いつか魔王になろう

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魔法と教会と盗賊と

公開日時: 2020年9月8日(火) 10:09
文字数:7,962

森から出て俺は様々な街や村をまわった。

特に目的があるわけじゃなかったが、各地を回り武器の扱い方、魔法の使い方、薬の調合の仕方等々、様々なことを吸収していった。


この世界の基本的な事を知るにつれて、俺の魔力量や使い方が異常だという事に気づいた、いや気づかされた。


俺に魔法の基礎を教えてくれた、ある村の魔術師に言わせると、俺の存在は「ありえない」のだそうだ。


◇ ◇ ◇


「レイフォードよ、この世界の生きとし生けるものは全て魔力を体内に宿している、という話をおぼえているかのぅ?」


「はい、世界は『マナ』が満ちているため、自然と体内に取り込まれ魔力に変換されるという事でしたね。」


「そうじゃ、魔法とはこの体内の魔力に方向性を与え望む力として放出することじゃ。」


だから魔法は基本的には誰でも使えるのじゃ……と老師は言う。


「しかし、じゃ、誰でも使えるはずの魔法を使えないのもいる。これはなぜだかわかるかのぅ?」


「魔力の操作・・流れや方向性を与えるという方法がわからないからですか?」


これは俺自身経験がある。この世界に来たばかりの時、どうすれば魔法が使えるのかわからなかった。グリムベイブルがなければ、今でも使えなかっただろう。


「その通りじゃ、後は単純に魔力量が足りない場合じゃな。」


内包する魔力量には個人差がある。魔法として使用するには一定の魔力量が必要らしい。


「その場合どうするかじゃが、なければあるところから持ってこればいいのじゃ。」


程度の差はあれど人間一人の魔力量では限りがあるが、世界に満ちているマナは無限なのでそれを取り込み使用するというのが魔法の基本らしい。


「そして、流れを導き、方向性を正しく与えてやるために必要なのが『呪文ルーン』じゃ。」


ルーンそれぞれにそれぞれのイメージが宿っているので、正しく組み合わせてやることによって、魔法が発動する。


例えば『熱となり火となりて燃えさかれ』というワードには魔力を火に変換するイメージが宿っている。

これに顕現させる「ルーン」を唱えることにより魔法が発動する。先ほどのワードに続けて「着火ティンダー」のルーンを唱えれば対象に向かって火をつけることが出来る。

消費魔力も少なく、野営に便利な魔法なので使える人は多い。


実は、「着火ティンダー」のルーンで発動する火は焚火程度だが、これを「燃焼フレイム」というルーンに変えてやると大火事ぐらいの火になる。


だから組み合わせ方次第でより強力にもなるし、逆に全く発動しなくなる時もある。この組み合わせを研究し続けているのが魔術師と呼ばれる人たちだ。


目の前の老師も、昔は名のある有名な魔術師だったらしいが、なぜ、こんな辺境に籠っているのかは教えてもらえない。


「・・・の魔法と区別するために『ルーン魔法』と呼ばれているのじゃ。・・・聞いておるか?」


「あ、ハイ、聞いています。でも他の魔法って何があるんですか?」


つい思索に耽って聞き逃すところだった。


「・・・自分の魔力だけでなく外から力を取り込むという事では一緒じゃが、取り込む対象によって区別されておる。・・・取り込むというより力を貸してもらうという方が正しいかのぅ。」


力を貸してもらうのが精霊なら「精霊魔法」神々なら「神聖魔法」というらしい。

ただ、神は神でも魔神と呼ばれる破壊神の力は「暗黒魔法」と呼ばれるらしい。


「精霊魔法」は精霊を呼び出して代わりに力を使ってもらうため、精霊力が低い場所では力をふるえないという事もある。


例えば水の精霊の力を借りたくても、砂漠のような水のない所では精霊が存在しないので力を貸してもらえない=魔法が使えない。逆に湖や大河のそばなら、下手なルーン魔法より効果が高いという。


「神聖魔法」は神々の力を貸してもらうため、常日頃から神々に祈りを捧げ信仰心が高くないと使えないらしい。


まぁ「信じちゃいないけど便利そうだから使ってやるよ」なんて奴に力を貸すような奇特な奴はいないだろう。それと同じことだ。


だから神聖魔法が使える=徳の高い僧侶、という事で貴族や王族からも一目置かれている。


「……それぞれの魔法は成り立ちや発動の仕方が違うので、ほとんどの場合、別系統の魔法は使えないんじゃがのぅ・・・」


そういって、老師が話を締めくくる。


◇ ◇ ◇


「・・・・・・レイファの名に於いて豊穣の女神ミルファースに祈りを捧げます…この者を助け給え。


癒しの光キュア』」


クレリックの祈りとともに農夫の足元を光が包む。


パックリとさけて、血が溢れ出していた傷口だったが、血が止まり、周りの組織が再生し、膨れ上がって傷口をふさいでいく。しばらくすると、表層の傷も消えていく。まるで傷などなかったかのように。


