当分戦闘が続きそうです。
苦手なのでキーボード入力が進みません。
元々指2本なので更に……
巨大なオークはスキルに止められた大型の鉈を再度頭上に振り上げる。
だがそれはさっきの片手持ちとは違い、威力重視の両手持ちにシフトしている。
その事から私のスキルを破壊する思惑だろうと予測する。
「よし、今だっ!」
腕を振り上げた瞬間を狙って、スキルで巨大なオークを直方体で覆う。
両腕を上げた状態で四方を囲まれては、簡単には身動きが取れないからだ。
『グウオォォッッッ――――!!!!』
咆哮とともに「ガシガシッ、ガシガシッ」と壁の中で暴れるオーク。
だがその状態では力が入らないだろう。
「よしっ」
とりあえずは、これで大丈夫だ。
「お待たせクレハン。すぐ回復するからね」
一度クレハンを囲っていたスキルを解除し、私も近付き再度展開する。
これでちょっとした安全地帯の出来上がりだ。
「ス、ミカさ、ん、助かり、ました、よ…… はぁはぁ」
「いやいや、まだ助かってないからっ! もうしゃべんなくていいよ」
リカバリーポーション【S】をクレハンに使う。
そんなクレハンの状態は酷かった。
『………………』
目に見えるちぎれそうな腕だけじゃない。
内臓も、肋骨も、背骨も酷く損傷をしているはずだ。
生きていてくれて良かった。さすがは元冒険者と言ったとこだろう。
元と言っても、一般人からすれば充分バケモノ級の強さなのだから。
「わっ! すすす、凄いですっ! スミカさんっ!!」
重症だった体がものの数秒で回復する。
そしてクレハンは、治った体で早速立ち上がり、腕や足、首などを動かして状態を確認している。その際装備などの確認も済ませる。
そしてもろもろの確認が終わり、顔を上げて口を開く。
「スミカさんっ! あなたはわたしの命のおん――――」
「そういうのいいから。早く私の背中に乗って?」
クレハンの言葉を遮り、背中を向けて座り込む。
「えええっ! わ、わたしの感謝の気持ちは一体どうしたら?」
「うん大丈夫。ちゃんと伝わったから。それに――――」
「それに?」
「ううん、何でもない」
『もしかしたら、私の落ち度のせいかもしれないし……』
「スミカさん、では失礼します」
「うん。わかった早く」
背中から何となく重みが伝わってくる。
でも大の大人を背負っても体への負担は感じない。
さすがはアバターの姿だ。
私はスクっと立ち上がる。
「あのぉスミカさん? たびたび失礼なのですが――――」
「ん、なに?」
顔を後ろに向けて、言いずらそうにしているクレハンを見る。
「あの、足が地面に付いてしまうのですが……」
そう告げられる。
「あ、あの身長差があり過ぎて、足が………………」
「……………………」
「す、すいませんっ! 我慢するので気にせずに行ってくださいっ!」
「……………………」
背負っていたクレハンを「スッ」と地面に降ろす。
「ス、スミカさん?」
「これだったら、文句ないでしょ?」
クレーマーのクレハンの背中と膝の裏に腕を入れて持ち上げる。
「ス、スミカさんっ! こ、これは、ちょっとぉ!?」
「いいから黙ってて。じゃないと舌噛むよっ?」
私はクレハンをお姫さま抱っこしながら、巨大なオークと反対方向に進む。
「ふんっ!」
そして家の壁を「ドゴォッ」と蹴破り外に出る。
巨大なオークはまだもがいているが放置する。
今はそれどころじゃない。
「スミカさん。何もわたしを持って運ばなくても、スミカさんの魔法で運べば良かったんじゃないですか?」
クレハンがそんな至極当然の事を言ってきた。
「う、ぐぅ、それだと小回りがきかないからっ?」
なんとかギリギリ通りそうな言い訳をする。
「………………」
それを聞いて何故か無言になるクレハン。
「…………なによ?」
「い、いえ、それよりもあのオークはあのままで良かったんですかっ?」
「いや、それは良くはないけど、ユーアをルーギルの助太刀に置いてきたから心配なんだよ。だからあれは後回しにして、早くユーアのとこに駆け付けたいんだよ」
そう。
ユーアは自ら進言してルーギルを助けに行った。
もの凄く心配だったけど、冒険者としてのユーアの気持ちも大事にしたい。
それに、結果的に言えばそれで二人ともギリギリ助ける事が出来たし。
※
クレハンを抱っこしながら、ユーアとルーギルのところに到着する。
二人は痺れているオークを目の前にドリンクレーションを飲んでいた。
それでもユーアはハンドボーガンの照準をオークに向けたままだ。
「ん」
すかさずスタンで痺れている、小さいオークをスキルで囲んで動けなくする。
「ユーアお待たせぇっ! そっちは大丈夫だった? ユーアはケガはない? ルーギルに何かされてないっ!?」
「は、はぁっ!? なんで俺がユーアみたいな幼女を、せめて後5年――――」
ルーギルが何か騒いでいるけど無視する。
そして一足飛びでユーアに抱き付き、頬ずりしながら体を確認する。
「大丈夫だよスミカおねえちゃん! でも顔が熱いよぉ! だから離れてぇ!」
「え?」
どうやら頬ずりし過ぎて、ユーアの頬っぺたが熱くなったみたいだ。
「ハァ、全くお前たちときたら相変わらずだなァ、こんな状況だってのによォ」
「はぁっ?」
頭の後ろをガシガシ掻きながら、ルーギルが愚痴っている。
そんなブーメラン男を睨みつける。
だってそれはお互い様でしょ?
なんで敵を目の前にして、のんびりお茶してんの?
