今回は説明がメインになっています。飽きずに見ていただけると幸いです。
後半には、澄香のエピソードを加筆してあります。
今回もよろしくお願いします。
ユーアちゃんを隣に手を繋いで森を進んでいく。
もちろん警戒も忘れない。
「ふんふんっ、ふ~~んっ♪ふっふふ~~♪♪っ」
『ふふっ』
私と手を繋ぐ隣のユーアちゃんはなんだか楽しそうだ。
よくわからないメロディーを笑顔で口ずさんでいる。
この世界の童謡とかそんな感じの音楽なんだろうか?
音痴って訳じゃないけど、なんか独特の音程とメロディーだった。
それと私はメニュー画面が使える事がわかったので『MAP表示と索敵モード』に切り替え歩いている。
この世界のMAPデータはないので、オートマッピングで地図が埋まっていく。
あと、このモードは動くものと大きさを指定して索敵できる。
ただしなんでも索敵してしまうと、昆虫や小動物まで感知してしまうので30センチ以上で設定して今は様子をみている。
ユーアちゃんの話によると、このビワの森は魔物が非常に少なくその代わり採取の依頼に必要な素材が多く取れるそうだ。
それと新人冒険者たちや、低ランクの冒険者たちの人気の腕試し的な場所になっていると教えてくれた。
『冒険者、やっぱりいるよね…………』
ふと、話を聞いて考える。
この世界は私のプレイしていたゲームの世界観とは真逆なのだと。
恐らくこの世界は、剣や魔法・ギルド・魔物・ダンジョンなどといった中世風のファンタジーに近い世界なのだろう。
それに対し、私のいたゲームはSFチックの近未来ファンタジーだった。
そしてその世界は殺伐としたものだった。
ギルドに近いものはあった、けど、剣や魔法の代わりに実弾系のハンドガンやマシンガン、グレネード。エネルギー系武器のレーザーガンや、レーザーカノン、フォトン系の武器が主になっていた。
NPC(ノンプレイヤーキャラクター)はショップとクエスト内の案内役にいるだけで、基本このゲームはクエスト報酬で装備を整え、定期的に行われるPvP(対人戦闘)のチーム戦、個人戦でランキング上位を目指す。
私の装備している服は個人ランキング優勝の報酬であり最新のものでもあった。
けれども、防具に付いているスキルレベルを上げれずに、この世界にきてしまったのには些か懸念が残る。
なんてたって、この装備は癖が強いから。
防御力は皆無に近いけど、破れたり汚れたりはしない。
背中の羽の鱗粉効果で状態異常も軽減できるし、防具スキルが強力。
それに『透明壁』を展開できる。
武器が装備できない代わりに絶対障壁で防御できて、スキルが上がるとそれが武器にもなるし、他にもあり得ないくらい応用が利くチート装備だと思う。
それに私の名前『透水 澄香《とおみず すみか》』に合っている。
これでもかってくらい姓にも名前にも『透明の意味合い』の漢字が使われている私の名前に。それにスキルも透明だし。
それと私のゲーム内HNも『クリア・フレーバー』「澄香」になぞって命名した。
こっちは透明(クリア)って意味合いと、香(フレーバー)を付けてみた感じ。
因みに現在の装備能力の効果は。
――――――――――
【防具スキルLV.1】
最大数 1
距離 0-2メートル(射程内のみ操作可)
大きさ 2メートル
形状 正方体
色 無色
重量 0t
――――――――――
となっている。
チート性能防具だけあって、レベル上げの難易度が非常に高いと思う。
それを見越して、現状の使い方としては――
1.の立方体の壁を使って自身を含む半径2メートルを防御する。
2.の立方体の壁を操作して、鈍器のように至近距離で殴る。
かでしか戦闘方法がない。
まあ、スキルで作成以外の武器が装備不可なので、
現状ではこれでなんとかするしかない。
早くレベルあげたい。
『はぁ、でもなんでスキルレベルがLV.1に戻ってんだろう? LV.3にするのに徹夜で5日も掛かったというのに…………』
何て、今更ながらに愚痴ってしまう。
『…………まぁ、世界が変わったからか、理由はなんだかよくわからないけど、今はそれで対応するしかないよね?』
