・・・ぐるぅ、ぐるっこぉー・・・
・・・ン・・・うるさい・・・
・・・ぐるっこぁー、ぐるぅー、ぐるぅー・・・・
「・・・ん、なんだぁ・・・。」
眠い…。でも、騒がしくて目を覚ます・・・。
・・・ぐるぅー、ぐるぅー。
枕元で、鳥が鳴いている。この世界で『ベガス』と呼ばれている鳥だ。
雑食で何でも食べ、適応力・繁殖力も高い為、家畜として飼育されていることが多い。
向こうの世界の『鶏』とよく似た鳥だった。ただ鶏と違う点は…空を飛ぶ。その為、逃げないように狭い小屋の中に閉じ込めておくのが、一般的なベガスの飼育の仕方なのだが・・・。
「あら、起きましたか?おはようございます、レイさん。」
ガチャリ、とドアの開く音に続きミリィがバスケット片手に部屋に入ってくる。
「今ご飯用意しますからねー。」
バスケットの中からパンくず、ベーコンの欠片、穀物などを取り出しテーブルの上に広げていく。
これが俺のご飯・・・ではない。
さっきから騒がしいベガス達の食事だ。
「さぁ、用意できましたよー、召し上がれ。」
ミリィがベガス達に声をかけると、ベガス達が一斉にテーブルに群がる。
「・・・ン?なんか増えてないか?」
「そうですかぁ?・・・いち、にぃ、さん・・・。あ、増えてますねぇ。」
昨日まで7羽だったベガスが10羽になっている…いったいどこから来るのだろうか?
食事を終えた個体から、ぐるぅーぐるぅーと鳴きながらその場でウロウロしだす。見方によっては躍っているようにも見える。さしずめ、食後の感謝の舞ってところか。
そして「ぐるっこー!」とひときわ高く鳴いたかと思うと、玉子を産み落とし、窓から羽ばたいて出ていった。
ベガスがいなくなり、静かになった部屋の中には玉子だけが残されていた。
「あらー、今日は多いですねぇ」
玉子を集めながらミリィが言う。
ベガスは1日1回、1~2個の玉子を食事の後に産み落とすが、稀に3~4個産み落とす場合もある。
なぜ、食後なのか?また毎日産み落とすことが出来るのか?など、謎は多い。実際野生のベガスが玉子を毎日産んでいるところは目撃されていないため、一説では、食事のお礼じゃないかとも言われている。
真相はどうあれ、ベガスの産む玉子は栄養価がとても高く、また凄く美味のため、それなりの値段で取引されるため、ウチの収入源に一役買っているのは間違いない。
「レイさんのご飯はあちらに用意してますから、来てくださいねー。」
そういって、玉子を集め終えたミリィが部屋を出ていく。
・・・。着替えるか。
「しかし、何とかならんもんかね。このままじゃアイツらに部屋乗っ取られそうだ。」
「そうなったら、レイさんは私の部屋に来てくれますか?」
「いや、行かない。」
からかうような笑みを浮かべて言うミリィに即答してやる。
「残念ですー。」
「明日から窓閉めてやる。」
「そういいながら、結局開けておくんですよね?」
レイさんは優しいですから・・・。とミリィが笑う。
「窓閉めると暑いんだよ!」
俺は照れ隠しにそっぽを向く。
俺がここに来た当初、ベガスは1羽いただけで、餌も他の動物たちと一緒にミリィが外でやっていた。
その後、俺が起きる頃にミリィが食事を運んできて一緒に食べるというのが日常だった。
しかし、ある日いつもの様にミリィが食事の用意をしていると、ベガスが窓から飛び込んできて俺のベーコンを持って行ってしまった。
位置的にミリィの皿の方が近かったはずなのに、俺の皿から持っていくあたり、狙ってやったとしか思えなかった。
そして翌日から、朝になると俺の部屋にベガスが来て食事の催促をするのが日常になっていったのだった。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。レイさんの今日の予定はどうですか?」
「そうだなぁ、とりあえず西の部屋の瓦礫はどけたから・・・街にでも行ってみるかな?」
「じゃぁ、一緒に行きましょうね。」
「あぁ。外回り片付けてくるから、出かけるときに声をかけて。」
