パンツじゃないもんっ!
「それで、門兵さんは、私に何か用なの? ちょっと忙しいんだけど私たち」
私はちょっと怒気を含んだ声で言う。
「あー悪りい、ちょっと確認だけだから時間はあまり取らせない。あと、俺はこの街の衛兵の『ワナイ』だ。嬢ちゃんに会ったときは門の警備の日だったんだよ。覚えているだろう、俺の事?」
「うん、覚えてるよ。それで私が何かしたの?」
「街の人から通報があってな、昨日の夕方なんだが嬢ちゃん、屋根の上、走り回ってなかったか? そこの小さい嬢ちゃんをおぶって、悲鳴を上げながら駆け抜けていったってぇ話と、嬢ちゃん一人ってのも話があったんだが、どうなんだ?」
「!?」
「え!?」
私とユーアはお互いに顔を見合わせる。
二人とも「あっ」とした表情だった。
「サ、サア、シラナイヨ――」
私は目一杯の演技でしらを切る。
「そうか? だがなぁ『蝶のヒラヒラした格好』の少女との証言なんだが、流石に嬢ちゃんしかいないだろうよ? そんな恰好は」
「そ、それで、もし私たちだったらどうなるの? 牢屋に入れられるの?」
だとしたら速攻逃げる、かも。
「別に、誰かを傷つけたとか壊したとかじゃないから、ただ単に注意しに来ただけなんだが。危ないしな」
私とユーアは二人揃ってそっと手を挙げる。
「それ、私で間違いないよ」
「ボ、ボクで合ってます……」
「……やっぱり、お前たちで間違いないんだな? はぁ、危ないからもうやるなよ」
「ごめんなさい。もうしないよ」
「ご、ごめんなさい! もうしませんっ!」
私たちは素直に頭を下げた。
「まぁ、もうやらないなら、それでいいんだ。それじゃ、俺は戻るぞ」
ワナイはそう言って立ち去ろうとして、
「あ、それと、蝶の嬢ちゃん。中身が『黒』だって見られてたぞ? 女の子なんだからもっと気を付けろよ」
「え?」
そんな爆弾発言だけを残して行った。
中身が黒って?
「~~~~~~っ!」
途端に、顔が凄い勢いで赤くなるのを感じた。
思い出した。
それって私の装備の下の中身じゃないっ!
ローライズタイプのパ○ツじゃないっ!!
「ス、スミカお姉ちゃんの…… そのぉ、見られてたの? パン――」
「イヤァァァァッッ――――!!」
だ、誰だよっ! 目撃者はっ!!
なんでわざわざ色まで報告するのよっ!
犯人は出てきなさいよっ!
記憶がなくなるまでカチあげてやるからっ!!
※
「ううっ、もうお外歩きたくない。街の人たちに広まってるんだ、きっと…………」
「だ、大丈夫だよ、スミカお姉ちゃんっ! ボクなんか見られても平気だしっ!」
「へっ?」
泣きべそをかいている姉に、変な慰めの言葉をかけてくる妹。
「………………」
でもそれってどうなんだろう。
慰めてくれるのは嬉しい。
けど、見られて平気って、乙女としての何かが足りないよ、
ユーアさん……。
道中そんな事があったけど、メルウが待つ『大豆工房◎出張所』に着いた。
前にも思ったけど『◎』ってなんだろう?
