いつか魔王になろう

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キャラメイキングが一番楽しい!?

公開日時: 2020年9月7日(月) 16:31
文字数:6,800

「異世界転生」


彼女…ミルメは確かにそう言った。


俺も異世界転生というジャンルがあることは知っている。そしてミルメは明らかに運営側の人間だ。という事は、これは新しいタイトルのためのβテスターの募集なんだろうか?


「もし、興味があるのならこちらのサイトへおいでください。ではいずれまた…」


こちらの困惑はお構いなしだ。ミルメは伝えるべきことは伝えたという感じで去っていく。


残されたのはミルメからのメッセージだけ…開いてみるとサイトのアドレスが記載されていた。


「なんだかなぁ~・・・やっぱりβテスターの募集…なんだろうなぁ」


新しいタイトルに興味もある。もし面白そうなら、カナも誘って一緒にプレイするのも楽しいだろう。


その為には、やはり情報は大事だ。今日は時間もまだあるし、ちょっとだけ覗いてみよう。概要とかわかれば明日の話題にもなるし。


教えられたサイトに行くと全面真っ黒な画面の中央に「異世界転生」のタイトル。

そしてその下に先へすすむことを表す「NEXT」というボタンのみのシンプルな作りだった。


「ン~、トップページとはいえ、シンプル過ぎないか?せめてイメージイラストぐらいあってもいいだろうに・・・それとも、まだ作りかけなのかな?」



異世界転生・・・・・・ラノベでは一般的ともいわれるジャンルだ。

あまりラノベを読まない俺でもそれなりの知識はあるぐらいにあふれかえっている。

・・・・・・簡単に言えば主人公がある日突然死を迎え、気づくと異世界で生まれ変わっている。主人公には地球での記憶があり何らかのチート能力があって、それらを駆使して自由気ままにやりたい放題する…というのがテンプレだが、俺はあまり好きになれない。


人生そんな楽なものじゃないだろうと思う。まぁ、だからこそ楽に生きるというのにあこがれるんだろうけどね。


正直言って、俺は一般的に頭がいいと思う。

これは自慢とかナルシスとかじゃなく、客観的に見たらという事だ。

俺が卒業し、カナも通っている瑞龍学園は毎年東大や京大などの一流大学に現役合格者を何人も出している、名実ともに県下一の進学校だ。特に進学に力を入れた特進科ともなれば全国でも十指に入るだろう。


実際、特進科在籍にも拘らずろくに勉強もせずUSO三昧だった俺でさえ、全国模試では常に50位以内に入っていた。


しかし、社会に出ればそんな学力とかは関係なくなる。

社会で求められているのは他人と協調できるコミュニケーション能力をはじめとした「社会に適応する力」なのだ。

俺の勤め先で将来性No.1と言われている上司の学歴は高校中退だったりする。


何が言いたいかというと、チート能力を持っていようが適応能力がなければそんなに人生楽じゃないという事。

つまりラノベ等で騒がれている異世界転生などはあらゆる意味で夢物語でしかなく、そこが俺が好きになれない理由だったりする。


まぁ、それとゲームがどう関わってくるかはわからないけどね。


それはそれとして、画面のNEXTボタンを押して先に進む。


「あなたの名前を入れてください」


いきなり名前を聞かれた。

これはユーザー登録なのか?それともキャラ名を聞かれているのか?


俺はこういう時本名を入れることはしない。何かあっても説明不足の運営が悪いのだ。


「レイフォード」


香奈美ならここで素直に本名を入れるんだろうなと思いつつ、USOでも使っているキャラ名を入力し次へ進む。


次の画面では、身長・体重・などの体形や目や髪の色などキャラクターの外見に関する項目だった。


基本デフォルトでいいかと思うが目の色だけは悩んだ。


紅い瞳とか、オッドアイとか、暴走したときに金色に輝く等という厨二心をくすぐるワードが脳裏をよぎるが・・・結局デフォルトの碧眼にしておいた。暴走時金色というのは裏設定として封印しておこう。


次へ進むもうとするがボタンがない。代わりに「年齢設定」という項目が増えていた。しかも「0歳」「12歳」「17歳」の三択しかない。


どういう事だろうとカーソルを合わせるとヘルプが出てきた。


「年齢設定はあなたの成長率にかかわってきます。この世界では15歳が成人とされていますので15歳になるまでは冒険に出れず訓練期間となります。」


なるほど、つまりすぐに冒険に出たければ17歳を選べってことかな?