「…これで、もう大丈夫でしょう。傷はふさがってますが、かなり出血していたのでしばらくは安静にしてくださいね。」


「レイファさん、いてぐれて助かっただぁ。もうダメかと思ったがぁ。」


ありがとう、ありがとうと何度もお礼を言いながら農夫が帰っていく。


「ごめんなさいね。急患が入ってしまって、お待たせしちゃいましたね。」


「いや、大丈夫。いいもの見せてもらったよ。」


「それで・・・レイフォードさんでしたっけ?当教会にどのようなご用件でしたでしょうか?」


「あぁ、この教会に回復魔法が使える『聖女』がいるって聞いたから、教えてもらえないかと思って。」


「『聖女』ですか?…それ私の事じゃないですよ。最近よく間違われるんです。」

いつかは私も・・・って思ってるんですけどね、とはにかむように笑う。


「私はお会いしたことはないんですが、以前この教会にいらした方がそう呼ばれていたそうです。」

お力になれずごめんなさいと謝られるが、目の前の少女も回復魔法が使えるので問題ない。


「いや、回復魔法が使えるなら、誰でもいいんだ。教えてもらえないか?」


以前、目の前で少女に死なれた事。回復魔法が使えれば助けることが出来たのにと自分の無力さに嘆いた事などを話す。


「・・・お力になってあげたいのですが困りましたね。そもそも回復魔法は教えることが出来ないものですし・・・。」


首をかしげて、困りましたという表情で言う。


「教えられないって…教会の方針とかですか?」


「いえ、そういうわけでなく、そもそも回復魔法というのはですね・・・。」


常日頃から神々に祈りを捧げていると、ある日突然神の声が聞こえる『神託』があるらしい。

神託が降りた者が、望み祈りを捧げ続ると自然と理解し行動できるようになるという。


・・・だから教え様がないんですとレイファが言う。


「あ、でもせっかくですから・・・。」


祈りと治療術なら教えれますよと。



「・・・私たちクレリックが使う『神聖魔法』は祈りが基本なんです。」


加護を与えてもらいたい神に祈りを捧げ『祝福』として様々な加護を与える。

神々にはそれぞれ司るものがあり、司っている系統の加護しか与えることが出来ない。そのため、たくさんの加護を得たいのであればたくさんの神々に対し祈りを捧げなければならない。また、神々の中でも仲の良し悪しがあり、反発する神々を含めると『祝福』成功率が下がったり、効果が落ちたりするらしい。


またクレリック自身にも適正があり、適正外の加護を受け、与えることはできない。


だから、クレリック自身の適性と受ける事の出来る加護の種類の数によって、クレリックの「格」が決まるらしいのだが…。


「・・・私みたいに適性が少なくても『神託』が降りる場合もあるので一概に言えないんですけどね。」


……私はミルファース様の加護しか受けられないんです・・・と淋しげにつぶやくレイファ。


「祈りの言葉はそれほど重要ではありません。言葉よりそこに込める想いが大事なのです。あとは神様が何を司っていてどういう力を与えてくれるかを理解しなければいけません。」


・・・戦いの神様に恋愛成就を願ってもムダですよ?とレイファが笑う。


レイファから、祈りの仕方と治癒術を教えてもらう傍ら、教会に治癒を求めてくる人が多いので、教会に所属するものはほぼ全員治療術が使えることや、治療術を知っていると回復魔法の効きがよい事、『聖女』様が近くの孤児院を建て直し、たくさんの子供たちの命を救った事など、役立ち情報から世間話まで様々な事柄について教えてもらった。


◇ ◇ ◇


老師に魔法の基本の教えを受け、レイファから神聖魔法と治癒術を学んだことで、俺の魔法能力は飛躍的に上がった。


イメージしにくい魔法もルーンを唱えれば使用できるようになったし、元からイメージしやすい魔法に関しては顕現の1ワードルーンだけで強弱思いのままに使用できるようになった。


特にルーンによる治癒魔法は、神聖魔法より効果が落ちるといわれているが治癒術のイメージと重ねることで通常以上の効果を表した。


そして普通なら同時に使えないはずの別系統の魔法体系。


でも俺なら多分使える。レイファに神聖魔法の適性があるみたいなことを言われたし…たぶん精霊魔法も使えるだろう。根拠はないがそう確信している。



新しい力を自分のものにするためには、地道な努力が必要である。これは魔法でも変わりがないが、通常の魔法の使用はともかく、紛争地帯でもない限り治癒が必要な人がそうそういるわけでもない。