なんて言いたいけどグッと我慢する。
『くっ!』
それよりも今考える事があるから。
そう思って我慢してたんだけど、ギルド長コンビが騒ぎ始める。
「よおォ! クレハンお前も無事でよかったぜッ! なんだそっちは嬢ちゃんに助けて貰ったのかァ?」
「はいっ! でもギルド長もまさか未知のオークに襲われていたとは…… お互いに無事で何よりですねっ!」
『…………イラッ』
「おうよッ! ユーアにヤバかったところを助けてもらってなァ!」
「ユ、ユーアさんがですか? それって一体……」
「それがよォ。ユーアが凄ぇ武器をよォ、嬢ちゃんから――――」
『ぷるぷるっ』
「え、そんな武器までお持ちだったんですか? それは是非にでも」
「ああんッ! それは無理だッ! あれはユーア専用みたいなもんだぜッ?」
ギリギリッ(歯ぎしりの音)
「ハッ!」
「えっ!?」
プチッ!
「ああっ! もうっ! うるさ――――――いっ!!!!」
私は遂にブチ切れて、二人を睨み咆哮する。
「もう、今はそれどこじゃないでしょっ! なんかおかしいと思わないの? この変なオークたちを見てさっ! 緊張感が足りなさ過ぎだよっ!」
「そ、そうだなァ! でも緊張感とか嬢ちゃんたちに言われたく――」
「はっ! なにっ!」
「い、いやッ!?」
言い訳をするルーギルを威嚇して黙らせる。
「す、すいません、スミカさん。確かにそんな状況ではないで――――」
「いや、だってよォ、スミカ嬢だってユーアに抱き着いてニヤニヤしてたり、ユーアだって敵の前で『美味しいのありますよ?』とか言って休憩するし。俺たちよりもよっぽど緊張感なかったぜッ?」
クレハンの言葉に被せて、言いたい事を捲し立てたルーギルは、その後逃げるようにユーアの後ろに隠れる。
「……………………」
「なんとか、言ったらどうなんだァ? ああんッ!」
私が黙り込んだのを見て、隠れたユーアの後ろから出てくる。
ポケットに両手を突っ込み、私を真下から見上げるようにして啖呵を切ってくる。
「………………て、いいよ。ユーア」
「え、なんですか? スミカお姉ちゃん?」
「ああんッ? もしかして謝罪かぁ? だがよく聞こえねぇな」
俯き小さな声の私に、更に挑発をするルーギル。
『くっ、こいつだけはっ!』
「……もう撃っていいよユーア。ルーギルを」
そう端的にユーアにお願いする。
「…………いいんですか?」
「うん。バチってやっちゃって、責任は私が取るから」
迷っているユーアに、指を立ててニカっと笑顔で答える。
「ハァッ!? ユーアッ! お前まさかッ!?」
「ごめんなさいルーギルさん。ボクはスミカお姉ちゃんの弟子なので」
クルっと振り向いたユーアは満面の笑みを浮かべていた。
だけど、その手にはスタンボーガンが握られていた。
そんなユーアも思うところがあったのだろう。
きっとユーアの事だからルーギルを助けた後、クレハンを心配するルーギルの心中や、戦闘後を労ってドリンクレーションを与えて落ち着かせたんだと思う。
『まぁ、ユーアにしてみればその気持ちを裏切られた。って感じかな? そこら辺の事はルーギルも気付いてるとは思うけどね、さすがに』
ユーアをけしかけたそんな二人は、と言うと、
「ルーギルさんっ! もう動かないでくださいっ!」
「ユ、ユーアはお前なぁッ! ――――」
そんな二人はキャッキャ言いながら追いかけ回っていた。
少し見ないうちにずいぶんと仲良くなったものだ。
やっぱり命を懸けた戦いをした者同士の戦友みたいなものだろう。
でも――――
『ユーアは私のだからっ! 誰にもあげないからねっ!』
そう心の中で、私は再決心するのであった。
※※※※
「はいはい。そこまでぇ~っ! もう私の話を聞いてぇ~っ!」
落ち着いた頃を見計らって、手を叩き三人の注意を向ける。
「おうよッ! 嬢ちゃん」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「はい。スミカさん」
そんな三人は私の前に来て、なぜか一列に並び始める。
別に集合をかけたわけでもないのに。
「あのさ、あの2体のオークの異常性は戦ったルーギルたちはわかるよね? 絶対普通では存在しない個体だって」
そう言って、現在捕らえられている2体のオークを指さす。
――――
1体目
スタン効果が切れて、今は透明壁の中の小さなオーク。
その体躯はユーアよりも小さい。そして視認できない程す速い。
2体目
両手を上げたまま透明壁の中で、同じく身動きの取れないオーク。
その体躯は普通の建屋よりも大きい。そしてあり得ない程の怪力。
――――
「ああ、そうだなッ! どっちも見た事もねぇ奴らだッ! でもそこまで気にする事なのかッ? このまま退治しちまえばどうでもよくねぇかッ?」
ルーギルが代表してなのかそう答える。
今は身動きが出来ないからって、その意見は楽観的過ぎる。
「いや、そこは気にしようよ。数がいたら十分脅威だから。それにここからは私の推測って言うか、勘に近いんだけど聞いてくれる?」
些か、真剣な表情に変わったみんなを見てそう告げる。
「お、おうッ!」
「は、はいっ!」
「う、うん……」
そんなみんなを見渡しながら、
「ねぇ、これって、誰かに操られてるか? 人工的に作られてない?」
そのオークの特異性と、ある部分を見てそう発言した。
新しいキーボード買ったのですが、安物のせいか反応が鈍いです。
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