「はぁーい。」
ここは「精霊の森」から国境沿いに2日程の所に位置する小さい村だ。
ただ、すぐそばに関門のあるそれなりに大きな街との行き来があり、それなりに活気づいている。
その村はずれの片隅に、今は打ち壊され廃棄された教会があり、俺とミリィはそこに住んでいる。
元々ミリィはここで年老いたシスターと一緒に暮らしていたが、そのシスターも亡くなり、一人淋しく暮らしていた所に俺が転がり込んできたというわけだ。
村の人との交流はあまりない。何か色々あったのだろうと推測できるが、詳しいことは教えてもらってない。どうでもいいことだ。
ただ、街でのミリィは人気者だった。
美少女と言っていいその外見に加え、穏やかで優しい性格、見る者をほっこりとさせる笑顔、また持ち込む素材や、ベガスの玉子をはじめとした畜産品、調合した薬類等はすべて高品質で、あっという間に売り切れる。
そして人当りもいいと来れば・・・
「ミリィちゃん、これも持っていきな!」
買い物をしたお店のおばちゃんがおまけをくれる。
「いつもありがとうございます。でもこんなにたくさん・・・。」
「今日は荷物持ちがいるじゃぁないか。大丈夫だって。」
そういいながら店のおばちゃんはニヤリと笑って俺の方を見る。
「あぁ、貸せよ。俺が持つ。」
「ありがとうございます…すみません。」
「あっと、ミリィちゃんこれ持っていきな。」
隣の果物屋の主人が、リンゴによく似た果実を一袋渡す。
「えっ、でも、今日は何も・・・。」
「いいって、いいって、遠慮しなさんな。」
「はぁ、ありがとうございます。」
終始この様子で、声をかけられたり物をもらったりするので、市場を抜ける頃には山のような荷物を俺が抱え込むことになる。
「レイさん、すみません。重いですよね。」
「いや、これくらい大丈夫だよ。」
「とりあえず預かり所に預けてお茶でもしませんか?大きいものはそのまま送る手配すればいいですし。」
「そうだな、そうするか。」
「そろそろ帰るかぁ。」
ミリィとお茶をした後は、アイテム屋や魔法具屋などで必要な道具を注文したり、他のお店を冷かしたりして楽しいひと時を過ごした。
「そうですね…キャッ」
裏通りの境に面したあたりで、誰かがミリィにぶつかる。
「大丈夫か?」
よろけるミリィを抱きかかえる。ぶつかってきた相手は一瞬躊躇った後、逃げていく。
俺はそいつに向かって、腰から下げていた球体の「モノ」を投げつける。
「捕縛の投網!」
呪文とともに球体が広がり、網となって相手を覆い被す。そしてロープに変化し相手を締め上げる。
・・・っ!
いやな気配を感じた俺はミリィの手と捕縛した相手を掴み路地の陰に隠れる。
ミリィを俺の背中に隠し、ロープで縛られている相手が声を出さないように口をふさぐ。
…いたか?…いや、あっちだ!…
誰かを探している気配があり、しばらく後喧騒が遠ざかる・・・。
・・・ふぅ。やり過ごせたか…
「あの・・・・レイさん?そろそろ放してあげては?」
…女の子に乱暴しちゃダメですよ。とミリィが言う。
「女の子・・・?」
捕まえている相手はフードを目深に被っているので、男女の判別はつかない…徐にフードを下ろしてみるとやや幼さが残るものの、紛うこと無き女の子の顔がそこにあった。
「・・・結局何だったんだろうなぁ。」
その夜、俺はベッドに寝転がり、手にしたネックレスを弄びながら、街で捕縛した少女の事を考えていた。
少女がミリィにぶつかったのはワザとだ。彼女の動きは素人のそれじゃなかった。
「・・・だから捕まえてみたんだけどなぁ…。」
その後の、彼女を探していたと思われる追手・・・奴らの気配は盗賊とかが発する者達のそれだった。
そして、彼女からもその気配が感じられた…。
数多くの盗賊たちを相手にしていた俺が、その気配を間違うはずがない。
「普通に考えれば、彼女が追われるような何かをして逃げてた…ってことなんだろうけど…ッ!」
ゴロンと横に転がり、ベットの下に降りる。
ザシュッ!
