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「よし。それじゃ、正体を確かめてみようか? このまま見つめてても何もわからないし。まずはここから出ないとね」
一人呟き、浮遊している人物の下より、腹ばいになりながら出る。
見るにしたって、なんにしたって、さすがに距離が近すぎる。
殆ど目の前だったからね。
「うん。出れた。どれ……」
地面から這い出た後で、脇に座って、その人物の顔に耳を近づける。
「すぴぃ…… すぴぃ……」
「……………………良かったぁ、生きてる」
ひとまずは安心し、ホッと胸を撫で下ろす。
だってその人物から、寝息らしき音が聞こえたから。
もし起き抜けに子供の遺体なんてあったらトラウマものだ。
それに私が関わっていたのかもしれないしね? この状況だと…………
他には性別も気になるけど、なんで目の前数十センチで浮いていたのかと、なぜスヤスヤ寝ていたのかも気になる。
ここがいつもの昼寝場所だったとは到底思えないし。
「ん~、まずは浮いている理由の種明かしからだね?」
寝ている人物の下の空間に、両手を差し入れ左右に振ってみる。
「お?」
スイスイッと、なんの抵抗もなく普通に動かせる。
ついでに上の空間も試したけど結果は一緒だった。
結論として、タネも仕掛けもなかっただけの事。
正直それが一番困る。
「え? どうやって浮いているの? ん~、他に考えられることは……」
手の平を頬に当て、しばし考える。
今までの状況を再確認し、最適な答えを導き出す。
「あ」
そして真っ先に出た答えが、
「もしかしてあれかな? 寝起きドッキリとか?」
最も可能性が低い、昔なにかで観た番組のコーナーの一つだった。
「いやいや、こんな引きこもりのゲームオタクな女に、わざわざこんな大掛かりな事しないって、そもそも誰得でもないし、こんな事で全国に素顔を見せたくないし。う~ん、だったら…………」
目の前の本人に聞くのが一番手っ取り早い気がする。
って言うか、それが最善。
ただこの子供を起こしたくない気持ちもあったりする。
私が悩んでいる間も、気持ちよさそうにスヤスヤ寝てるんだもん。
「それに、なんか小っちゃくて可愛い感じだね? この子」
可愛い寝顔と、横たわる小さい体を眺めてそう思った。
手も顔も体も足も色んなパーツが小さい。
そしていたる所がストレートな女の子だった。
それとまるで別れた妹みたいに、寝顔も天使の様だった……
「はっ!?」
いやいやっ、流石に起きてもらわないと困る。色々と聞きたいこともあるし。
ここが何処なのか、あなたは何者なのかも含めて確認しないとダメだし。
「ううう~ お、お腹が…………」
「え?」
暫く寝顔を見て悩んでいると、呻き声にも似た、苦しい寝言が聞こえてきた。
もしかして、何か悪い夢でも見てうなされているんだろうか。
それとも見えないだけど、どこかケガをしてしまったんだろうか?
「………………うん」
聞き逃さないようにもう一度、そっと耳を近づける。
すると、
「うう、もう、ボク――――」
小さな手をお腹に乗せて、一転して苦痛の表情に変わる。
「ちょ、ちょっと、大丈――――」
「――――もうボクお肉食べれないよーっ! お腹いっぱいなんだもんっ! あ、でもその部位は別腹だから、最後に食べるんだぁー、むにゃむにゃ――――」
そう言い終えて、また寝息を立てて静かになってしまった。
どうやら苦痛ではなく、満腹からでた呻き声だったようだ。
まぁ、それも苦痛と言えば苦痛なんだろうけど……
「ムカっ!」
ゴンッ!
