※ ※ ※
「夏咲にはできない話があるんじゃない?」
「かおかお、察しが良くて助かるよ! そう、ずばり、なつぽんにサプライズをしたくて!」
「薫くんありがと。夏咲くん、5日が誕生日だから、私たちで思いっきり驚かせたいの! それで、黒葉グループにも相談があってね」
「はぁそういうこと。だったら勝負しようよ。ボクたちは黒葉を祝うから、どっちが最高のサプライズができるか」
「麻琴さん⁉ それってつまり……」
「小嵐、明日黒葉を説得させるよ。こんなやつらに負けてたまるか」
「あーもう、わかったっすよ! 黒葉を消させなんてさせません! こっちが消してやりますよ。夏咲さんを」
※ ※ ※
バーガーショップで旅行の話をした後、夕ちゃんと麻琴ちゃんと分かれて、ショッピングモールで買い物をしたり、ゲーセンに寄ったり、公園で休憩したりして、家に帰る頃には19時を過ぎていた。
「ただいまー!」
オレが元気よく言うと、「おかえりなさい~」という母さんの声がした。母さんはどうやら晩御飯を作ってるようで、台所のほうからすごくいい匂いがする。これは、シチューかな?
オレは台所の方に行って、母さんのキッチンを覗く。
「やっぱりシチューだ! おいしそう!」
「ふふ。夏咲はいつも子供みたいな反応するわね」
「そうかなー? 黒葉みたいにぶっきらぼうよりいいでしょ!」
「もう、すぐ張り合おうとしないの。もうできるから準備してすわってて」
「はーい」
オレは母さんが好きだ。
美味しいご飯を作ってくれるのはもちろんだし、黒葉から生まれたオレのこともすんなりと受け入れてくれて、大切にしてくれている。決して黒葉の方が~とか、そういう話はしない。ちょっとばかし、黒葉よりもオレの方が好きって言ってもらいたいけど……。今は母さんがオレを受け入れてくれるだけで嬉しい。
オレが自分のことを母さんに言ったのは、高校に入学するときだったから……もう一年経ってるんだなぁ。母さんと関わるようになって。
オレが黒葉に消えてほしいと願ってることを知ったら、母さんはオレを消そうとするのかな。
あーやめやめ! そういうのは考えない! 笑顔笑顔!
オレはすぐに手を洗って自分の部屋に荷物を置いて、リビングに向かった。シチューはもうできていたようで、テーブルに並べられていた。
「いただきます!」
「いただきます」
母さんと向かい合わせになって食事をする。今日のシチューもすごくおいしい。毎日食べたいくらい。
まあ、母さんの手作りを食べられるのは、二日に一回なんだけど。
「母さん、今日もおいしい! あと何倍おかわりしていい?」
「シチューが尽きるまでどうぞ」
オレに向かって微笑む母親に、オレは「ありがとう!」と言って笑う。
うん。やっぱり【オレ】は母さんが好きだ。
それが、アイツが元々持っていた感情の一部だとしても、今ここにある感情はオレの、オレだけの感情だ。
「あ、母さん、来月のゴールデンウィークなんだけど、凜々花たちと旅行行くことになって、平気かな? 四日と五日!」
「旅行! それに五日ね。ふふ、いい友達を持ったわね。黒葉とは相談したの? 二人が納得できる形ならいいわよ」
「夕ちゃん達に黒葉を説得してもらおうと思って」
「黒葉の友達も行くのね。それなら説得、安心できそうね」
今日、バーガーショップでジュースとポテトを持ってきたあと、あれだけ乗り気じゃなかった夕ちゃんと麻琴ちゃんが、なぜか急に行く気になったのは驚いたけど、それなら、黒葉も説得できるはず!
――二人が納得できる形なら、かあ。
黒葉のことなんか気にせず、好き勝手に生きたい。それは母さんが望まないことなんだろうなあ。
「場所はどこなの?」
「えっと、凜々花の実家でね――」
オレは凜々花の実家の大まかな場所と、実家が花屋をやっていると言う話をした。
凜々花は場所が離れていることでなかなか実家に帰れない。だから旅行という形でゴールデンウィークに帰省しようという話だった。どうやら凜々花の実家の近くにホテルもあるらしく、凛々花と美怜以外はそこに泊まろうという話になっていた。凛々花と美怜は凛々花の実家で過ごすらしい。
「夏咲、よく聞いて。そこは、黒葉にとって良くない場所、かもしれないの。だから――」
母さんはひどい。
オレに、そんなこと頼むんだ。
ううん。ひどくないな。だって母さんは母親として当然のことを言ってる。
そうだよね。オレは、黒葉の副人格だから。
「――黒葉が危ない時は、守ってあげて」
返事はできなかった。
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