今まで俺がいたところにナイフが刺さる。
「目眩ましの光!」
とびかかってきた相手に魔法の光をぶつける。ただ眩しいだけで殺傷能力はないが十分だ。
目が眩みひるんだ一瞬、拘束しようと飛び掛かるが躱される。
すれ違いざま、ナイフで斬りつけられるが上体をそらして躱す。・・・狙いが正確だ。確実に急所を狙ってくる。
さらに斬りつけようと向かってくる相手の目の前に魔法をぶつける。
「目眩ましの光!」
相手がひるんだ瞬間、手首を捻り上げナイフを落とさせる。そのままの勢いでベッドに押し倒し両腕を上に引っ張り上げ拘束する。
「拘束!」「拘束!」
腕を拘束するだけでは心配なので足も拘束し、身動きをとれなくする。
・・・ようやく一息つき、拘束した侵入者を見下ろす。
「これを取り返しに来たのか?」
ベッドの上で身動きが取れずにいる侵入者・・・街で捕縛した少女・・・にネックレスを見せる。
「返せっ!」俺を射殺すかのように睨みつけながら彼女が言う。
俺は威圧をかけながら彼女に近づく。
ココにはミリィがいる。たとえ相手が女の子でもミリィに害をなすような相手なら容赦しない。
「い、イやっ!」
彼女の目に怯えが走る。さっきまでの威勢の良さはどこに行ったのかと思うくらいに怯えている。
「何故、俺を襲った!」
俺はさらに威圧をかけ追い詰める。
「いやっ!。来ないで。近づかないで!」
彼女はこれから起こるであろう事を想像し身を捩って逃れようとするが動けない。
「何が目的だ!」
彼女の手首を押さえつけ、顔を近づけて聞く。
「こんなのイやぁー!」
彼女が泣き叫ぶ。さっきまでの侵入者の面影はまったくない。
「わ、ワタシ、初めてなのにぃ…こんなのって…いやぁ~~!!」
・・・・・・あれっ?俺ってさっきこの子に襲われたんじゃなかったっけ?
ベッドの上に縛られて身動きが取れない少女。
その上に覆い被さるようにしている俺。
少女は「いやぁ~!」と泣き叫んでいる。
・・・えっと・・・
ガチャ!部屋のドアが開く。
「あのぉ…無理やりはよくないと思うの。」
ミリィが部屋に入ってきてそう言う。
……オワタ。
「・・・で、これを返してもらいに来ただけっていうんだな?」
少女・・・リィズと名乗った・・・にネックレスを返しながら聞く。
「ウン」
リィズはネックレスを大事そうに仕舞いながら頷く。
「じゃぁ、そう言えばいいだろ?なぜ襲ってくる?」
あの殺気は本物だった。俺を殺しにかかっていた。
「大事なものだから・・・。」
あのネックレスは彼女にとって大切なものらしい。
返してといっても素直に返してもらえるとは思えず、何か要求されるかもしれない。
要求されても、自分には何もない。
だったら後腐れなく殺して奪おう!
・・・というのが彼女の言い分だった。
「ダメですよ。まずは話をしなきゃ・・・。」
ミリィがリィズの頭をなでて言う。
彼女はさっきからずっと、リィズを膝の上にのせて、後ろからギュってしている。
「うん…。」
リィズはされるがままになっている。
「…昼お前を探していた奴らは?」
「・・・仲間…一度もそう思ったことはないけど・・・仲間…だった。」
リィズは旅商人の子として生まれ、色々な街や村を渡り歩いてたそうだ。
「ある時、あいつらが襲ってきたの。」
リィズの両親は、旅の途中盗賊たちに襲われ抵抗したために殺されたそうだ。
残されたリィズは奴隷として売られる所だったが、当時のボスが引き取ることによって奴隷落ちは免れた。
「と言っても扱いは奴隷と何ら変わらなかったけどね。」