ただ問題なのはここが別世界で、私のスキルが異分子にみられる可能性もあり、あらぬトラブルや、いざこざに巻き込まれてもおかしくない。
だから色々気を付けないといけないとは思う。
とりあえず、この世界で私のスキルがどう思われるかがわからないうちは、なるべく目立つ事は控えようと思う。
ただし身の危険や|範囲《こころ》に侵入されたら話は別だ。
私にだって守りたいものもあるし、譲れないものだってあるからだ。
※
森の出口はまだ見えない。
森を抜ける様子もないので、私はユーアちゃんに色々尋ねようと口を開く。
「そういえば、ユーアちゃんて、なんであんな危ないところでキノコ取ってたの?」
「あ、それはね? ――――」
その話をまとめると、
なんでもユーアちゃんはこの年で冒険者らしく
その依頼でビワの森に採取にきたらしい。
家族はいなく、最近なったばかりの冒険者でなんとか生活している事、冒険者の前は孤児院にお世話になっていた事、孤児も増えて迷惑がかかるから孤児院をでて冒険者になった事。
など、日本では考えられないような生活をしていたらしい。
この世界では如実に貧富の差がありそうで、ユーアちゃんみたいな子供のこういった生活も、もしかしたら見慣れた事なんだろうか?
元いた現代の世界は嫌いだった。
けどそれを聞くと、余程恵まれていたんだと思う。
子供の頃に苦労も不自由もした記憶がなかったから。
それに私を守ってくれる温もりと、心から安心できる存在があったから。
「ユーアちゃんはまだ子供なのにすごいね」
「えっ?」
今の話を聞いて素直に口から出た。
私がそんな状況だったら色々諦めてとっくに引きこもってる。
あ、元々引きこもっていたんだった。
私は思わず空いた方の手で、ユーアちゃんのほわほわとした頭を撫でてしまう。
うん、やっぱり手触りが気持ちいい。
「お姉ちゃんも子供ですよね? それとボクのことはユーアでいいです」
撫でられるのが気持ちいいのか、目を細めながら聞いてくる。
「そう? それじゃユーアちゃんはそう呼ぶねユーアってね。 で、私は子供じゃないよ。30歳だから立派な大人だよ?」
ちょっとだけ胸を逸らして大人をアピールする。
けど、最後の?マークは正直自分が大人だったか自信がない。
特に立派ってとこに色々と疑問を感じてしまう。
「それと、私の事はスミカでいいよ」
ついでにそう付け足す。
「30歳? ご、ごめんなさいお姉……じゃなく、スミカお姉ちゃん、ボクには何を言ってるのかわからないです……」
コテンと小首を傾けながら、不思議そうに私を見ている。
「――――――」
まぁ、それはそうだよね。
私だってこの姿に慣れてなくて忘れていたよ。
このゲーム内アバターの年齢は15歳。
身長設定は若干低くしてある。
それは索敵には映っちゃうけど、視認された時に小さい方が、的になりづらいって理由で。
ユーアはそれ以上は何も聞いてこない。それはそれで助かる。
どうして私は崖下にいたのか、どうやって助けたのか、
レーションの事やら、おかしな蝶の恰好とか――――
私だって何が何だかわからないし、聞かれても答えられない。
言い訳も考える時間もなかったし、だから今は正直ホッとしている。
『でも、もしかして気を使ってくれてるのかな?』
この子を見ているとそんな気がする。
この年齢で自分で生活してるし、しっかりしていると思う。
この世界では幼い体でも大人のようにならないと生き辛いのだろう。
そして私は思う。
もしこの世界で初めて会ったのがユーア以外の人物だったら、
もしここじゃない場所に現れていたら――――
そう考えると少し身震いがする。
「…………………」
その未知の恐怖に。
私がこの世界で何ができるか全くわからない。けど、
この手に温もりを与えてくれるこの少女は守ってあげたい。
私に懐いてくれていた妹と別れた時、私は何も出来ず何も知らなかった。
そんな私は自分を嫌悪し、外の世界を見限り、内の世界に逃げ込んだ。
それがゲーム内のソロプレイヤーの私だった。
傍らに手を繋ぎ、ニコニコと屈託のない笑顔をむけてくる少女。
