いつか魔王になろう

Red R
Red

ずっと・・・一緒だよ。

公開日時: 2020年9月15日(火) 11:33
文字数:6,152

「にぃにー、干し肉はこれくらいでいいすかぁ?」


「そうだなぁ…足りなくなったら途中で調達すればいいだろ。」


「了解っす。・・・ねぇね、遅いっすねぇ。」


「あー、たぶんいつものかも?迎えに行くかぁ。」


「いつもの…すね。じゃあ、ここで待ってるっすからお願いするっす。」


「はいよ。ちょっと行ってくるわ。」


「行ってらっしゃーい。」



・・・にぃにとねぇねと一緒の旅かぁ。


旅する事が楽しいなんて思った事一度も無かったけど、にぃにとねぇねと・・・家族と一緒に旅に出る・・・なんかワクワクするっす。


あの時ボスに言われてなければ…それだけはあのロクデナシに感謝っすね・・・。


◇ ◇ ◇ ◇


「オイ、チビ街へ行ってこい。」


「何しに?」


「偵察だ偵察。近く街を出る隊商はいないか?いるならどれくらいの規模か探ってこい。・・・気をつけろよ。」


可愛げのない・・・。


「・・・聞こえてるよ。大きなお世話だ。」


可愛く無いって思われておかないと・・・最近身の危険を感じてるんだから。

とはいってもね・・・最近口癖になりつつあるから気をつけないと。


街では何の収穫もなかった。隣の国へ行く隊商はいても国内に向かうのは少ないみたい。

また荒れるかなぁ。最近ベスパの奴イライラしてるからなぁ。


アジト付近に戻ってみるとなんか騒がしい。何かあったのだろうか?

ちょうど近くに来た奴に聞いてみる。


「ビスケス、何があった?」


「ウヘッヘッ、リィズこんな所にいた。ちょうどよかったぜぇ。」


ビスケスにいきなり押さえつけられる。

嫌だ。なに、怖い・・・。


「こ、こんなことして・・・ボスに・・・グゥ・・・言いつけ・・・るよ」


「ハァ?ボスぅ?誰のことだァ?今のボスはベスパさんだゼェ。ウヒャッヒャッヒャァ・・・。」


「楽しもうゼェ、リィズちゃん。」


ビスケスの左手が私の胸を弄る。嫌だ、気持ち悪い。


「嫌ッ!」


服が引きちぎられる。


「イヤッ、いやぁー!」


「グヘヘ・・・」


ビスケスは、さらに私を辱めようとするが…押さえつけている力が緩んだその一瞬に急所を蹴り上げる。


「ウグッゥゥ…。」


ビスケスが股間を押さえのたうち回る…今のうちに!

私は、とにかく走って、走って逃げた。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」


何とか逃げ切ることが出来た・・・。息を整える・・・。


とりあえず、服を何とかしなきゃ。

胸元を腕で隠しながらあたりを見まわす。布切れでもあればいいんだけど…。


探していると丁度良さそうなローブが干してあるのを見つけたので黙って拝借することにした。

フードも付いていて顔を隠すのにちょうどよかった。


カツカツカツ・・・。


足音が聞こえる。私は慌てて路地の片隅に身を隠す。


・・・カツカツカツ・・・・・・。


足音が遠ざかっていく・・・ふぅ・・・。


大丈夫…見つからない…とりあえず、どこかで落ち着きたい。



・・・何とか身を隠し落ち着けそうな場所を見つけた。今日はここで休もう。


念のため糸を使った簡単なトラップを仕掛けておく。人が近づけば手首に巻いた糸が引っ張られてすぐわかる仕組みだ、これで一息つける・・・。


身を休めながら、考える…。ビスケスの口ぶりからすると、ベスパがボスを殺して組織を乗っ取ったんだと思う。また、ビスケスのあの態度・・・捕まったら慰み者になる未来しか浮かばない。