その盗賊団は、旅商人に成りすまして、他の商人と合流。油断している所を襲って逃げるという手法で稼いでいたらしい。
ボスがリィズを引き取ったのも「子供がいれば信用されやすい」からだったそうだ。
「一応ね、色々なことを教えてもらった。」
戦い方をはじめ、気配の殺し方やナイフの扱い方、解錠の仕方や相手の油断を誘う方法など、盗賊として生きていく為の技を教え込まれたそうだ。
ミリィは、辛そうに話すリィズの頭をなでながら黙って聞いている。
リィズたちの盗賊団がこの近辺に来たのは最近の事らしい。
なんでも以前に拠点にしていた地方では、数多くの盗賊団が夜逃げする事件が起きていたらしい。
騎士団の一斉検挙にあったのだとか、モンスターに襲われたのだとか、謎の怪人物に壊滅させられたとか、様々な噂が飛び交ったらしいが、真偽のほどは定かでないが、危険を感じたボスが拠点の移動を決めたそうだ。
「…でもね、このあたりって騎士団も常駐しているし、余り稼げる所じゃないんだ。」
商人の行き来がないわけじゃなく、関門が近いため国を跨いで行き来する商人が多いため、国内へ移動する商人は少ないか、騎士団の異動に合わせて動く商人たちが多く、盗賊たちにとっては危険が大きいだけで旨味は少ないそうだ。
「稼ぎが少なくなったことに腹を立てた奴らがボスの寝込みを襲って・・・」
その時リィズは街中にいたので、難を逃れたらしい。
「でね、私色々知ってるから、騎士団とかに駆け込まれたらヤバイって思ったんだろうね。捜索が始まったの。」
捕まったら、殺されないまでも何をされるかわからない。かといって、騎士団に助けを求めようにも盗賊団の一味として捕まって終わりだろう。
結局逃げ続けるしかなかったが、段々追い詰められていた時に俺に捕まったそうだ。
「そっかぁー、リィズも頑張ったんだね。」
よしよしと頭をなでる。
「でもね、もういいんだよ。これからは私たちが一緒にいるからね。」
だから安心してね。とリィズを抱きしめるミリィ。
リィズは張りつめていた糸が切れたように、ミリィにしがみついて泣いていた。
「盗賊団を何とかしなきゃいけないな。」
目の前ですやすやと眠るミリィとリィズを眺めながらつぶやく。
あれから泣き疲れて寝てしまったリィズを寝室に連れて行こうとしたのを止めて、俺のベッドで二人で寝てもらっている。
さすがに大丈夫だとは思うけど、まだ、二人きりにするのは心配なので念の為だ。
しかし、リィズが時折ミリィにぎゅっとしがみ付きながら頭を摺り寄せている姿を見ていると、なんか微笑ましくなる。
「とりあえず、俺も寝るか。」
さすがに一緒のベッドに入るわけにもいかないので、壁際に座り込む。いざという時はすぐ動けるようにして眠りにつく。
・・・わぁ・・!!……なんですかこれっ!・・・
・・・ぐるっこぉー、ぐるぅ、ぐるぅ・・・
・・・なんか騒がしい・・・
・・・助けてくださいぃ~・・・
目を開けると、目の前にベガスの山があった・・・
・・・夢だな。寝よう・・・ぐぅ・・・。
「助けてくださいっ!」
大声で起こされる。夢じゃなかったらしい。
ベガスの山…というか、ベガスにまとわりつかれたリィズが涙目になっている。
とりあえず払ってやるが、すぐまとわりついてくる。
「…こりゃ、食事の時間までは無理だ。もうすぐミリィが来るからあきらめろ。」
「嫌ですよぉ~。なんなんですか、これ?」
リィズが俺にしがみついてくる。しがみ付いていれば被害は半分になると思ったらしい。
バサッ!バサッ!しっ!しっ!バサバサッ!
ガチャ!