小さく幼い少女のユーアを見ながら、
私は――――――――
この世界で、この少女を限界まで守って生きていこうと思った。
この姿で、ここにいるという事は、そういう事なんだろうって、確信に近いものを感じたから。
『…………妹の代わりって訳じゃないけど、それでも――――』
「――――これからよろしくね。ユーアっ!」
「え? は、はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
無邪気な笑顔のユーアを見ながら自然と口を開いた。
―――――――――――
ここは澄香が異世界に来る前のゲーム内でのお話になります。
ソロプレイヤー最強の『クリア・フレーバー』時代のちょっとしたお話です。
――とある日の戦場―― (4/4)
「なっ!! あれだけの、攻撃を喰らって――」
「い、いいから撃てっ! じゃないと――」
「ああああああっ!――」
「ちょっ! 気を付けろっ! 避けられたら同士討ちに――」、
「い、一旦距離をとるんだっ! そうすれば――」
私驚く男たちの中心で舌なめずりをし、レベルアップしたスキルを試す。
「まずはっ、と。ちょうどいい具合に5人いるんだね。ほいっとっ!」
展開した5機の透明壁[□]スキルを、驚く男たちの、それぞれの足元から突き上げるように両手を挙げて操作する。
ドゴァ――ンッ!! ×5
「グッ!」
「ガッ!」
「ウグッ!」
「なっ!」
「アガッ!」
男たちはそれぞれに苦悶の声を上げながら、その威力に20メートル程空中にカチ上げられる。
「おおっ! やっぱり使えるスキルの数が増えたのはいいねっ!」
ダメージを受けながら空中に舞う男たちを見て感嘆の声を上げる。
「グウッ、たったこれしきの攻撃でッ――」
「う、撃てッ! 奴はまだ下だァッ!」
「は、はいッ!」
「ま、まだまだいけるぜッ!」
「ああッ!」
男たちは空中に浮きながらも態勢を整えて眼下に銃口を向ける。
ハチの巣にせんと私に向けて、それぞれが攻撃を再開する。
――が、
「なっ! 消えただとっ!?」×5
私はもうそこにはない。
声を合わせて驚愕する5人の追撃の為、男たちと同じ空中に飛び上がっていたのだから。
私は透明壁[□]を足場にして更に上昇する。そして、
「最後だけは、なかなか良かったよ。それでも、まだまだだけどね」
私は足場にしていた透明壁を解除して、今度は男たちの真上に、黒で視覚化[■]してたその巨大なサイズの25メートルの壁の塊を、
「そお――――れッ!!」
男たち全員に向かって叩きつける。
ドゴォ――――――ンッッッッ!!!!
男たち5人は激しく錐もみしながら落下し、
「「うがっ!」」
高速で地面に叩きつけられて大量の土煙が舞う。
「よっ!」
男たちを確認して、足場にしていた透明スキルを一度解除し、今度は円錐[▲](先が鋭く尖ったもの)を5機を私の周りに展開する。
「これでお終りだよっ!」
ヒュンッッ! ×5
そのスキルで地面で立ち上がろうとしている5人を串刺しにする。
「ガッ!」
「ウッ!」
「アッ!」
「ゴッ!」
「グッ!」
攻撃を受けた5人はそのまま透明になって蒸発したように消えていく。
それを確認した後で、私は誰もいなくなった地面に着地する。
念のために索敵するが、この辺りには反応がない。
「ふぅ――。さて、と。展開できる数もいいけど、形も変形できるようになったのはもっと良かったかも。でもまだまだ練習が必要かな? おっと近いね?」
軽く息を吐き、次に、比較的ここから近くの反応を見つける。
「ん? 今度は10人かぁっ。どこに誘い出そうかな?」
そう呟いて、その場所に向かって早速空を駆けていく。
まだまだ経験値が足りないからだ。
「さあ、プレイヤーのみんな。スキル上げの経験値になってもらうよっ!」
澄香はゲーム内では、長年トップの成績を残している最強のプレイヤーですが、
ソロ以外のパーティー戦では、いい成績が残せていません……
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