前回でゴナタとのパワー対決は終わりましたが、やはり色っぽい姉妹のオチと言えば……
そんなお話です。
「あ、あのスク水幼女っ! 消すの忘れてたな――――っ!」
目の前にこれでもかと主張する、黒光りした巨大な壁。
訓練場と観客を、完全にシャットアウトしている。
「これじゃ、せっかくて真っ向勝負で戦ったのに、ゴナタが報われないよっ! こうなったら私がスキルでぶっ壊してやろうかっ!」
腕まくりをし、怒りのままにズンズンと壁に向かい歩く。
この壁のおかげでケガ人が出なかったのは良いけど、その後が最悪だ。
「よ~し、重さを最大にして跡形もなく――――」
「う、う~ん、あ、あれ、ワタシはっ?」
「あっ!」
横たわっていたゴナタがふらふらと上半身を起こす。
「あ、そうか、ワタシ、お姉ぇにもの凄い攻撃を…… 痛つっ!」
「ゴナタ、無理して立たないでいいよ? 回復して上げるから」
少し腰を上げたところで、痛みに顔をしかめるゴナタ。
私は優しく背中を支えてあげる。
※※※※※
一方その頃、スミカたちを覆う壁の外では、
壁を作った当の本人が慌てて戻ってきた。
「おおっ、急ぐのじゃっ! 急ぐのじゃっ! みんなが騒いでいるのじゃっ!」
ナジメは自身で作った壁の前に駆け付け、早速魔法を唱える。
もちろん、みんなあ騒いでいる原因となった壁を解除する為だ。
「よし、これでいいのじゃっ! もぐ」
そしていとも簡単に魔法を解除させ、持っていた串焼き口に入れ笑顔に戻る。
※※※※※
その頃、巨大な壁の内側のスミカとゴナタは?
「ゴナタ、無理して立たないでいいよっ! 回復して上げるから」
「う、うん、でも肩を貸してくれるかい? なんとか一人でも立てそうだから」
「わかった。でもキツそうだったら直ぐに回復するから」
「あ、ありがと、お姉ぇ」
「うん」
痛みに苦しむゴナタを介抱しているその時、
ズズズ――――
ズズズ――――
ズンッ
「えっ? 壁が?」
「消えた?」
ジャリジャリと擦れる音と共に、巨大な壁が地面に沈んで消えた。
私とゴナタはそれを呆然と見ていた。
そして今まで壁のせいで見えなかった大勢の観客の姿が見えた。
しかしそれと同時に、ゴナタにも異変が起こった。
ビリッ
「ん?」
「えっ!?」
ビリリリリッ――――!
「う、うきゃっあああああああっ―――――!!」
「ゴナタ?」
いきなり聞こえた甲高い悲鳴に驚き、その本人のゴナタに視線を移す。
全身のケガが痛くて出た悲鳴だと一瞬焦ったけど……
だけどそこにいたのはケガとは関係なく、体を隠して悶絶しているゴナタがいた。
「うぎゃっああああ――っ! お、お姉ぇ、ワ、ワタシの服がっ!」
「へっ? え、ええええええっっっっ!!!!」
そこには、上半身のシャツがズタボロに破れて地面に蹲るゴナタの姿が。
そして両手を交差させて、はち切れんばかりの巨大な胸を懸命に隠している。
が、
『うわっ! もの凄く見えるんだけどっ!』
ゴナタが蹲り両手で覆っているが、物理的に無理なものは無理。
そんな細腕で隠しきれるサイズではなかった。
隠した腕のあらゆる隙間、そして脇から、ただ「むぎゅっ」と変形しただけの豊満すぎる女性の象徴が露わになっていた。
ギリギリで隠し通せているのはその先端だけだろう。
「うにゃああ――っ! お姉ぇ助けてっ! 見えちゃうっ!」
「はあっ!? なんでゴナタの服が破けてんのっ! あ、もしかして……」
私のせい?