「いやだよぅ・・・なんで・・・なんで・・・。」


涙が溢れてくる。私の人生、なんでこうなんだろう…。


両親を殺した盗賊達に、奴隷のように扱われた挙句、こんな路地裏で野垂れ死に…。


ふと、盗賊達が噂していた都市伝説を思い出す。


あれは、前の処で途中入りしたヤツが言ってたんだっけ・・・どこからともなく現れて強力な魔法でアジトを強襲する奴がいるって。


「笑いながら腕を切り刻むんだ。その後、全快されてまた切り刻む…あんな拷問たえられねぇ!」


「いきなり爆風で吹っ飛ばされるんだ・・・でも即死する奴はいねぇ…ヤツはちゃんと計算してやがるんだ。死んでないよなってニヤリと笑うんだぜ…あの笑顔は背筋が凍る。二度と会いたくねぇ。」


「俺、大怪我して死ぬかと思った時に、アイツに会ったんだ。アイツは何も言わずに俺を直してくれたんだ。死ぬかもしれない怪我が一瞬で何もなかったかのように治るんだぜ。神か天使かって思ったよ。・・・俺のけがの原因がアイツじゃなければね。」


その後も似たような噂をたくさん聞いた・・・。



「本当にいるなら、あいつらやっつけて、私を助けてよぉ…。」


思わず、声が出てしまった。


本当かウソかはわからない伝説の人…もし出会う事が叶えば絶対について行こうって決めた。

こいつらをやっつけてもらうんだ。お礼に、私の全てを差し出してもいい。


「…でも所詮は都市伝説。現実はこんなんだよ・・・。」


・・・いつしか私は眠りに落ちていった…。伝説の男が、路地裏で眠る私を抱き上げ「もう大丈夫だ、俺がずっと一緒にいるよ」と囁いてくれる・・・そんな夢を見た。



・・・ひどい顔だ。水場に映る自分の顔を見てそう思う。


アジトから逃げ出して、三日・・・私を探している奴に見つからないようにしながら街中をさまよっている。


食事もロクに取れていない。警備隊の処に行っても盗賊の仲間として処刑されるだけ…それもいいかもね・・・私の人生ロクなもんじゃないし。


……ふと前方を見ると若い男女が歩いているのが見えた。…幸せそうな顔をしている女性を見た途端、ドス黒い感情が胸の奥で渦巻く。

私がこんな目に合ってるのに、目の前の女は笑ってる…幸せなんだよね、少しくらい分けてもらってもいいよね。お財布、軽くしてあげるよ。


私はさりげなく近づくと女の前でよろめいたふりをしてぶつかる。お財布を掏ろうとして止める……ヤバい気配がする…あの男の方からだ。私は逃げだした。



あれから、私は男に捕まった。私を探していた奴らと鉢合わせしそうになった時にはダメかと思ったけど、あの男がかばってくれていた。


結局、何も言わず、何も聞かず開放してもらえたが、私の大事なものが無くなっているのに気付いた。


……あの盗賊達にも見つからないように大事に隠し持っていた…お母さんの形見のネックレス…あの男が持っているに違いない。


一緒にいた女の人…あのお姉さんは優しそうだったし、話せば返してもらえるかもしれない…けど…


ビスケスに襲われた時のことが頭をよぎる。

もし、返してほしければ…と、迫られたら…襲われたら…私ではかなわない。


隙を見ってこっそり忍び込んで取り返すしかない。

私は様子を伺おうと窓からそっと中をのぞく・・・!!


あの男が私の大事なものを弄んでいる。…考えるより先に体が動く!