さらに年齢のヘルプを見てみる。


「0歳を選んだあなたは生まれたての赤ちゃんです。基本ステータスは最低ですが数多くのボーナスポイントがもらえます。また、訓練期間が長いため生活環境によっては通常以上のステータスで冒険を始めることが出来るようになります。」


赤ちゃんだからステータスが低いのは当たり前、育ち方によってステータスが変わる。加えてボーナスポイントがあるから将来有望株ってところか。


「12歳を選んだあなたはある程度成長しています。身分によるステータスの差がありますが、まだ訓練期間が残っているため将来に向けての調整が可能です。またそれらを補足できるだけのボーナスポイントがもらえます。」


ふむふむ、身分…つまりジョブである程度の方向性が決まっているけど、ボーナスと成人までの訓練期間で好きなように調整できるってことかな。


「17歳を選んだあなたは、すでに実績のある冒険者です。身分による補正を含めた基本ステータスは最大ですが補正するためのボーナスポイントがもらえます。」


冒険者として十分なステータスはあるけど自由度は少ない。すぐにでも冒険に出たい先行者向けってところかな?


さて、どうするか・・・戻るボタンがないところを見ると、ここで決めたことが決定となりそうだし。


とりあえずブラウザを閉じてPCを再起動してみる・・・・・・これで初期画面から始めることが出来るのなら、最悪やり直し可能という事になるが・・・・・・。


ブラウザを立ち上げもう一度異世界転生のページに入ると、年齢設定の画面になる。

やっぱり向こうのサーバにデータセーブされているのか。やり直しはできないと思った方がいいな。


とするとどうするか……ポイントは訓練期間がリアルタイムでどれだけのものかだね。


15歳で成人という事は赤ちゃんからは15年分、12歳からなら3年分という事か……すぐ冒険に出れる17歳とある程度の差をつけてないといけないってことを考えると、1年あたり1日か2日ってところが妥当かな?


さすがにゲームを始めて1か月以上冒険に出れないってのは現実的じゃないだろうし。


0歳から始めて自由に成長させるのもいいけど、さすがに1か月近く冒険に出れないのは飽きるだろうし、12歳からが妥当かな?


「という事で12歳・・・っと」


「奴隷」

「孤児」

「農夫の息子」

「猟師の息子」

「商人の息子」

「下級貴族の息子」

「領主の息子」

「王子」


年齢を設定すると身分と思われる選択肢が出てくる。


ヘルプを参照してみると……


「奴隷=主人の言う事に逆らえない、体力+補正、知識-補正、自由度-補正」

「孤児=親がいない、器用+補正、素早さ+補正、知識-補正」

「農夫の息子=農夫、力+補正、体力+補正、知識-補正」

「猟師の息子=狩人、力+補正、器用+補正、素早さ+補正」

「商人の息子=商人、知識+補正、運+補正、所持金+補正」

「下級貴族の息子=貴族、知識+補正、所持金+補正、権力+補正、自由度-補正」

「領主の息子=貴族、知識+補正、所持金+補正、カリスマ+補正、権力+補正、自由度-補正」

「王子=王族、知識+補正、所持金+補正、カリスマ+補正、権力+補正、自由度-補正」


……うん、よくわからない。


単純に考えると、奴隷は主人に絶対服従なので自由度はなく、こき使われる分体力はあるが教育が受けられるとは思わないので知識は低い。

逆に貴族は教育もしっかりしているので識見等は高く権力もあるが、貴族の義務とかで自由度が縛られるってことかな?


