剣も魔法も使えない黒蝶少女、異世界でも無双する?

引き込もりゲーマーが異世界でもやりたい放題
べるの@
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見られたパン〇とお手伝い

公開日時: 2021年2月24日(水) 11:57
文字数:3,391

パンツじゃないもんっ!

「それで、門兵さんは、私に何か用なの? ちょっと忙しいんだけど私たち」


 私はちょっと怒気を含んだ声で言う。


「あー悪りい、ちょっと確認だけだから時間はあまり取らせない。あと、俺はこの街の衛兵の『ワナイ』だ。嬢ちゃんに会ったときは門の警備の日だったんだよ。覚えているだろう、俺の事?」


「うん、覚えてるよ。それで私が何かしたの?」


「街の人から通報があってな、昨日の夕方なんだが嬢ちゃん、屋根の上、走り回ってなかったか? そこの小さい嬢ちゃんをおぶって、悲鳴を上げながら駆け抜けていったってぇ話と、嬢ちゃん一人ってのも話があったんだが、どうなんだ?」


「!?」

「え!?」


 私とユーアはお互いに顔を見合わせる。

 二人とも「あっ」とした表情だった。


「サ、サア、シラナイヨ――」


 私は目一杯の演技でしらを切る。


「そうか? だがなぁ『蝶のヒラヒラした格好』の少女との証言なんだが、流石に嬢ちゃんしかいないだろうよ? そんな恰好は」


「そ、それで、もし私たちだったらどうなるの? 牢屋に入れられるの?」


 だとしたら速攻逃げる、かも。


「別に、誰かを傷つけたとか壊したとかじゃないから、ただ単に注意しに来ただけなんだが。危ないしな」


 私とユーアは二人揃ってそっと手を挙げる。


「それ、私で間違いないよ」

「ボ、ボクで合ってます……」


「……やっぱり、お前たちで間違いないんだな? はぁ、危ないからもうやるなよ」


「ごめんなさい。もうしないよ」

「ご、ごめんなさい! もうしませんっ!」


 私たちは素直に頭を下げた。


「まぁ、もうやらないなら、それでいいんだ。それじゃ、俺は戻るぞ」


 ワナイはそう言って立ち去ろうとして、


「あ、それと、蝶の嬢ちゃん。中身が『黒』だって見られてたぞ? 女の子なんだからもっと気を付けろよ」


「え?」


 そんな爆弾発言だけを残して行った。


 中身が黒って?


「~~~~~~っ!」


 途端に、顔が凄い勢いで赤くなるのを感じた。


 思い出した。


 それって私の装備の下の中身じゃないっ!

 ローライズタイプのパ○ツじゃないっ!!


「ス、スミカお姉ちゃんの…… そのぉ、見られてたの? パン――」

「イヤァァァァッッ――――!!」


 だ、誰だよっ! 目撃者はっ!!


 なんでわざわざ色まで報告するのよっ!



 犯人は出てきなさいよっ!

 記憶がなくなるまでカチあげてやるからっ!!

         




「ううっ、もうお外歩きたくない。街の人たちに広まってるんだ、きっと…………」

「だ、大丈夫だよ、スミカお姉ちゃんっ! ボクなんか見られても平気だしっ!」

「へっ?」


 泣きべそをかいている姉に、変な慰めの言葉をかけてくる妹。


「………………」


 でもそれってどうなんだろう。


 慰めてくれるのは嬉しい。

 けど、見られて平気って、乙女としての何かが足りないよ、

 ユーアさん……。



 道中そんな事があったけど、メルウが待つ『大豆工房◎出張所』に着いた。

 前にも思ったけど『◎』ってなんだろう?



「あ、スミカお姉さんと、ユーアお姉さん、おはようですのっ!」

「うん、おはよう。メルウ」

「おはようメルウちゃんっ! 今日は頑張ろうねっ!」


 私たちを店頭で見付けたメルウが、ニコニコの笑顔で近づいてくる。


 はぁ癒される、さっきの事はもう忘れよう。

 そんなメルウに私とユーアも挨拶を返す。



「どう? お店の準備は終わったの?」

「はい、終わってるのっ! あ、それと今日は……」


「オウッ、昨日はうちの商品買い込んでくれてありがとなっ! それとあんな高級な薬まで譲って貰ってすまなかった。本当に助かったぜッ! 恩に着るぜッ! ガハハハハハハッ!!」


 そう言いながら、私とユーアの背中をバシバシ叩いてくる男。


「………………」


 なんかうるさいのが来たなぁ。


「お、お父さんっ! 二人とも痛がってるのっ! もうやめるのっ!」


 訳が分からず痛がっている(特にユーア)私たちを見て、

 慌てて止めに入ってくれるメルウ。


「お、そうか? すまねえなッ! どうしても嬢ちゃんたちに礼を言いたくてなッ! ガハハハハッ!」


 そう言ってやっと叩くのを止めてくれた。

 ユーアはちょっと涙目だった。


「俺は『大豆工房◎出張所』の店主で、一人娘のメルウの父親『マズナ』だッ! そっちの変わった格好が『スミカ』で、そっちの小さいのが『ユーア』だなッ! 二人のお陰で俺はケガも治って店が再開できるって訳さッ! ありがとなッ!」


