとの事。


 これなら潰し合いにもなりづらいし、価格の暴落にも繋がりづらい。

 そんな訳で、ニスマジのお店に続いて、この店もそうだっただけの事。



 そんなログマさんは、ここの店主で、1階の肉の精肉と販売を。

 カジカさんは、ログマさんの奥さんで、2階の食堂で働いている。

 忙しくない時間はお互いに手伝って切り盛りしてる。


 それとユーアが冒険者の前に、繁忙期だけ雇ってもらった事がある。


 子供ながらに真面目に働いているユーアを夫婦揃ってかなり気に入り、お給金の他にも賄い飯と称して、売り残りではあるが高級な部類の肉を食べさせてたようだ。


 多分ユーアが非常に肉好きになったのは、ここの餌付けの影響が大きいのではないだろうか。


 普通の子供では滅多に食べられない高級肉をホイホイ与えられたら、そりゃ肉の虜になっても仕方ない。


 この街にきて話をしたのは数人だけど、ノコアシ商店の『ニスマジ』といい、ここの『ログマさん』と『カジカさん』もユーアを懇意にしてるように見える。


 ユーアの性質でこの世界では行き辛いと、私はそう思っていた。


 けど、この人たちのようにユーアの危うさを理解してくれて、時には気にかけてくれる存在がいる事に私は嬉しく思い、そして頼もしく感じた。



 しかし――――


 これって、ヤバくないっ!?


 相思相愛(自称)の私たちに、ライバルが存在する事がわかったからだ。

 ニスマジはなんとかなるとして、トロノ精肉店の二人は非常にヤバい。


 何がヤバいかって?


 ユーアは完璧に胃袋をこの二人に捕まれているのだっ!

 そう、肉が夢に出るくらいに。


 これ以上ユーアをここの肉の虜にさせないためにも

 何らかの策を練らねばならない。


『まずは、ここから遠ざける事だっ!』


 そう。


 作戦の第一として、先ずはここから離して私が美味しい手料理をもてなして、逆にユーアの胃袋を奪い返してやるのだ。


「ユ、ユ~ア。 他も見てみたらいいんじゃない? 外で美味しそうな串焼売ってるお肉屋さんもあったよね? ねっ?」


 私はあくまでもそう自然に切り出す。


「えっ! スミカお姉ちゃんここのお店がいいよぉっ? だってログマさんのお肉は新鮮で珍しいお肉もたくさんあるんだよぉ?」


 そんな私の提案にユーアは涙目になって懇願してくる。


『くっ』


 ここで『うるうるモード』発動。


「それに、ここはボクがお世話になったお店なんだっ!」


 今度は両手を胸の前で合わせて、上目使いに見てくる。

 しかも目尻に涙が落ちないギリギリ溢れて光っている。


『ぐはぁ~っ!?』


 更にうるうるモードがパワーアップ。


 こ、このままでは我が軍が。


「…………そうだよねっ! ユーアもお世話になったお店だもんねっ! せっかくだから、ここで買いましょうっ! 私も大賛成だよっ!」


 私は速攻で白旗を上げた。

 あんなユーアになんて敵いっこない。



「ま、負けたわ。さあ、存分にお肉を売ってちょうだいっ!」


 私は店主のログマさんにそう伝えた。

 時には相手の実力を認めることも大事なのだ。


「……何に勝ったのか、よくわからんが買ってくれるなら歓迎するぞ」


 店主のログマさんは何かおかしな物を見る目でそう言った。


「う~ん、なんか服装もだけど変わった子ね? まあユーアちゃんが連れてくるんだから、いい子なのは間違いないでしょうけど」


 奥さんのカジカさんは、何となくだけどフォローしてくれた。


「…………くっ」


 いいんだ。今はいい。

 私はきっとまだ強くなる。

 今回の敗北を糧にして成長する。


『あっ。 ユーアにもてなしって思ってたけど、私って?』


 そもそも料理できないや。

 せいぜいレーションをお皿に並べるくらいしか。



「それでスミカだったか? いったい何の肉を買うんだ? お勧めは今朝捌いたばかりのフォレストラビットの肉だが。あ、後はホワイト――――」


 下を向いて落ち込んでいる私にそう声を掛けてくる。

 きっと私が諦めたと思って油断しているだろう。


 だが私はまだ死んではいない。

 さっきまでフリをしていたからだ。


 何故なら――――


「この……ちょうだい」

「ん?」


「この店のお肉全部売ってちょうだ――――いっっ!!!!」


「はぁ?」

「えっ?」

「へっ?」


 両手を広げてそうログマさんに叫ぶっ! 

 私はまだ勝負を諦めてなかったっ!

 虎視眈々と逆転のチャンスを伺っていたのだっ!