あとは補正のプラスマイナスがどれくらいかだけど…悩むなぁ。


単純に身分差とか考えれば権力のある王族・貴族なんだろうけど、自由度のマイナス補正がどのようなものかわからない以上、下手に選択できない。


……ってまじめに考えてしまったけど、ゲームだからどれ選んでも大差ないんじゃないかな。


と思いつつも、やっぱりマイナス補正が気になるため猟師の息子を選ぶ。

商人にしなかったのはなんとなく戦闘力が低そうだったからだ。

冒険者といえば、なんだかんだ言っても戦闘は避けられないだろう。

身分を選ぶとNEXTのボタンが出てきたので、それをクリックして次へ進む。


次はステータス設定画面だ。HPやMP、STRにINTなど見慣れた文字列が並んでいる。


各項目にはすでに数値が入っていて、その横にボーナスポイントを振るための「+、-」のボタンがある。


一通り見てみるが一番低いのが「対人」の10ポイントで一番高いのが器用さと知識の100ポイント。

他は30から80ポイントの間で割り振られている。


ボーナスポイントは500ある・・・が、このゲーム内での一般的なステータスポイントの基準がわからないので一番高く割り振られている100ポイントというがそれなりに高いんだろうと、自分の中で基準値を決める。


ここで得意分野にすべて割り振る「極振り」か、弱点を補正していく「器用貧乏」のどちらかに分かれると思う。


だけど、結局極振りなんてものは友達や仲間が一杯いる『コミュ充』な奴らだけに許される行為だと思う。

弱点があってもフォローしてくれる仲間がいるからできることであって、俺みたいなボッチでは弱点=致命傷なので、できる限り弱点をフォローしていく形で割り振るしかない。


各パラメータで60以下のものをすべて60まで割り振ると残りのポイントは100ちょっとしかない。


残りを知識とMPに割り振る。俺の戦闘スタイルは、苦手な接近戦を魔法でフォローするというものだ。だから魔法はそれなりに使えるようにはしておきたい。


全てのポイントを割り振るとNEXTのボタンが出てくるので、ボタンを押して次の画面へ。


しかし、設定が結構細かい。あとどれだけあるんだろう?



次の項目は二つだけだった。


「あなたがほしいチート能力は何ですか?」


「あなたが異世界に落ち込みたいものは何ですか?」


選択ではなく設問だった。これはおかしい。


ずっと新しいゲームのキャラメイクだと思っていたけど、それならば運営が用意したものの中から選ぶようになっていないとゲームに反映できないと思う。


それとも、これは単なるアンケートとか設定用ファイルなんだろうか?

いくら考えても答えが出るはずもなく、夜が更けていくのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「で、彼方センパイは結局どうしたの?」


翌日、いつもの公園でお昼を食べながら、昨日のことを香奈美に話す。


「いくら考えても答えでないし、単なる意識調査だと割り切って、思うように書いた。」


「思うようにって・・・彼方センパイだったらノリノリで色々と設定作ってそうなんだけど。」


「・・・・深夜のハイテンションって怖いよな。」


昨日の書き込んだ内容を思い出す。香奈美の言うように結構設定を盛り込んだかもしれない。


「で、結局なんて書いたんです?」


香奈美が笑いながら聞いてくる。からかう気満々だな。


まぁ、隠すほどのものでもないし……いっか。


「チート能力に関しては無限の魔力とそれを操る力って書いた。色々考えたけど魔法が存在するファンタジー世界って、魔法が一番の力だと思うんだ。だったら魔力切れを起こさず自在に操れたら最強じゃね?って考えたんだけど……」


香奈美を見ると笑顔で俺の話を聞いてる。実に楽しそうだ。


「魔法って、魔力に方向性を加えて力に変換するものって定義すると、魔力を自在に扱える=あらゆる魔法を制限なく使えるってことになる……とおもうんだけど?」


調子に乗って語りすぎたかもしれない。


「彼方センパイらしいですねぇ。いいと思いますよ。」


香奈美が笑いながら答える。まぁ、笑ってくれるならいいか。


「もう一つの方も聞かせてくださいよ。持っていくものでしたっけ?」


「香奈美だったら何を持ってく?」


「そうですねぇ~、武器とか、避難袋…サバイバルバックですかねぇ。」


「まぁ、普通はそういうモノだよなぁ。」


「ってことは、彼方センパイは違うんですか?」


「俺の場合、さっきの設問に絡めて考えてたから……知識って答えた。

「知識……、ですか?」


理解不能って感じで香奈美が問いかけてくる。


「あぁ、さっきの魔法に関してもそうだけど、原理がわからなければ再現できないだろ?」


「ン~~~、どゆこと?」


「そうだなぁー、例えばカレーライスを作ろうとする。でもカレールーがないという場合、香奈美ならどうする?」


「もちろんカレールーを買ってきて作るけど?」


「じゃぁ、ルーが存在しなかったら?」


「作れない。あ、でもなんかのスパイスを混ぜれば……」


「そう、なんかのスパイスなんだよ。それが何か?どれくらいをどのように混ぜればいいか?を知っていればカレールーができる。逆に言えば知らなければ作ることはできない。」


