「結構遅くなっちゃったけど、ユーア、もう待ってるかな?」
人気の少ない通りにストンと降りて小走りで向かう。
街から若干離れたところにある孤児院は、灯りも届かずに周りは薄暗くなっている。
私は昨夜レストスペースを出した雑木林の前の空き地へと向かう。
「あっ! その前にユーアが帰ってきているか見てみよう」
元々ユーアが住んでいたテントの中を覗いてみる。
「うん? まだ戻ってきてないなぁ」
テントの中はもぬけの殻だった。荷物も何もなかった。
ユーアもマジックポーチを持っているから全部その中だろう。
私は雑木林の前に戻って、レストエリアを設置する。
「よし、周りには誰もいないね」
確認して中に入り、誰もいないリビングの床に座り込む。
「ふう~、今日も色々あったね。防具のお陰で身体的な疲れは殆どないけど、気を張ってたから疲れちゃった」
ユーアまだかなぁ?
アイテムボックスより、屋台で買った果実水を飲みながら脚を伸ばす。
「あっ! そういえばキチンと確認してなかった」
ふと思い出しステータス画面を出す。
Cランクの冒険者の4人をボコった時に、レベルが上がっていたのを忘れていた。
――――
スキル1 【透明壁LV.3】
任意の図形に変更可能
任意の距離、 0-25メートルの範囲で設置可能
任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能
任意の数 最大5箇所
――――
「おお~っ!」
かなりパワーアップしてたよ。
一番の変更は『任意の図形に変更可能』かな?
今までは四角の立方体しかできなかったのが、ギルドのルーギルの前で展開したように『円柱』や『円錐』『三角錐』など他にも種類が増えた。
特に『錐』などの図形は、飛ばせば投げ槍に、
装備すれば通常の槍にも使える。
「ただ、投げ槍にするにはちょっと難しいかな?」
射程が25メートルしかないから、使いどころが難しそう。
あと最大の変更はなんといっても『最大5箇所』に設置だね。
もうこれ、なんでもありじゃない!?
攻撃、防御、移動、トラップに使ってもまだ余るし。
ただ『任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能』
は、今のところあまり使い道がない。
ってか、そんな巨大な敵なんて滅多にいないしね。
「あ、でも――――」
私は一度外に出てレストエリアを確認する。
「これならいけるかも……」
うんうん、と頷いて一人満足する。
※
「あ、スミカお姉ちゃん帰ってきてたんだっ!」
「ん?」
レストエリアを眺めていると、トテテと駆けてきて抱き着いてくるユーア。
「おかえりユーア。孤児院は大丈夫だった?」
「う、うん、大丈夫だったよ……」
「そう? なら家に入ろうか。今夜は私が料理作っちゃうから」
「えっ? スミカお姉ちゃん、お料理もできるのっ!? 凄いよっ!」
ユーアがなんかキラキラした目で見ている。
「…………ま、まあ、あまり期待しないでね?」
「え? う、うん」
二人で家の中に入っていく。
「おっと忘れるとこだったよ」
レストエリアにスキルを展開した。
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「スミカお姉ちゃん美味しかったっ! ごちそうさまでしたぁっ!」
私が作った料理に、味も量も満足したユーア。
今はニコニコと果実水を飲んでいる。
「うんっ! ユーアが喜んでくれて良かったよ」
笑顔のユーアを撫でながら『高級素材と調味料は偉大だねっ!』
そう心の中で絶賛する。
だってちょっと焼いただけなのと、ちょっと塩コショウして、ちょっと付け合わせの野菜を乗せただけで、それで美味しくなっちゃうんだから。
これでまた私に対する『お姉ちゃん株』が上がったことだろう。
「それじゃ、明日も早いからお風呂に入って寝ようか」
「やった~っ! おっふろ、おっふろっ! え~と……」
ユーアはお風呂コールをしながら、マジックポーチからタオルとパジャマと下着を出して抱えて待っている。やっぱり女の子だね。
お風呂が好きになったみたいだし。
私も今日購入した物をだして、洗面所に向かう。
「今日はボクがスミカお姉ちゃんを洗ってあげるねっ!」
「そう、ありがとう。それじゃお願いするね」
「うんっ! 任せてっ!」
私とユーアは楽しくお風呂に入って、購入した布団で眠りについた。
※※
「――――――きてっ!」
「うん?」
グラグラと体が揺れている。
私は薄く瞼を開ける。
「う、うん?」
まだちょっと薄暗い。
なんだ、まだ昼じゃないの。
私は再び瞼を閉じる。
「――――――ちゃん、起きてっ!」
「うっ!?」
今度はお腹に重みを感じ、そして両手が引っ張られる。
「スミカお姉ちゃん、起きてっ! もう明るくなっちゃうよぉっ!」
「……………………誰?」
「ボクだよっ、ユーアだよぉっ! スミカお姉ちゃん、早く起きてっ!」
「………………冗談だよ。もうとっくに起きてたよ」
目を開けてみると、私は脚を伸ばして上半身だけ起こしている。
恐らく体を起こす途中だったのだろう。
「ほらね? 私起きてるでしょう?」
自分の状態を見て、両手を広げて起きてるアピールする。
「それ、ボクがスミカお姉ちゃんを引っ張って起こしたんだよぉっ! いいの? メルウちゃんの所に行くんでしょっ!」
「え?」
ああ、そうだった。今日は作戦決行の日だ。
「ユーア、まだ時間はあるから、シャワーと朝食を先にしようよ」
「え? スミカお姉ちゃんがそう言うなら」
私とユーアは、先にシャワーを浴びて目を覚ます。
朝食は、ユーアがキッチンを使って用意をしてくれた。
昨日買ったユーア用のエプロンを着けて。
朝食の献立は肉野菜炒めで美味しかったけど、9割は肉だった。
いい加減肉嫌いになりそう。
『う~ん、明日からは私だけはレーションだけでいいかな?』
朝からボリューム満点の肉料理はちょっと、ねぇ……
あ、でも私があまり食べないと、ユーアが遠慮しちゃうかな?
