エンケージ! —Children in the bird cage—【ゴーストサーガ】

青春×恋愛×ミステリ。友情と愛と仕組まれた七日間。
至堂文斗
至堂文斗

鴇村 ②'

公開日時: 2021年2月25日(木) 21:29
文字数:1,663

「はー、惜しかったなあ」

「もう少しで勝ててたのにね」


 先ほどのドッジボールの結果を悔しがるクウと、それを宥める僕。もはや遊びの時間となっている体育の授業が終わり、着替えを終えた僕らは、次の時間までの短い休み時間に話していた。


「そういえば、運動場からでも見えるんだけどさあ。村の人たちって、ある意味すごい平和よね」


 クウの話題はいつも方々へ飛ぶのだが、この言葉もその例に漏れない。


「うん?」

「いやあ、玄関の扉とかよく開けっ放しで出かけちゃってりしてるじゃん。村の外じゃ無用心って言われるだろうなと」

「あー、この近くの町で連続空き巣事件が起きてるんだっけ。ニュースでも見たんだね」

「そうそう」


 確か、朝のニュースでそういう事件が報道されていたはずだ。どこの家も、朝はニュースを見ているらしい。

 閉ざされた村でも、外のことは知りたいということだ。


「鴇村には確かに、警察はいないけどね。村の管理を任されているところは、あるにはある」

「ツバサちゃんとこ?」

「うん。確か拘置所みたいな場所があって、事件を起こした人はしばらく入れられていたらしいよ」

「んー、昔はだよね。今じゃカエデさんだけだし」

「平和だしね」


 カエデさん、というのはツバサちゃんの母親だ。随分昔に夫、つまりツバサちゃんの父親は亡くなっている。彼の築いた財と権力とを少しずつ消費しながら、真白家はこの村で続いている状態だ。


「どうして地の家なんだろうね?」

「さあ。天の家の反対ってことは分かるけどね」


 どうせ古い言い伝えが、意味を失くしても伝わり続けているだけだろう。僕はそう思っている。


「いらなくなってきてることも、きっと結構あるんだと思うよ」





 六時間目の授業が終わり、皆がそそくさと帰る準備を始めたとき、黒板の字を消している僕にカナエ先生が声を掛けてきた。


「今日はいい天気ね。素敵な画になりそうだわ」

「ええ、そうですね」


 僕も窓を眺めながら、ゆっくりと首を動かす。


「綺麗な自然と綺麗な鳥と。本当にいいところだと思うわ、鴇村は」

「自画自賛、ですけどね」

「ふふ」


 そのあたりで黒板を消し終わった僕は、じゃあ、と先生に告げて自分の席へ戻った。先生は教壇に立ち、


「じゃあ、明日も元気で来てくださいね。皆さん、さようなら」


 と別れの挨拶をする。


「さようなら」


 生徒達全員がそれに答えた。

 ワタルやクウは、放課後も遊びたそうにしていたのだが、タロウが憂鬱な表情で遊びの誘いを断ったので、僕らはとりあえず、今日は皆で遊ぶのをやめて家に帰ることにした。

 学校前で別れ、僕らは橋を渡る。ワタルとツバサちゃんが背中を見送ってくれているのが分かった。


「じゃ、また明日ね」

「えー、ちょっとウチに寄ってかない?」

「ノリが軽いなあ。今日は遠慮しておくよ」

「むー。じゃあいいや。またね」

「はいはい、またね」


 クウが自宅の扉を開け、ただいまと元気良く言いながら入っていくのを見届けて、僕も自分の家へ帰っていく。

 こうして学校が終わって家へ戻ってくるときが、一番自分の家の大きさを実感する。

 別に、こんなところじゃなくても良かったんだけどな、という思いと一緒に。


「ただいま」


 ガラガラと開き戸を開けると、すぐに母さんがやって来る。


「おかえり、ヒカル。今日は早いのね」

「うん。タロウのところが大変だしさ。今日は皆でわいわいするのはやめとくみたい」

「そうね……ジロウくん、かなり悪いみたいだから」

「大きな病院には連れて行かないのかな?」

「そうするとは思うんだけどねえ。明日にでも行くんじゃないかしら……」

「ふむ……」


 もう少し早く大きな病院に行けなかったのかとも思ったが、何か理由があるのかもしれない。深くは訝らないことにする。

 部屋に戻ると、僕は机の上に置かれたカメラを手に取った。首掛け用のストラップがついており、首から提げることで両手が空き、いつでも撮れるのが便利なところだ。

 ストラップ部分を掴み、すぐに身を翻すと、


「じゃあ、またいってきます」


 と廊下に向かって投げかけ家を出る。母さんの、


「日が暮れるまでに帰るのよ」


 と言う言葉を背に受けて。

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