「なるほど~、だから『知識』なんですねぇ。やっぱり彼方センパイ頭いいですね。……でも知識って持っていけるものなのですか?」


不意打ちのような香奈美の笑顔に心臓が跳ねる。


「そんなことは知らん。自由に書かせるとそういうことになるから、ゲームでは反映されない、だから単なるアンケートだと思う。」


少し、声が上ずっているかもしれない。


「それで、キャラメイキングはそれで終わりなんですか?その後どうなったんですか?」


「あぁ、その設問でキャラメイクは終わりだったよ。」


心臓のドキドキに気づかれないようにと思いつつ答える。


「NEXTのボタン押したら「登録ありがとうございます。転生の準備が整うまで2~3日お待ちください」ってメッセージが出ただけ。何の説明もなし。」


「え~、なんですかそれ。ここまで引っ張っておいて何もなしって……センパイ変なフィッシング詐欺に引っかかったんじゃないですか?」


「ウィルスが入った形跡もないし個人情報も出してないから大丈夫だろ。それにキャラメイクだけでも、いろいろ想像できて楽しかったし。」


実際、存在しないゲームだったとしても、もし本当にあるのならと想像するだけでも楽しかった。久し振りに設定とか考えたりできた。


「久しぶりに設定とか考えて、こういうゲームの企画を考えるの結構好きかもしれないって思った。」


「いやいや、彼方センパイどう見たってこういうの好きでしょ?好きすぎでしょ。今更ですよ~」


香奈美があきれたように言ってくる。そんな表情も可愛いと思う。


「色々設定考えていた時にさ、つい香奈美のことを考えるんだよ。香奈美だったらこういうのが好きそうだよなとか、こうツッコむだろうなとか……。」


「USOが楽しくなったのでやっぱりこのゲームが好きだと思っていたけど、最近違うんだってことに気づいた。」


香奈美から笑顔が消える。俺が何を言っているのかを理解しようとする時に見せる真面目な顔になる。


「俺はUSOが楽しいんじゃなく、香奈美と一緒だから楽しいんだってことに気づいたんだ。」


香奈美が顔を伏せる。引かれているかもしれないけど、ここまで言ったらもう後戻りできない。


「香奈美が笑顔だと俺も楽しくなる。香奈美の笑顔をずっと見ていたい。俺が香奈美の笑顔を守ってやりたい。ただの後輩じゃなく、妹でもなく、一人の女の子として香奈美が好きなんだってことに気づいたんだ。ただのゲーム仲間じゃなく、彼女として付き合ってほしい。」


香奈美はうつむいたまま何も言わない。やっぱり言わないほうがよかったのだろうか…。


「わ、私は…」


香奈美が何か言いかけた時、学校の方からお昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。


「あ、ごめん。もう時間だね。返事は今度でいいよ。いきなり変なこと言ってゴメン。俺ももう仕事に戻るから。」


香奈美に背を向け、公園の出口に向かって逃げるように駆け出す。

今、香奈美から「ゴメンナサイ」という言葉を聞く勇気はなかった。



翌日、会社に向かう途中も昨日のことが思い出される。


つい勢いで告白してしまったけど、やっぱり引かれたよなぁ。


「しかも返事を保留にさせて逃げ出すなんて、最低だよなぁ。」


無意識につぶやく。


「やっぱり、昨日の事は冗談だって、からかってみただけだよって、笑ってごまかした方がいいかなぁ?」


サイテーって怒られるかもしれないけど、振られて気まずくなるより幾分かマシかもしれない。


そんなことを考えながら信号待ちをしていると、小さな女の子が飛び出すのが見えた。


「危ない!」


考えるより先に体が動く。女の子の前にはトラックが突っ込んでくる。


女の子に必死になって手を伸ばす。もう少しで届く……その瞬間女の子の姿が消えた。


何が起こったかわからない……が考える暇もなく俺の視界は真っ白に染まっていった。

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