 ブンッ


 また背中を叩かれそうになったので、ユーアの背中に透明壁を展開する。


 ガンッ


「い、痛ってえッ! な、なんだァ?」


 衝撃に驚き、マズナは手を抑えている。



「ちょっと、お礼を言ってくれるのはいいけど、あんまりバシバシ叩かないでくれる? 私は大丈夫だけど、ユーアは凄く痛がってるから」


「うッ!!」


 少しだけ凄んでマズナを睨みつける。


((なんだ、聞いてたのより、おっかねえじゃねえかメルウよぉ……))

 コソコソとメルウに耳打ちしている。



「私これでもCランクの冒険者だから。ユーアに何かしたら私が黙っていないからね」


 そんなマズナに私は釘を刺す。


「Cランク冒険者ァッ!」


「ほら、お父さん、ちゃんと謝ってなの。今日はスミカお姉さんとユーアお姉さんは、お店を手伝いに来てくれたの。昨日お話したでしょう?」


「お、おうっ! 悪かったなッ! 礼を言いたくて、遂なッ! すまなかったッ!」


 慌てたように頭を下げ謝罪するマズナ。



「……わかってくれればいいよ、それで。それに娘のメルウの前で言い過ぎたよ。私も悪かった。ごめんなさい」


 私たちは別に、ケンカをしにここに来たわけではない。

 そう思い、私も悪かったと頭を下げる。



 どうしてもユーアの事になると周りが見えなくなる。

 

 これって危ないよね?

 今度から気を付けないと。冷静にね。



「いいって、いいってッ! 元々悪いのは俺なんだから気にしないでくれッ!」


「うん、わかった。これでこの話は終わりね。で、今日の作戦なんだけど」


 私は自分が考えてきた内容を伝える。



「なるほどッ! 確かに考えてみればそうだなッ! で、材料の件なんだが、今の家にはそんな余裕は…… 出来る限りはするが――――」


 まあ、そうだろうね。資金がなくて自分で素材を取りに行くくらいだし。

 流石に昨日私が購入した売り上げでは足らないよね。


 それと成功するかまではわからないから、出費は気になるだろうし。



「そこらの準備はこっちで昨日してきているから大丈夫。ユーアもいいよね? また後で買ってくるからね」

「うん、大丈夫だよっ! だってメルウちゃんの為だもんっ!」


 よし、ユーアの許しもでた。


「…………なんで、俺たち親子の為にここまでしてくれるんだ?」


 そこまで聞き、マズナは少し真剣な顔で聞いてくる。


「なんでって、メルウから聞いていないの?」


 確か昨日メルウには話してある。

 二つの理由を。


「いや、娘からは聞いている。だが――――」


 何か他に裏があると思われているんだろう?

 そんな表情だ。


「……なら、うまくいったら、もう一つ条件を追加するよ」


「な、なんだその条件とは…… まさか娘をっ!」

「それは違うよ」


 はぁ? なんで娘を貰う事になるの?

 どこかのお代官じゃあるまいし。



「別に難しいことじゃないよ。もし、うまくいったら、私たちに優先的に商品を売ってちょうだい」


「は、はぁ!? なんだそんなことでいいのか?」


 想像してたよりも、大した事がないと思ったのか素っ頓狂な声を上げる。


「うまくいったらって、言ったでしょう? もしそんな事になったら、商品がどんどん売れちゃうでしょう? その状況で私が買い占めたらどうなると思う?」


「ぶふッ!」


「ん?」


「ぐふふふふふ――――」


「お、お父さん大丈夫なのっ!? まだケガが痛いのっ!」


 変な声を上げる父親にメルウが駆け寄る。


「ガッ ハハハハハッッッッ!!!!」


 そんなマズナは心配をよそに辺り構わず大声で笑いだした。


「お、お父さん、笑ってるの?」


「これが笑わずにいられるかってかッ! ガハハハハハハッ! もしそんな状況になっても、ならなくても、俺は嬢ちゃんたちが欲しいと言えば絶対に売ってやるッ! 俺はお前たちを気に入ったッ! それでいいだろ? スミカの嬢ちゃんッ!」


「うん、そっちがそれでいいなら私たちもいいよ」


「よし、交渉成立だなッ! メルウ、それとスミカさん、ユーアさん、今日はよろしく頼むッ! 俺も久し振りに熱くなってきたぜッ! ガハハハハハッ!」


「まぁ、そんなわけだから、今日はよろしくね」


 上機嫌で高笑いをするマズナを他所に、二人にそう告げた。



 お昼時には後一時間くらい、私たち4人は準備を始めた。

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