「イヤッ、嫌ぁ―。」


私は今拘束されてベットの上に押し倒されている。


「何故襲った!」


襲われてるのこっちなのにぃ…いやだよぉ。


「いや、やめて、来ないで・・・」


男が覆いかぶさってくる。


「いやぁ、私初めてなのに、こんなのイヤー!」


私の初めてを、こんなところで身動きが取れないように拘束されて弄ばれながら散らすなんて・・・。


「いやだよぉ・・・」


動けない、泣き叫ぶことしかできない自分が情けないよ…。


「あのぉ、無理やりはよくないと思うの」


緊張感のない声が聞こえた。なぜかホッとした。

おかげで少し余裕が戻ってきた…お姉さんもっと言ってあげて。



「あの・・・レイさん、ミリィさんがちょっと見てほしいって、呼んでます。」


レイさんに声をかけると、レイさんはミリィさんの元へ行き何やら話し込んでいる。

食堂に置く小物を見てる・・・ミリィさんが今手にしたの、可愛いよね。


あの温かい雰囲気によく似合いそうだよ。


「レイさん、ミリィさん、ありがとうございました…。」


私は小さくつぶやき、こっそりと二人から離れていく・・・。


レイさんは強くて優しかった・・・ベッド占領しちゃってごめんなさい。


ミリィさんは暖かった・・・ずっとギュってしてくれてた。寝ぼけて「ママ」と呼んだら「お姉ちゃんでしょ」って怒られた。


お布団暖かった…あんなにぐっすり眠れたの…いつ以来だろう。


ご飯美味しかった。誰かと食べるご飯がこんなに美味しいなんて知らなかった。


ここに居ていいよって言われたの初めてだった。ずっと一緒って言ってくれた。


たった1日だけだったけど・・・とっても幸せだった…。


ぐすっ・・・ぐす・・・。

「あれっ?涙が止まらないや・・・。」

・・・ぐすっ・・・ぐすっ・・・。


「・・・私の人生、ロクなもんじゃないって思ってたけど……今なら…ウン…私の人生捨てたもんじゃなかったよ。」


たった一日でも十分報われた…だから…。


「あの親子を助けなきゃ。」


ひとしきり泣いた後、涙をぬぐって街外れに向かって駆け出す…急がないと。



あいつらが商人を襲って、人質を取ってるって聞いた。

ベスパのやつなら身代金を取った後、殺すかもしれない…アイツはそういうやつだ。


・・・あの親子を私達の様にしちゃいけない。


私一人で何ができるって言われるかもしれないけど…隙を見て人質の戒めを解いた後、ママのお守り…籠めてある魔力を暴走させる。


私は無事じゃすまないかもしれないけど、混乱に乗じてあの親子は逃げれるはず。


「怖いけど…怖いけど…勇気をもらったから大丈夫。」


街外れに辿り着く…ここからなら外へ行ける。

私は一気に飛び越えようと壁に手をつく。


「ひひゃぁ!」


いきなりビリビリ来た。思わずバランスを崩し身体が地面に叩きつけられ・・・ない。なんで?


「早くも家出か?」


レイさんがいる…なんで?落ちそうになった私を抱きかかえてくれている。


・・・私の行動なんてお見通しなんですね。優しいお二人だからともに来てくれたんでしょうけど・・・でも、私が後悔したくないから行くの。だから止めないで。


「うん、止めないよ。と められないよ…だから一緒に行くよ。」


遠慮せずに頼れ…とレイさんが言った。家族だから…とミリィさんは言った。


「アハっ・・・なんなんですか、もぅ・・・。もぅ・・・。」


こんな温かさを知ったら…もう、一人でいられなくなっちゃうよ。


もぅ・・・責任取ってくださいね。


私は二人にしがみつき思いっきり泣いた。もう一人で頑張らなくていいんだという声が聞こえた気がした…。



レイさんがキレた・・・。縛られている商人の親子を見た途端、極大魔法を打ち、突撃していった…。


強いとは思っていたけど…あれ、レベルが違う。魔法を打ちながら切り倒していく・・・盗賊達が『微笑みの仕置き人』だの『地獄の水先案内人』だのと言っている。


伝説のあの人…本当にいたんだ…レイさんだったんだ…私の全てを差し出して…一生ついて行こうと思い描いていた伝説の人…


「レイさんだったんだぁ…、ウッ!」


レイさんの戦いぶりに見とれていたため、背後が疎かになっていた。


「ヘッヘッヘっ…リィズ…また会えてうれしぃぜぇ。」


「ッ!ビスケス!」


ビスケスが私を後ろから羽交い絞めにする。


「リィズを放して!」


ミリィさんが叫ぶけど…ミリィさんも手を後ろに回されて捕まってる。


「よぉ、ネェちゃんはあとでたっぷり可愛がってやるから、そこでおとなしく見てな。先にリィズにはたっぷりとお礼しなきゃならねぇからな。へへへ…」


「クッ!放せ!」


じたばた暴れてみるが、動けない。


「リィズを放しなさい!聞こえないの!」


ミリィさん、巻き込んでゴメン…あぁっ!ミリィさんの腕が燃えてる!


「何だぁ…てっ、おい…。」


ミリィさんを抑えていたチンピラが手と顔を抑えてのたうち回っている。


何?何が起きたの?分かっているのはミリィさんが抑えられていた腕ごと燃やしたって事だけ…。


「もう一度言うわ。リィズを放しなさい!」


ミリィさんが距離を詰めてくる。


「ひぃ…く、来るな…来るなぁ。」


ビスケスがパニックっている。拘束が緩む…今のうちに!