せっかく覚えても練習が出来なければ、実践で困ることになる。


そんな時役に立ったのが盗賊さんたちである。彼らはよく怪我をしているので治療してやった。



「ッ・・・。またテメェか! 痛い目に合う前に出ていきやがれ!」


いかにもチンピラという風体の男が怒鳴る。


「つれないねぇ~、折角、治療しに来たのにね。」


ここは最近見つけた盗賊たちのアジトだ。目の前の男以外に10人ほど集まっている。


「ここには怪我人なんか一人もいねぇ!わかったらサッサと出てけっ!」


少し怯えたように男が喚く。


爆風ボムッ!」


問答無用で、広範囲の魔法を盗賊たちにぶち込む。威力は調節してあるので死ぬことはない。


「あれぇ、結構ひどい怪我してるじゃない?」


「クッ…て、てめぇ・・・」


何か言ってるが無視して更に魔法を唱える。


蔦の拘束バインド!」


これで良し、患者たちは動かずに大人しくしてくれるだろう。


「じゃぁ、順番に診ていくから大人しくね。」


「ん~。今回は火系列で行ってみようかな」


盗賊の一人に近づき火系列の治癒魔法を唱える。


再生の炎ピュリフィ!」


・・・あ、焦げた。


「う~ん、やっぱり火系列は治癒向きじゃないなぁ。調整がむつかしいや。」


人を変えては、色々な治癒魔法を試す。


途中でウゥッとか呻き声が聞こえるが、我慢してもらおう。


「ふぅー。これで全員終わったかな?」


試行錯誤していたので少し時間がかかったけど、全員回復したはずだ。一応安静なのでバインドは解いていない。


「クッ…動けるようになったら、てめぇなんざ・・・」


真空の刃カマイタチ!」


何かしゃべっていた男の全身が切り刻まれる。


「あれっ?まだ、こんなひどい怪我人残ってた?」


まだ試してない治療法あったかなぁー……と考えながら男の傷を治していく。


翌日、いつもの様に盗賊たちのアジトに行くと誰もいなかった。部屋の片隅に物品がまとめられていて「差し上げますので、探さないでください。」という書置きが残っていた。


「別に治療費請求してないのに、律儀だねぇ」


まぁ、くれるというなら貰っておこう。



その後も盗賊や山賊の情報を聞くと、アジトを探し出して治療しに行ってあげたのだが、どの盗賊たちも2~3日で姿を消すようになった。


◇ ◇ ◇


ガシッ!キィッン!ガッ!キィッン!


金属と金属がぶつかる激しい音が響く。


「・・・よしっ!休憩だ!」


号令がかかると、あちらこちらで安堵のため息が聞こえる。今日の訓練も激しかった。


「よぅ、坊主!今日も来てたのか?」


体格の良いさわやかなイメージの男が近づきながら声をかけてくる。


「坊主はやめてくださいって、何度も言ってるんですが?」


「あはは、坊主が成人して我が騎士団に入団するか、俺から1本とれるようになったらやめてやろう!」


「それ、暗にやめる気ないって言ってるも同然ですよね?」


俺の目の前に立つ、ちょっとムカつくさわやかイケメンは、この地方この辺りを担当している騎士団辺境地区担当の中隊長だ。とはいっても上司はほとんど顔を出さないらしいから実質、隊のNo.1らしいが。


「じゃぁ、今日こそは1本とらせてもらいますよ。オッサン」


「おぅ、かかってきな、坊主!」


キィッン!キィッン!ガッ!キィッン!


激しく打ち合う。


「ほらほら、坊主どうした?」


くっそー、こっちは一杯だってのに、まだまだ余裕ってか。


キィッン!キィッン!キィッン!キィッン!

右、左、右、右、斜め下からの斬り上げ・・・・全部あわされている。

右足に体重をかけ、上段から斬りつける・・・様に見せてしゃがみ込み腰を狙う。

・・・が読まれていた。剣が打ち払われる。


しかし俺は構わず突っ込む。左手に隠し持ったダガーを突き…させなかった。

こちらの手が届く前に、俺の首元に剣先が突き刺さる寸前で止められている。


「……参りました。」


「今日は中々悪くなかったぞ。ヤバいかと思った。」


息切れ一つせずによく言うよ。こっちはしゃべる余裕もないってのに。



このオッサンと初めて会ったのは10日ほど前だ。


この街に着いて、いつもの如く盗賊のアジトにお邪魔したのだが、そこはもぬけの殻だった。


「んー、情報古かったかなぁ・・・ンッ!」


囲まれてる。……あの情報屋に騙されたか。


体中に魔力を巡らせ身体強化をする。……ッ!後ろッ!


