戦闘描写はやはり難しいですね。
「なんだ、なんだァ、手下どもが全滅だァ、オマエそのなりで魔法が使えるのかよォ、光と強化か?まぁ何にせよ希少な魔法使いだぁ、こりゃあ高く売れるぜぇっ!!」
リーダー格らしき最初の男が、長めの鉈らしき武器を右手に持ち、肩を叩きながら出てきた。
その顔は、いい獲物を見つけた喜びなのか、僅かに口角が上がっていた。
この男は手下に命令した後、一番後ろに下がって行った。
だからか手下が影になって、閃光が届きづらかったのだろう。
それにしても手下がやられて、何とも思っていないのだろうか?
『結構際どい状態だよ?』
私の透明壁スキルの攻撃で吹っ飛んでいった手下たちは「うーうー」と声を上げてはいるが、誰一人として立ち上がれる者がいない。
恐らく至る所の骨や内臓に深いダメージを負っているだろう。
私の戦闘力では、普通の人間はそうなる。
そんな手下たちを前にしても何も感じないのだろうか?
まあ、それを言ったら私もなんとも思ってない。
なんて元のゲーム内だったら言いたいが、この世界では命を狙われてもある程度の倫理観は持ち合わせている。
だってこの世界は――――
『きっと本物だから……』
目の前で痛みに我慢できず唸り声を上げる男たち。
ユーアを撫でた時の髪の毛の手触りや
小さい手を繋いだ時の手の温もり。
これはきっと本物だ。
だから私がいた世界のように
『私を敵と認識した者を、私が敵と認識した者』
その全員を今までの様に消滅させることは出来ない。
それをしたらきっと私は変わってしまう。それが怖い。
「こりゃあ、久し振りに楽しめそうだぁ! 勢い余って殺っちゃっても悪く思うなよォ―、今の稼業の前はランクC間近の冒険者だったんだからなァ――!!」
後から出てきた男の、そんな前口上を聞いて背中から震えが伝わる。
「………………」
背負っているユーアの体が小刻みに震えている。
ランクCの部分に反応して更に怯えてしまったのだろう。
それでも背中の小さな存在は、私の耳元で信じられない事を話す。
「ス、スミカお姉ちゃんこのままじゃ二人とも助からないよっ! だからすぐボクを下ろしてっ!ボ、ボクがなんとか時間を稼ぐからスミカお姉ちゃんは逃げてっ!!お願いだよっ!!」
ユーアは震える声でそう私に懇願する。
それはいくらユーアのお願いでも聞ける訳がない。
『………………』
私はユーアが降りやすいように少し前かがみになる。
そしてゆっくりと地面に降ろした。
「――――スミカお姉ちゃん美味しいお菓子ありがとうね。それとボクを助けてくれて、手を繋いでくれてありがとうっ!ボク凄く凄く嬉しかったんだっ――――」
ユーアは険しい表情で、私を庇うように一歩前に出る。
決意が漲るその手には小さなナイフが握られていた。
きっと採取用に使ってたものだろう。
「お―お―、最後の挨拶とやらは終わったのかァ? 最初はガキンちょか、まァどっちから来ようが結末は変わらねぇけどなァッ!!」
私の前に出たユーアを見て、威嚇するように啖呵を切る男。
それを目の当たりにしてもユーアは怯まない。
小さい体の真正面で受け止める。
そしてナイフを握り走り出す。
「ボクが、ボクがっ!スミカお姉ちゃんを守るんだぁっ――!!」
そのか細い体と、頼りないナイフを持って突き進む。
それが敵わないと知っていてもユーアは立ち向かう。
タタッ!
その身を犠牲にしてでも
タタッ!
今日会ったばかりの私を守るために。
だが――――
「きゃあっ!?」
ユーアは中間まで走り出した途端に透明な何かに包まれる。
この世界でも一番安全な私の透明壁のスキルに。
「な、何でっ!? これじゃスミカお姉ちゃんがっ!」
そんなユーアは透明壁の中で暴れる。
突然の事で混乱しているのだとわかる。
だから私は近づいてユーアに声を掛ける。
「違うよユーア。私があなたを降ろしたのはアイツを叩きのめす為だから。だから安心してその中で待ってて? 私が絶対にユーアを守るから」
混乱するユーアに出来る限り優しく声を掛ける。
「ス、スミカお姉ちゃんっ!?」
「今だけはスミカお姉ちゃんを信じて待っててねっ」
私はユーアにそう告げて、最後の男を指さしそして口を開く。
「何がランクC間近よっ! 数で囲んで金品奪うただの貧乏ゴロツキでしょう? 私の格好をどうこう言う前にあなたは鏡を見たことがあるの? 正直見るに堪えないっ! ダサイし、臭いし、服装のセンスも最悪っ! で、いつから体を洗ってないの? ここまで腐った臭いがするんだけどっ!」
私は男を睨みつけて一気に捲し立てる。
「ス、スミカお姉ちゃん?」
壁の中のユーアは何か呆れた感じで私をみている。
だってしょうがないでしょう事実なんだから。
まあ、目的はそれだけじゃないけど。
男は私のその言葉に流石に頭にきたのだろう。
「く、くっ、このぉガキぃっ――――」
目が吊り上がり、歯を剥き出しにし、持っている武器で「ガンッガンッ」と何度も地面を力任せに叩きつけている。
「あれ? 気付いてなかったの? それは失礼。本当の事言っちゃって」
「――――ッこんの、クソガキがァァッッ――――!!!!」
最後の挑発を聞いた男は、鬼の様な形相で武器を振り上げ
私に向かって全力で走り出してきた。
私はそんな男に透明壁スキルを展開した。
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