なんて考える。
『ただユーアは育ちざかりだし、今まで好きなものを食べてこれなかった分、食べさせてあげたいしね……。なんかいい言い訳を考えておこう』
小さくて線の細いユーアを見ながら、いつもの装備に着替える。
「ス、スミカお姉ちゃん。準備できた、よ?」
着替えが終わったユーアは頬を赤く染めモジモジしている。
ユーアは昨日私がプレゼントした、白のワンピースを着ていた。
「こ、こういうの着たの初めてだから、そのぉ、似合う、かな?」
目をうるうるとさせて、上目遣いで聞いてくるユーア。
タタッ
ガバッ!
「ちょ、ちょっと、スミカお姉ちゃんっ?」
「んんっ! ~~」
そんなユーアに我慢できる訳もなく、抱きしめて頬ずりをする。
『むふぅ~っ!』
ムギューッ! スリスリッ! スリスリッ!
「や、やめてよぉ! シワシワになっちゃうよぉ! スミカお姉ちゃんに貰ったお洋服なのにっ~!」
ジタバタと私の腕の中で暴れるユーア。
それを無視し、数十秒堪能した後ゆっくり離れる。
「ふう、ごちそうさまユーア。とっても似合ってるからねっ!」
「う、うん、ありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」
ユーアは私に褒められて、屈託のない笑顔で喜んでいた。
買って上げて良かったよ。
本当は『高い高い』の予定だったけど、レストエリアではできなかった。
※
玄関口でユーアは昨日買ったばかりのクツを出し履いている。
そういえば昨日まで裸足だった。
ユーアはつま先を「とんとん」と鳴らして履き心地を確かめているようだ。
「どう、ユーア大丈夫そう?」
「うん、足にぴったりだよっ!」
今度は「ピョンピョン」とジャンプしている。
「サイズがあって良かったね。それじゃ行こうか」
「うんっ!」
ユーアが先頭に玄関を出て行く。
ごんっ!
「きゃっ!」
「あっ!」
その途中、ユーアは何かにぶつかったようで短い悲鳴を上げる。
「あれ? これってもしかして、スミカお姉ちゃんの魔法?」
ユーアはおでこを抑えながら聞いてくる。
少しだけ涙目だ。
「あ。ごめん、ごめん。今、解除するね」
ぶつけたユーアのおでこを撫でながら謝る。
そうそう、LV.3になって、範囲の広がった透明壁スキルで、レストエリアを覆って、保護色に着色したんだっけ。
前よりかは見つかりずらいけど、流石に近づきすぎたらバレてしまう。
でも、無いよりはずっといいだろう。
私とユーアは二人、いつものように手を繋いで繁華街を目指して歩く。
商店街を抜け、繁華街に近づくにつれ、店の開店準備やそれを待つ人々で喧騒が大きくなってくる。
「お? いたいたっ! そこの『ちょう』の嬢ちゃ~~んっ!」
「??」
「えっ?」
通りを歩く私たちの後ろから、見知らぬ声が聞こえる。
『超』? 一体どんな女の人よ、それは。
超が付く程の美人さん? とかかな?
『それじゃ私は関係ないや……』
聞こえないふりをしてユーアと歩く。
「お~いっ! そこの羽根生えてる嬢ちゃんだよ――っ!」
「へっ!?」
え、超美人で羽根が生えてるって………… 天使さま?
「…………多分、スミカお姉ちゃんのことだよぉ……」
ユーアが私に向いてそう伝えてくる。
「え、私っ?」
なんで?
声のした方に振り返る。
「はぁはぁ、やっと気付いてくれたか、ちょっと話があるんだ、はぁはぁ」
そんな男は、両膝に手を掛けて息を整えている。
『……あれ?』
この人って確か、街に入った時の門兵じゃない?
街へ入る為の登録してくれた。
それにしても――――
「…………あなたにとって私が天使に見えるからって、朝から少女をナンパするなんて感心しないよ」
そんな門兵の男に冷たく言い放つ。
「なんぱ? はぁ、なんのことだ? それに天使だとっ!?」
この期に及んで、まだしらばっくれている。
「だって、超美人で、羽根が生えてるんでしょう? それって天使じゃないの?」
「いや、美人がどこから出てきたのかわからないが、俺が言ってるのは『蝶』の『羽根が生えている』嬢ちゃんのことだっ!」
門兵の男は半笑いで、私の背中を指してそう言った。
「あ」
「あ、じゃねえよ、そんな目立つ服を着てて自覚がないのかよぉ……」
今度は薄い目で見てくる。
「スミカお姉ちゃん…………」
そして、隣のユーアも門兵と同じ目をしていた。
「そ、それで、私に何か用なの?」
そんなユーアの視線に耐え切れずに話を進める。
「おう、それなんだが。嬢ちゃんにある嫌疑が掛けられてるんだ。だからちょっとだけ話を聞かせてくれ」
門兵の男は、真剣な顔でそう言った。
「ワ、ワナイさんっ! スミカお姉ちゃんは悪い事なんてしないよっ!」
ユーアは何度も街の外に出ているからか、門兵と顔見知りのようだ。
そんな、ワナイにユーアは私を守るように前に立つ。
「私は大丈夫。ユーアありがとうね、後は私が聞くから。」
ユーアを撫でながら、安心させるように伝える。
『それにしても…………』
この街に来て、私二日目なんだけど、何かしたっけ?
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