「お待たせー。ご飯ですよー。」
パンくず、ベーコンの欠片、穀物などがいつもの様にテーブルの上に並べられていく。
「あの・・・ご飯っていつもアレですか?」
リィズがテーブルの上を見ながら訊ねてくる。
「あぁ、多少は違うが大体アレだな。」
「…そうですか。」
リィズがしょんぼりする。
「いえ、文句があるわけじゃないです。食べさせてもらうのに文句は言いません。ただ、せめて、パンは塊の方がいいというかなんというか・・・・ごにょごにょ…。」
「はいどうぞー。」
ミリィが声をかけると同時にベガス達が群がる。
「・・・あ、ごはんが・・・。」
きゅるる・・・とリィズのお腹が鳴る。
目の前でベガス達が餌を食べているのを見てなぜかショックを受けているみたいだ。
「・・・ごはん・・・・・・。」
「あ、リィズお腹すいたの?もう少し待っててね。」
「えっ?」
「……何を勘違いしてるか知らんが、あれはベガス達のご飯だ。」
「そ、そうなんだ…あはは…。」
「しかしまた増えてないか?」
…数を数えてみる…16羽いた。
数えている間にベガス達は玉子を産み落として1羽、また1羽と窓から出ていった。
「お待たせー、じゃぁご飯にしましょ。」
「……美味しぃ。」
「まだまだあるからたくさん食べてね。」
「ウン…もぐもぐもぐ・・・。」
「食べ終わったら、街にお買い物に行きましょうね。」
「もぐもぐ…、うん?」
なにを言っているかわからないって顔でミリィを見つめるリィズ。
「だって、リィズの着替えとか生活用品揃えなきゃ。」
「え、でも、だって・・・。」
なんで?とこっちを見る。
「いつまでも同じ格好ってわけにもいかないだろ。女の子なんだし。」
……他にも必要なものってあるだろと伝えてやる。
「・・・ここに・・・いてもいいの?」
ぼそりと呟くリィズ。
「ほかに行くアテないだろ?」
「ありがと・・・。」
「まぁ、ここに居るからにはやる事一杯あるけどな。」
主にミリィの相手とか…と笑って言う。
「あはは・・・。」
「リィズー、こっちの服どう?」
「えぇー、ちょっと可愛すぎですよー。」
リィズなら似合うよー・・・等とはしゃいでいる二人を眺める・・・疲れた。
女の子同士の買い物に付き合わされて疲れるのはこちらの世界でも同じらしい。
・・・次はあっちです~。
待ってください~・・・。
二人の後をゆっくり追いかける。
・・・おぃ、聞いたか?盗賊が出たって話。
・・・あぁ、こっちに向かう商団が襲われたって話だろ。
さっき門番の所に駆け込んできたって。
・・・なんでも商人一家が二組ほど取り残されたって。
・・・あぁ、可哀そうにな。そいつら無事じゃすまないだろう。
・・・最近、物騒な奴ら多くなってきたからなぁ。
・・・とにかく、お互い気を付けようぜ。
・・・あぁ、そうだな。
街中の喧騒に交じり合い、噂話が聞こえてくる。
「レイさーん。どうしたんですかぁ?」
前方でミリィが呼んでいる。
「あぁ、今行く。」
足早に二人の元へ駆けていく。
「あの・・・レイさん、ミリィさんがちょっと見てほしいって、呼んでます。」
雑貨屋でアイテムを見てたリィズが、俺の所に来てそう伝える。
リィズと一緒にミリィの所に行く。
「何を見てほしいって?」
「あ、レイさん。これなんかどうですか?」
「ん~、ちょっと暗くないか?」
「そうですかぁ?じゃぁこっちなら・・・。」
ミリィと食堂に置く雑貨について話す。
リィズが去っていく気配を感じるが気づかないふりをする。
「ミリィ。」
「ウン。わかってる。」
「じゃぁ行くか。」
「仄かな衝撃!」
「ひひゃぁ!」
・・・壁に手をかけたタイミングを見計らって僅かばかりの電撃をながす。
手をついた途端、ビリビリッという衝撃を受け、思わず手を放してしまい落ちてくる少女を受け止める。
「早くも家出か?」
「レイさん…、どうして…。」
「門番に見つからずに外に出れるのはここぐらいだからな。」
「そうじゃなくて…ううん、・・・私行かなきゃ!」
「行ってどうする?助けるどころか、捕まるのがオチだぞ。」
「それでも行かなきゃ行けないんです。このまま見ない振りしたら、絶対後悔します。だから止めないでください。」
「うん、止めないよ。」
「・・・ミリィさん。」
「リィズの心が叫んでるんだもん。止められないよ…だから一緒に行くよ。」
家族だからね、とミリィが微笑む。
「ということだ。一人で抱え込まず、俺たちを頼れよ。」