「痛いっ!」
「あっ!」
思わず無言で、目の前に浮いている子供に頭突きをしてしまった。
だって私が心配した意味がないんだもん。
「い、いたいっ、痛いっ! ごめんなさいっ! もうデザートの部位はいらないから、ボ、ボクを許して下さいっ!!」
「部位? あっ、ご、ごめんなさいっ!?」
頭突きをされた子は、転がり落ちて、草むらの上をゴロゴロ転げ回っている。
額を抑えてちょっと涙目なのは、思いのほかいいところに入ったようだ。
「いっ、痛いよっ! 許してぇっ~~~~!!」
「ほ、本当に、ごめんねっ! わざとじゃないんだよっ!」
予想以上に痛がり、転げ回る子に慌てて謝る。
この場合は確実に私が悪い。
でも、それよりも気になることが、
『デザートが部位って何?』
そう、この子はさっき寝言で言っていた。
全然聞いたことないよ。
まぁ、お肉が好きそうなのは充分伝わったけど。
―
ひとまず会話ができそうな状態まで待ちながら、転げ回っている子を観察してみる。
「う~ん…………」
身長は多分、私よりも頭一つくらい小さいと思う。
髪はボサボサの灰色の髪が肩上まで伸びている。
全体的に色は白いけど、健康的は白さではない。
体型は、ボロボロの布切れ一枚を被って、腰ひもで止めている感じで見るからに痩せている。手足、膝も汚れている。そしてこんな森の中で裸足のまま。
「女の子? に見えるけどちょっとわからない。落ち着いたら聞いてみよう」
幸い寝言から発した言葉が理解できたから、言語は同じっぽいし。
「う、ううん、ボクどうしちゃったんだろう? あっ!」
「ご、ごめんねっ! 大丈夫だった?」
そう考えている内に、痛みが柔らいだのか、まだ額を抑えながらも涙目にこちらをみてきた。
そして一言――――――
「…………ボ、ボクの事を助けてくれてありがとうっ! お姉ちゃんっ!」
涙目から笑顔になって、元気よくお礼を言ってくる小さな子供。
「えっ!? 私が助けたの?」
「うんっ! だってボクお姉ちゃんの事見たもんっ!」
「そ、そうなんだ」
「うんっ!」
予期しなかったお礼の言葉に聞き返したけど、自信満々で肯定された。
『はぁ~ 今はもういいか。この子が無事だってわかった事が何よりだし。それよりももっと状況を把握しないとね。なら当初の予定通りにこの子に聞くしかないね』
ニコニコと屈託のない笑顔で、私を見つめる子と視線を合わせて口を開く。
「え~~と、私の名前は|透水 澄香《とおみず すみか》って言うの。あなたのお名前教えてくれるかな? あと女の子でいいのかな?」
「ボクはユーアって言いますっ! 女の子です」
私の問いかけに、シュピと手を挙げ笑顔で答えてくれた。
『ユーア』て名前で、やっぱり女の子だった。
それと問題なく言葉は通じるみたいで良かった。
そもそも、灰色っぽい髪の色だし、服装は貫頭衣だっけ? のような服装で裸足だし、まず私の周りではそんな恰好の人は見たことがなくて心配したけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「あのさ、最初に私を見て、助けてくれてありがとうって言ってたけど、ユーアちゃんはどうしてあそこにいたのかな?」
「ボクはあそこから足を滑らせて落ちちゃったんです。そしたら気を失う前にお姉ちゃんが見えたんです。おでこが痛くて起きたら、お姉ちゃんがいたので助けてくれたんだと思いました……」
「うん? が、崖から落ちたっ!? それと寝てたんじゃなくて気絶してたのっ!?」
「はい、あそこから落ちちゃいました」
私のいる後ろを指さして、落ちてきたであろう崖を見上げて「良かったぁ……ボク生きてたよぉ!」と小さな細い指で目尻を拭いながらポツりと呟いた。
なんでも崖の上(20メートルくらい?)で解毒の素材となるキノコを採取しようとしたところ、オオカミの魔物に追いかけられて足を滑らせて転落したらしい。
そして、落下先にいた私が受け止めて助けてくれたと思っているようだ。
『うん? それじゃこの子が浮いていたのは、この子とは関係ない?』
そもそもそんな力があったのなら、自分で助かっただろうし、私の上で気絶している理由もわからない。それとも本人が自覚していない未知なる力があるとか?
『ん、浮いてたって事は、透明な物の上に乗ってた可能性も? ――――ん?』
ふと目の前に違和感を感じ、一度考えを中断する。
それはユーアちゃんの話を聞いている最中も気になっていた。
いや、この見慣れない世界に来た時から意識していた。
ただそれに気付かないようにしていたし、あまり信じたくはなかった。
それを認識するという事は、今以上に混乱する恐れがあったから。
だけど、ユーアちゃんを助けた正体と、その方法を推測した時に、否が応でも意識してしまった。助けた物の正体とその能力に気付いてしまった。
眠る前にも、引きこもった後も、連日散々やりこんだ、某VRMMOの『メニュー呼び出しアイコン』が、私の視界の中に映っていたからだ。
『こ、これって―― やっぱ「あれ」だよね?――――』
無意識に震えてる指を、恐る恐るアイコンにそっと伸ばした。
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