そんな突拍子もない、私たちを襲ってきた男の言葉を――――
「嘘ね」
私はバッサリと切り捨てた。
証拠も無いのに私は信用するわけがなかった。
そして視覚化して最大5メートルの透明壁を、コムケ街の冒険者(仮)に向けて振り下ろす。
「ちょっとまて! いや、待って下さい!! 証拠をみせっ!見せますからぁっ胸のポケットを――!」
視覚化した透明壁はコムケ街の冒険者(仮)の眼前を掠るように通り過ぎ、
目前の地面を叩きつけた。
どご――ん!!
「がはぁっ!!」
コムケ街の冒険者は、透明壁を叩きつけた余波で吹っ飛ぶ。
そしてそのまま後方の木に激突してボトリとズリ落ちた。
「ぐふぁっ――」……ガクリ
「スミカお姉ちゃん…………」
「へっ?」
なんかユーアの視線が痛い。
え、私が悪いの?
だって信じられないんだもんコイツの言う事。証拠もないし。
それでも直撃しないように避けたんだよ?その結果なんだから大目に見て欲しい。
まぁー、透明壁を即座に解除すればそれで良かったんだけど。
ユーアは気を失っているコムケ街の冒険者に近づいて恐る恐る胸ポケットをまさぐっている。そして一枚の薄い石板らしきものを見つけプルプルと震えている。
「………………ユーア?」
そういえば「どご――ん」「ぐはぁっ」する前にポケットがどうのこうの言っていたような気がする――――
「ん、どうしたのユーア何かいいもの見つけたの?」
後ろから声を掛けてみる。
「お、お、お、お姉ちゃん――――……」
あれ? お姉ちゃんの前にスミカが抜けてるよ?
「――この人本物の冒険者の人だよぉぉぉっっ――っ!!」
「え?」
そう振り向いたユーアは涙目だった。
その手には冒険者証を持っていた。
※
とりあえず、またリカバリーポーションをコムケ街の冒険者に使用する。
『…………………』
これ着付け薬じゃないんだけどなぁ?
なんて、ちょっとだけ思いながら。
でも、あわあわしているユーアにお願いされれば仕方ない。
しかも、あわあわしているユーアも、また可愛かった。
よっぽど、この男の正体に驚いたのだろう。
「ううっ、一体何が起きやがった―――」
コムケ街の冒険者が、そう言って即座に目を覚ました。
この男が持っていた冒険者証は、この世界の、これ以上のない身分を証明するものなので、
この男の身分は、これで信用できるそうだ。
現代で言う、戸籍や住民票みたいなものだろう。
コムケ街の冒険者と名乗った男は、そう一言発した後、キョロキョロと辺りを見渡す。
そして、私を見付けて目を見開く。
「うわァっ――!!」
ズザザ――――ッ!
一瞬にして私から離れるように後ずさりを――
することは出来なかった。
だって後ろは木の壁だもん。
「ルーギルさん? ごめんなさいっ! わ、悪気はなかったんです! 許してください!」
ユーアは、コムケ街の冒険者を名乗る男の前まで行き、膝をつき、涙目になって必死に謝罪をしている。
「うえっ!? あ、ああ―― 分かってもらえりゃいいんだ……」
状況を把握したのか、しどろもどろに答える。
「良かったぁ、それとルーギルさん、お体は大丈夫なんですかっ?」
「あ、あぁ、そういえばどこも痛みはねえな、嬢ちゃんたちが治療してくれたのか?」
「うん、スミカお姉ちゃんと」
「そ、そうか、ありがとよ、えーとー…」
「ボクはユーアって言います、あとスミカお姉ちゃんですっ!」
そう言ってユーアは私も紹介してくれる。
「お、おう、ユーアって言うのか、ありがとな、それとスミカ……嬢もな」
コムケ街の冒険者を名乗る男はそう言って私を見る。
だがその目は、若干泳いでいた。まだ動転してるのかな?
「わ、悪いが、この拘束ほどいちゃくれねえか? もう襲うことはしねぇし、最初から説明する。それと他の奴らも起こしちゃくれねぇか? まだ信用できねぇならば拘束したままでもいいからよ」
「う、うん、わかりました」
「ユーア、私がやるから、他の人たち起こしてもらえる?」
ユーアを止めて私と交換する。
解いた途端にユーアが何かされたら危ないし。
その際、ユーアにリカバリーポーションを渡す。
私はユーアの代わりに、男たちの拘束を解いてやる。
そしてコムケ街の冒険者を名乗る男に聞いてみる。
「なんで、|コ《・》|ム《・》|ケ《・》|街《・》|の《・》|冒《・》|険《・》|者《・》|を《・》|名《・》|乗《・》|る《・》|男《・》は私たちを襲ったの?」
後ろでは、ユーアがリカバリーポーションを使って男たちを治療していく。
「……こんな、すごい回復薬みたことないよ……」
そんな呟きが聞こえる。
「『ルーギル』だ」
「は?」
「『ルーギル』だ! 最初に目が覚めた時にそう名乗っただろう……」
「そうだっけ?」
「そうだ、お前の相方のユーアもそう呼んでただろうが……」
ジト目でこちらを見てくる。
が、男のジト目は全く可愛くない。
「はぁ、まあいい、これから最初から説明するから聞いてくれ」
そう言ってコムケ街のDランク冒険者『ルーギル』は口を開いた。
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