「ミリィさん・・・レイさん・・・。」
いいんでしょうか…と涙ぐむリィズ。
「私、今まで一杯一杯酷い事してきました。望んでやったことじゃないけど、やらなきゃ生きていけなくて…でもでも・・・、酷い事には違いなくて・・・。そんな私・・・家族なんて・・・資格…ありません。」
「・・・あのな?難しいことはどうでもいいんだよ。俺たちがリィズの事を家族だって思っていて、リィズも家族だって望めば、それだけなんだよ。資格がどうのとか関係ない。」
それにな・・・、とミリィの方に目を向けて言う。
「ミリィにギュってされた時点で手遅れ。どれだけ逃げても追いかけてくるぞ。」
ああ見えてしつこいからな。と言ってやる。
「アハっ・・・なんなんですか、もぅ・・・。もぅ・・・。」
涙をぬぐったリィズが俺たちの方を向く。
「レイさん、ミリィさん、私、盗賊団に捕まった商人さんたちを助けたいです。手伝ってください。」
「はい、よく言えました。」
よしよしと頭をなでるミリィ。
「じゃぁ行くか。」
「こっちです。たぶんまだ移動はしてないはずです。」
リィズの案内に従って盗賊団のアジトに向かう俺たち。
「あ、見えました!…商人さんたちはまだ無事みたいですね。」
前方に盗賊たちが見える、その奥の方に馬車があり、そこに商人の主人とその妻子と思われる親子が縛られていた。
ブチッ!…縛られている親子を目にした瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。
「・・・どうやって助けましょうか?私がおとりになって…ってレイさんっ!」
「灼熱の大爆発!」
大規模な広範囲爆発魔法を打ち込む。魔力は収束したので商人たちまで被害は及ばないはず。
エクスプロージョンを唱えた後、盗賊たちに斬り込んで行く。
魔力収束したせいで、範囲から少し離れた奴らはまだ動けるようだ。
「爆烈風!」
目の前の盗賊を切り倒しながら、離れたところにいる盗賊に向かって魔法を放つ。
「ひぃ…アイツ…まさか…『微笑みの仕置き人』じゃないのか?」
「・・・な、なんであの『爆裂の拷問者』がここに・・」
「炎の爆風!」
残った盗賊たちを纏めて吹き飛ばす。
「あの『地獄の水先案内人』…本当にいたんですね…レイさん、ッパネェっす。」
後ろの方でリィズが何か言っているようだが、爆風がうるさくてよく聞こえない。
盗賊たちを纏めて縛り上げまとめる。
「さて、お前ら…。」
「スイマッセンしたぁ~。」
「まさか、ココが『残虐天使』様の縄張りとは露知らず・・・。」
・・・オィ。
「・・・やっぱ、ッパネェっす。」
なぜか謝り倒す盗賊たちを門番に突き出して、俺たちは家路につく。
「・・・なんか、盗賊達の様子おかしかったよなぁ。」
「それは・・・。」
なぜか苦笑いのリィズ。
「商人さんたちも無事だったし良かったですよね。」
ニコニコと微笑むミリィ。
「お礼にって珍しい食材たくさん頂きましたから、晩御飯楽しみにしててくださいね。」
わぁーと喜ぶリィズを見る。やっぱり、笑顔が一番だと思う。
・・・ぐるぅ、ぐるっこぉー・・・
・・・ン・・・うるさい・・・
・・・わぁ・・!!またですぅ・・・なんですかこれっ!・・・
・・・ぐるっこぉー、ぐるぅ、ぐるぅ・・・
・・・なんか騒がしい・・・
目を覚ます・・・。
・・・ぎゅぅぅぅ・・・リィズに抱きしめられている。
・・・夢か・・・ぐぅ・・・
・・・夢じゃないっすよ。
「・・・にぃに、起きるっす。ベガス達が大変っす。」
「・・・ん。・・・んっ!」
「あ、にぃに目が覚めたっすか?」
「…えーと、なんでリィズが?ミリィと一緒に寝てたんじゃ?」
「昨日の盗賊団を倒したこと覚えてるっすか?夜、ねぇねがにぃにの様子がおかしかったからギュってしてくるって言うから一緒にきたんすよ。」
・・・どうやら夜中の内に二人が入ってきて3人で一緒に寝てたらしい。
二人にぎゅってされても気付かない程ぐっすり寝てたのか…不覚。
「・・・リィズ口調がおかしくないか?」
「・・・何バカなこと言ってるんすか?そんな事より、あのベガス達どうすればいいか教えてくださいっす。」
「・・・ミリィが来るまで何ともならん。あきらめろ。」
「そうっすかぁ…。・・・じゃぁ、ねぇねが来るまでにぃにの事、ぎゅってしてるっす。」
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