オレらがよく行くバーガーショップは、学校から徒歩三分程度。なので、自然とこの時間帯はうちの学校の生徒が過半数を占める。
今日も今日とてとても混んでいる……。ぱっと見、席のほとんどがうまっている。今凜々花や美玲が席を探してくれてるけど……大丈夫かな。
黒葉のせいで、交代が遅れたから凜々花の日直の手伝いも遅れてしまった。これで席にも座れなかったら週末に無理やりオレの予定をいれてやる……!
「夏咲、今黒葉に復讐でもしようとか考えてた?」
「え、なんでわかるの⁉」
隣に立つ薫がくすっと笑った。すると店にいる周りの女子たちがちらちらと薫を見ながら、火照った顔で小さく声を上げていた。うんうん、やっぱり顔が良いなぁ薫は。オレもそんなに悪い方ではないと思ってるけど、薫と比べるほど自惚れてはいない。
って、そんなこと考えてる暇じゃないし! この人何で笑った? オレなんか変なこと言った?
「夏咲が険しい顔するときってほぼないからさ。黒葉のこと考えてるときはすっごい怒った顔するからわかりやすい。本当に顔に出やすいよね。夏咲も黒葉も」
「薫? 最後の一言怒っていい?」
「あーごめんごめん。一緒にされるの嫌だったっけ。夏咲も黒葉も」
「だからその一言!」
そんなやり取りをしていると、美玲が手招きをしながら「なつぽーん!」と大きな声で呼んできた。
どうやら見つかったみたい。命拾いしたな。黒葉。
美玲の方に行くと、広めのテーブル席に美玲含め4人の女子がいた。
凜々花と……あと二人は、夕ちゃんと麻琴ちゃんだ。黒葉の友達。
そっか。今日は二人もここに来ていたんだ。オレと薫が座る分のスペースは十分にありそう。
「げっ」
「……最悪」
ものすごく嫌そうな視線を向けられている気がする。気のせいかな。
「席は空いてなかったんだけど、桜井さんたちが座ってる席がちょうど空いてて。二人にも話があったから、座らせてもらったの」
「桜井さん、小嵐さん、ごめんね! けど、二人にとってもいい話だと思うから、お願い、話させて!」
凜々花はオレと薫に、美玲は夕ちゃんと麻琴ちゃんに向けて言う。
オレはひとまず麻琴ちゃんと凜々花が座る方の席に座った。薫はオレと向かい合わせになって、夕ちゃんと美玲が座る席に座った。
「おう! それで、こんな大人数で何の話なんだ? 凜々花」
「えっとね、この六人で旅行に行かない? もちろん黒葉くんも入れて」
凛々花の言葉に、夕ちゃんと麻琴ちゃんが「え?」顔を引きつらせていた。
「……なんでボクたちまで巻き込むの」
「そうっすよ! どこ行くのか知らないっすけど、黒葉だって嫌って言います」
夕ちゃんと麻琴ちゃんは真っ先に反対した。
夕ちゃんと麻琴ちゃんはオレや、オレと仲がいい凛々花と美玲のことをあまり好きではないらしい。というか、オレの方ははっきりと二人から「嫌い」と言われてるんだけど……。
この二人はきっと反対するだろうな。それに、黒葉もあまり外に出るタイプじゃないし、反対はしそう。
だけど凜々花のこの提案、オレにとっては大チャンスかもしれない。
「凜々花、オレは賛成! 夕ちゃんや麻琴ちゃんとも仲良くなりたいし、六人で行きたいな! 人数が多い方が楽しいだろ?」
「はぁ~? こっちは仲良くなる気なんてゼロなんすけどぉ?」
「大人数の方が楽しいとか、そういう考え方が無理」
うっ二人からの敵意がむき出し……!
夕ちゃんも麻琴ちゃんも、仲がいいとまでは行かなくても、昔はもっとお話してくれたのにな……なんでこんなことになってしまったんだろう。
「……というか、いつの話? ボクも忙しいから、どっちにしろ旅行は無理だと思うけど」
麻琴ちゃんは、ポテトを一つたべると、興味なさげに聞いてくる。そっか。麻琴ちゃんは例の仕事があるから……。
なんて考えてると、『言ったら殺す』みたいな視線を向けられたので、首を思いっきり横に振った。
「来月のゴールデンウィークだよ! 四日と、五日のね!」
美玲が楽しそうに声を弾ませて言う。こういうときの美玲はどんな状況でも明るいなあ。やっぱり明るくて元気がいいムードメーカーが一人でもいると、場が和む。
「最悪。その日は予定ない。というか五日って……。あーなるほど。そういうこと。……あんたらに抜け駆けはさせたくないな」
麻琴ちゃんの目が険しくなった? ええと、何を察したんだ?
「あっそうだ。夏咲、ポテトとアイスコーヒー買ってきてよ。ここで話すだけじゃお店に申し訳ないしね」
さっきまで無言だった薫が、突然オレにお金を差し出してきた。確かに、オレたち席に座っただけだもんな。喉も乾いてきたし、買いに行ってこよう!
「おう! 美玲や凜々花は飲み物とか大丈夫? 買ってくるよ!」
「なつぽん、ありがとー! じゃあ、コーラお願いしていい?」
「夏咲くん、じゃあ、紅茶飲みたいからお願いしようかな? ありがとね!」
「了解! じゃあ行ってくるな!」
美怜と凛々花の二人から飲み物代を受け取ると、オレはレジに向かっていった。
「かおかおナイス!」
「ありがとう。瀬川くん」
何か聞こえた気がするけど、よく聞き取れなかったのでそのままレジに並ぶことにした。
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