「あ、スミカお姉さんと、ユーアお姉さん、おはようですのっ!」
「うん、おはよう。メルウ」
「おはようメルウちゃんっ! 今日は頑張ろうねっ!」
私たちを店頭で見付けたメルウが、ニコニコの笑顔で近づいてくる。
はぁ癒される、さっきの事はもう忘れよう。
そんなメルウに私とユーアも挨拶を返す。
「どう? お店の準備は終わったの?」
「はい、終わってるのっ! あ、それと今日は……」
「オウッ、昨日はうちの商品買い込んでくれてありがとなっ! それとあんな高級な薬まで譲って貰ってすまなかった。本当に助かったぜッ! 恩に着るぜッ! ガハハハハハハッ!!」
そう言いながら、私とユーアの背中をバシバシ叩いてくる男。
「………………」
なんかうるさいのが来たなぁ。
「お、お父さんっ! 二人とも痛がってるのっ! もうやめるのっ!」
訳が分からず痛がっている(特にユーア)私たちを見て、
慌てて止めに入ってくれるメルウ。
「お、そうか? すまねえなッ! どうしても嬢ちゃんたちに礼を言いたくてなッ! ガハハハハッ!」
そう言ってやっと叩くのを止めてくれた。
ユーアはちょっと涙目だった。
「俺は『大豆工房◎出張所』の店主で、一人娘のメルウの父親『マズナ』だッ! そっちの変わった格好が『スミカ』で、そっちの小さいのが『ユーア』だなッ! 二人のお陰で俺はケガも治って店が再開できるって訳さッ! ありがとなッ!」
ブンッ
また背中を叩かれそうになったので、ユーアの背中に透明壁を展開する。
ガンッ
「い、痛ってえッ! な、なんだァ?」
衝撃に驚き、マズナは手を抑えている。
「ちょっと、お礼を言ってくれるのはいいけど、あんまりバシバシ叩かないでくれる? 私は大丈夫だけど、ユーアは凄く痛がってるから」
「うッ!!」
少しだけ凄んでマズナを睨みつける。
((なんだ、聞いてたのより、おっかねえじゃねえかメルウよぉ……))
コソコソとメルウに耳打ちしている。
「私これでもCランクの冒険者だから。ユーアに何かしたら私が黙っていないからね」
そんなマズナに私は釘を刺す。
「Cランク冒険者ァッ!」
「ほら、お父さん、ちゃんと謝ってなの。今日はスミカお姉さんとユーアお姉さんは、お店を手伝いに来てくれたの。昨日お話したでしょう?」
「お、おうっ! 悪かったなッ! 礼を言いたくて、遂なッ! すまなかったッ!」
慌てたように頭を下げ謝罪するマズナ。
「……わかってくれればいいよ、それで。それに娘のメルウの前で言い過ぎたよ。私も悪かった。ごめんなさい」
私たちは別に、ケンカをしにここに来たわけではない。
そう思い、私も悪かったと頭を下げる。
どうしてもユーアの事になると周りが見えなくなる。
これって危ないよね?
今度から気を付けないと。冷静にね。
「いいって、いいってッ! 元々悪いのは俺なんだから気にしないでくれッ!」
「うん、わかった。これでこの話は終わりね。で、今日の作戦なんだけど」
私は自分が考えてきた内容を伝える。
「なるほどッ! 確かに考えてみればそうだなッ! で、材料の件なんだが、今の家にはそんな余裕は…… 出来る限りはするが――――」
まあ、そうだろうね。資金がなくて自分で素材を取りに行くくらいだし。
流石に昨日私が購入した売り上げでは足らないよね。
それと成功するかまではわからないから、出費は気になるだろうし。
「そこらの準備はこっちで昨日してきているから大丈夫。ユーアもいいよね? また後で買ってくるからね」
「うん、大丈夫だよっ! だってメルウちゃんの為だもんっ!」
よし、ユーアの許しもでた。
「…………なんで、俺たち親子の為にここまでしてくれるんだ?」
そこまで聞き、マズナは少し真剣な顔で聞いてくる。
「なんでって、メルウから聞いていないの?」
確か昨日メルウには話してある。
二つの理由を。
「いや、娘からは聞いている。だが――――」
何か他に裏があると思われているんだろう?
そんな表情だ。
「……なら、うまくいったら、もう一つ条件を追加するよ」
「な、なんだその条件とは…… まさか娘をっ!」
「それは違うよ」
はぁ? なんで娘を貰う事になるの?
どこかのお代官じゃあるまいし。
「別に難しいことじゃないよ。もし、うまくいったら、私たちに優先的に商品を売ってちょうだい」
「は、はぁ!? なんだそんなことでいいのか?」
想像してたよりも、大した事がないと思ったのか素っ頓狂な声を上げる。
「うまくいったらって、言ったでしょう? もしそんな事になったら、商品がどんどん売れちゃうでしょう? その状況で私が買い占めたらどうなると思う?」
「ぶふッ!」
「ん?」
「ぐふふふふふ――――」
「お、お父さん大丈夫なのっ!? まだケガが痛いのっ!」
変な声を上げる父親にメルウが駆け寄る。
「ガッ ハハハハハッッッッ!!!!」
そんなマズナは心配をよそに辺り構わず大声で笑いだした。
「お、お父さん、笑ってるの?」
「これが笑わずにいられるかってかッ! ガハハハハハハッ! もしそんな状況になっても、ならなくても、俺は嬢ちゃんたちが欲しいと言えば絶対に売ってやるッ! 俺はお前たちを気に入ったッ! それでいいだろ? スミカの嬢ちゃんッ!」
「うん、そっちがそれでいいなら私たちもいいよ」
「よし、交渉成立だなッ! メルウ、それとスミカさん、ユーアさん、今日はよろしく頼むッ! 俺も久し振りに熱くなってきたぜッ! ガハハハハハッ!」
「まぁ、そんなわけだから、今日はよろしくね」
上機嫌で高笑いをするマズナを他所に、二人にそう告げた。
お昼時には後一時間くらい、私たち4人は準備を始めた。
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