 ユーアが好きなのはここのお店の肉だっ!

 ならその全てを手に入れた者が勝者になるのだっ!!

 料理なんて関係ないっ!


『わ、はははははっ!!』


 私は着けてもいないマントを翻すように片手で払う。

 もう片手は顔を半分隠すようにして相手を見る。


『か、勝ったあぁっ!』


 勝利の余韻に浸る前にユーアとこの勝利を分かち合いたい。

 そう思い、ユーアに視線を這わせる。


「……スミカお姉ちゃん何を言ってるの?」

「えっ?」


 そこには蔑んだ目で私を見つめるユーアがいた。

 しかも小さく「はぁ」て溜息まで聞こえてくる。



「すまんな。全部は無理なんだ。売れるのは嬉しいが、他にも買いに来る客がいるからな」

「クスクス、本当に変わった子ね。面白いわ」


「ご、ごめんなさいログマさんとカジカさんっ! スミカお姉ちゃんボクがお肉好きなの知ってるから……それでねっ!」


「ああ、何となくわかる。スミカはユーアの為に買ってあげたかったんだろう」

「そうね、スミカちゃんユーアを見てる目が優しかったからね、お互いに」


「………………くっ」


 またもや私の完全敗北だった。

 しかもユーアに謝らせてしまった。


「もう完全に負けました。 とりあえず売れる分だけ売ってください。お願いします。ユーアの為に買いたいんです……」


 私にもう戦う気概がない。

 敗者になったのだ。完膚なきまでにやられたのだ。

 だから敗者は勝者に頭を下げるのだ。



「……なら売れる大体の見込みから、残りそうな分だけ売ってやる。そう気を落とすな」


 ポンポンと慰めるように優しく肩を叩くログマさん。


「それと、前もって言ってくれればその分の量を仕入れてくるからな」

「そう、ありがとう。その時はよろしくお願いします」


 私は素直にお礼を言う。


「スミカお姉ちゃん、どうするの?」

「ユーアが好きな肉を選んで、ログマさんに聞いて売れる分だけ売ってもらっていいよ」

「はい、わかりましたっ! ログマさんお願いしますっ!」


 ユーアはログマさんを連れて肉を見ている。

 私はそれを無表情で眺める。


「ユーアちゃんはいい子でしょう? 真面目だし思いやりもあって」

「はい」


 荒んだ私にカジカさんが話しかけてくる。


「ただね、心配なのはあの子は他人に優しいけど、自分には無頓着なのよね……」

「そう、ですね」


 やはりカジカさんでも同じ事を考えている。

 ニスマジや、私と同じように。


「だから、珍しいと思っちゃったのよ。ユーアちゃんがあなたに甘えてる感じがして」


「そう、でしょう……か?」


「んー、少なくとも、わたしにはそう見えたってだけ。 あの子本能的に少し距離を置いてるところがあるの。それがあなたとは距離が近いっていうか、親密っていうか、そんな風に見えたの」


「そうだったら嬉しいですね。 私は色んな角度から、ユーアを守るって決めていますので」


「あなたもユーアちゃんが大事なのね? わたしたちも気にかけているけど、旦那が『何でも押し付けて与えてはユーアの為にならない。 もし頼ってきたら助けるのは大人の義務だ』て言ってるの」


「そうだったんですか……」


「だから、わたしたちに助けが来る時までは、ユーアちゃんをよろしくね」


 最後ニッコリと微笑んで私にそう伝えてくる。


「はい心配しないでくださいっ! ユーアは私の妹みたいなものです。 妹を守るのは姉の務めなので」


 私も微笑みを返しながらそう返事する。



「スミカお姉ちゃんっ! お肉いっぱい売ってもらったよぉっ!」


 満面の笑みを浮かべるユーア。

 その後ろにはログマさんが歩いてくる。


「まあ、少し売り物が足らなくなりそうだが、そん時はそん時だ」


 何だかんだ言って、ログマさんもユーアに甘いらしい。

 喜ぶユーアを苦笑しながら撫でていた。



「それじゃ二人ともありがとうございます。また買いに来ますね」

「ログマさん、カジカさん、ありがとうございましたっ! またスミカお姉ちゃんと来ますねっ!」


「ああ、また来いよ」

「うん、待ってるわよっ!」


 そうして二人に一礼してユーアとトロの精肉店を出た。


「いい人たちだったね」

「うん、ボクの事も前から優しくしてくれたんですっ!」



 そんなこんなでもうそろそろお昼。


「ユーア、今度は屋台たくさんある所に案内して」

「はいわかりましたスミカお姉ちゃんっ!」


 ユーアはいつものように私の手を引いて歩いていく。

 その小さな後姿は嬉しそうに弾んでいた。

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