私が抜けだすのを阻止しようとビスケスがナイフを振り回す。そこにミリィさんが飛び込んでくる。


すべては一瞬の出来事だった。


「リィズ・・・大丈夫?」


「ミリィさん、血が、血がこんなに・・・。」


ミリィさんを抱きかかえる…脇腹にナイフが刺さっていてそこからの出血がひどい。

私はナイフを抜き、止血しようとするが、止まらない・・・どうしよう。


「いやだよぉ・・・いやだよ・・・死んじゃヤダ…ママ…」


「お姉ちゃん!そこはお姉ちゃんって呼んでくれないと・・・ね。」


ミリィさんがにっこりと笑う。


「リィズ…そこの…お水出してくれる?」


言われたとおりに水を出し、ふたを開ける。


「・・・水の精霊さん、お願い…『水霊の癒しキュア・ヒール!』」


ミリィが魔法を唱える…血が止まり、徐々に傷口がふさがっていく。


「ちょっと休めば大丈夫よ…だから泣かないでリィズ。」


私はミリィさん抱きつく。…お姉ちゃん。そう呼んだものの、何かが違う気がした。

…遠い昔、私はだれかを「お姉ちゃん」と呼んでた気がする・・・いや「おねぇちゃん」…違う…ねぇ・・・ねぇね・・・だ。私はだれをそう呼んでいたのか思い出せない。


「ねぇね・・・。」


「私は大丈夫よ。でもレイさんにはナイショにしておいてね。」


「ウン、ねぇね。助けてくれてありがと。」



「すごい御馳走だぁ!」


「リィズの為に作ったんだから沢山食べてね。」


あれから、盗賊団を縛り上げ警備隊に引き渡した後、おうちに帰ってきた。


ずっといていいって言ってくれた場所・・・もう戻ることは無いと諦めた場所。

たくさんご飯を食べて、一杯おしゃべりをして、ねぇねと一緒のベッドで眠る・・・幸せってこういう事なのかな?


「ん?ねぇね、どうしたの?もう朝?」


一緒に寝てたねぇねが起きる気配で私も目を覚ます。


「あ、リィズごめんね。おこしちゃった?まだ寝てていいよ。」


「枕持って…どこ行くの?」


「あ、えっとね、その・・・レイさん様子おかしかったから…その、眠れないんじゃないかと・・・」


「にぃにの処に夜這い!」


私は一気に目が覚めた。


「ち、違うのよ…夜這いじゃないの。」


ねぇねは顔を真っ赤にしてあたふたしている。


「一緒に住んでるんだし、そうじゃないかって思ってたけど…ごめん、私邪魔してる」


「違うのよ、リィズ、そんなんじゃなくて…」


ねぇねがアタフタしている。なんか面白い。


「でも、ねぇねとにぃに…そういう仲なんでしょ?」


「ちがうのぉー」


ねぇねが枕に顔をうずめる。耳まで真っ赤だ。


「あのね、…まだ…ギュっしかしてないの・・・」


ねぇねが、枕から少し顔をのぞかせて、ぼそっと言う。


・・・言っちゃった。と羞恥に悶えるねぇね・・・

・・・ヤダ、なにこれ可愛い・・・


ねぇねをひとしきり揶揄った後、にぃにの寝室に一緒に行くことにした。


にぃにの心が凄く寒くなっているから暖めてあげないと、ってねぇねが言ってた。

リィズも一緒に・・・と誘われたので、にぃにを真ん中に、ねぇねと3人でギュってしながら眠りについた。夢の中で、お父さんお母さんが笑っているような気がした。


◇ ◇ ◇ ◇


「悪い!待たせた!」


にぃにがねぇねと一緒にやってくる。


「遅いっすよ!ずっと待ってたっす。」


「ごめんね、リィズ。私のせいで遅くなっちゃった。」


「ウン、来てくれたから大丈夫だよ、ねぇね。」


もう一人じゃないよね?ずっと一緒でいいんだよね?

ダメっていうのは無しだよ・・・もう私一人じゃいられないから・・・。


「責任・・・取ってよね。」


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