あの時のゴナタの限界を超えた凄まじい攻撃に、瞬間的にだけど5層を超えて、ゴナタに撃ち込んでいた。
刹那の間に十数撃もの連打を、普通の服の上からゴナタに浴びせていたんだ。
「ま、間違いないっ! きっとそうだっ! 服だけが耐えられなかったんだっ!」
そう思いたって、即座に透明鱗粉をゴナタに散布してその姿を隠す。
「もう大丈夫っ! ゴナタは今見えなくしたからっ!」
「う、うん、ありがとうっ! 助かったよっ!」
「ほっ」
なんて安心したのも束の間、どうやら透明にするのが遅かったようで、
「「「うおおおぉぉぉぉっ――――!!!!」」」
今までの静寂が嘘だったかと思う程の歓声が、私たちに飛んできた。
「うおっ! 巨大な壁が消えたら、巨大なおっぱ〇がぁっ!」
「腕から、は、はみ出てるぞォッ! も、もう少しで全部がっ!?」
「ま、マジかっ! あんなものが存在するとはっ!」
「あ、ありがとうっ! 今日まで生きててよかったぁっ!」
「ゴクリッ、あんなものに挟まれてぇよ…………… くぅっ~!」
「あのお姉ちゃん、お母さんよりずっとおっきいよぉっ!」
「う、うるさいわねっ! 大きければ良いってもんじゃないでしょ!?」
こちらは街の人や冒険者たちの声。
老若男女問わず、ゴナタのあられもない姿を見て騒ぎ立てる。
「ああっ! ゴナタさんがっ!」
「あああっ、ゴナちゃんっ!?」
「ゴナ師匠はさすがに桁が違うわねっ! さすがアタシの師匠よっ!」
「はぁ、アイツら一体何やってんだァ?」
「一体何があったら、ゴナタさんの服があんなに破けるんですか!?」
こちらはバタフライシスターズの面々と、ルーギル達の声。
ゴナタの弟子のラブナは変なところで感心している。
「お、お姉ぇっ! ワタシをナゴ姉ちゃんのところに連れてってっ! 見えなくてもやっぱり恥ずかしいからさっ!」
「う、うん、わかったっ! それじゃ回復しながら連れて行くねっ! 向こうに着いたら急いで着替えちゃいなよ。着替えはあるんでしょ?」
「うん、それは大丈夫っ!」
「よし、それじゃ急ぐから、ギュッと捕まっててっ!」
「うんっ!」
見えないゴナタをお姫様抱っこして、急いで姉のナゴタに向かい疾走する。
ところが、
シュタタタ――――
「うわわっ! ま、また見えてるよっ! スミカお姉ちゃんっ!?」
「ゴ、ゴナちゃんっ!」
「も、もう見せなくていいわよゴナ師匠っ! こっちが恥ずかしくなるからっ!」
「えっ! 見えてるっ! なんで?」
走り出した途端、向こう前のシスターズが何やら騒ぎ出す。
そんなシスターズの声に嫌な予感がしながらも、視線を真下に落とす。
「あ?」
そう言えば急いでたから、全力で走ったような?
だとすると、私の透明鱗粉の効果って………… 消えるよね?
だって風に弱い能力なんだもん。
私が本気で走ったら、数歩で鱗粉なんか消し飛ぶよ。
「ど、どうしたんだいっ? お姉ぇ」
「え?」
ゴナタはきっとナゴタたちの声が耳に入らなかったのだろう。
不思議そうな顔で、私を見上げてくる。
『まぁ、それはそうか。殆どはだか同然で、みんなの前で担がれてるんだからそんな余裕ないよね? でも一応どうなってるかは確認しないと――――』
チラ
ゴナタを見るついでに、気付かれないようにそっと視線を外す。
目指すは、みんなが見えると騒いでいる、あの部分だ。
するとそこには、
『うっ!』
目を向けた先には、何も覆っていないゴナタの胸が目に入ってきた。
抱っこする前は両腕で隠してたけど、その腕は今は私の首に巻かれている。
それは落ちないように掴まっててと、私が言ったからだ。
「あはっ!」
「お姉ぇ?」
私はあり得ない程の、その二つの膨らみを目の当たりにして、
「あはははははははは」
「お姉ぇ!?」
そんな乾いた笑いしか出て来なかった。
人間、過去一番に驚いた時はそんなもんだよ。
『…………はははっ、異世界の神さまは不公平だよ。その1/10でもあれば、私はきっと色々悩まなかったし、努力もしなかった…… って、今はそれよりも、こんな現実を私に見せつけた、その要因を作った幼女は――――』
ゴナタをもう一度透明鱗粉で見えなくして、ある人物を視界に映す。
元はと言えば、あの壁を急に解除したアイツのせいだ。
『こんな私に現実を見せつけ、更にどん底に落としたあの幼女は許せない』
そこには、串焼きを口いっぱいに頬張る、無邪気な笑顔のナジメの姿があった。
「うん、やっぱり焼きたてはうまいのうっ!」
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