後ろからの攻撃をかわした……と思ったときには剣を突き付けられていた。


「お前ひとりか?仲間はどこだ?」


・・・盗賊連中にハメられたかと思ったが、こう聞いてくるってことは、こいつら警備隊か何かだろう。なら、下手に抵抗しないほうがいいかもな。


「なんのことかな?それより、あんたらは何者?ココの人?」


途端に騒がしくなる。盗賊風情と一緒にするなと言いたいらしい。


「ふざけるなよ!」


締め付けが厳しくなり顔が近づけられる。


「……!子供か?オイ、坊主。なんで子供がここにいる。」


・・・いきなり子ども扱いかよ。


「坊主じゃない、俺はもう、に……13歳だ!」


思わず星野彼方の年齢を言いそうになったが、今の俺はレイフォード13歳だ。


・・・・・ん?13歳ってガキじゃね?


「まだガキじゃねぇか!」


・・・ダヨネー。


「もう一度聞くぞ、坊主みたいな子供が、なぜここにいる?お仲間に見捨てられたのか?」


「坊主じゃねぇって。俺はただ、ココに盗賊のアジトがあるって聞いたからお宝を探しに来たんだよ。」


・・・うん、嘘は言ってない。お宝巻き上げるのも探すのも似たようなもんだろ。


「オッサンたちこそ、何しにここへ?やっぱり盗賊のお宝巻き上げに?」


「オッサンじゃねぇ!、俺はまだ26だ!」


……15歳で成人、二十歳そこそこで所帯を持つのが普通のこの世界じゃ、26歳ってオッサンじゃ?


「俺たちは、騎士団だ。ここに盗賊のアジトがあるって通報を受けてきたんだ。最近被害が酷いって報告が上がってきていたからな。」


「そうなんだ。お勤めご苦労様っす。では・・・」


「……待て」


その場のノリで立ち去ろうとしたが、襟首をつかまれて止められてしまった。


「怪しい奴をそのまま返すわけにはいかん。事情徴収に付き合ってもらうぞ。」


・・・デスヨネー。



それから、街で事情徴収を受けたが、解放されたのは夜も遅く更けてからだった。


「いやぁー、スマン、スマン。遅くまで悪かったなぁ。」


「まったくですよ。俺の貴重な時間を返してほしいですね。」


手間かけた詫びに飯をおごるというので遠慮なく御馳走になっている。

「まぁまぁ、そう尖がらずに・・・。ほら、飲め!」


「人の事坊主呼ばわりする癖に、酒をすすめるとは・・・飲

むけどね。」


・・・さすが異世界と、進められたお酒に口をつける。予想以上に甘かった。


「大体、坊主も悪いぞ、盗賊のアジトに一人残ってりゃ、疑ってくださいというもんだ。」


「そうかもしれないけど…」


酒を飲みながらいろいろな話をした。


オッサンは意外と面倒見の良いタイプらしく、俺が冒険者になるための修行の旅をしているというと「稽古をつけてやるから明日から来い」と、かなり強引に誘われた。


俺としても武具の取り扱いは覚えておきたいところだったので丁度よかった。



午前中、騎士団の連中に交じって訓練をし、休憩時間になったらオッサンと剣を交えるというのがこの連日の日課だった。

自分では大分上達したと思うのだが、オッサン相手だと手も足も出ないのはちょっと悔しい。


俺が息を整えているとオッサンが隣に座る。


「お世辞じゃなく、今日はよかったぜ。一瞬ヒヤリとした。」


「どうも・・・。」


素直に褒められるとは思ってもみなかったので、なんて答えたらいいかわからない。


「なぁ、聖女って聞いたことあるか?」


「いきなりですね。…まぁ、以前聖女が居たって村で噂ぐらいは聞きましたけど。」


それが何か?と目を向ける。


「実はな、その聖女さん二日ほど東へ行ったところにある街に住んでいるんだが・・・、先日何者かに襲われたらしくてな。」


オッサンたちの騎士団が街から離れた直後に起きた事件らしく、タイミング的に見て盗賊の被害届もアジトの情報も計画的だったのではないかということらしい。


「聖女さんは無事だったんだが、領主が今回の事を重く捉えていて、領都へ移動することになってな・・・俺たちも護衛で領都に行くことになった。」


明日には町を出る・・・オッサンが一息つく。


「・・・そっか、じゃぁ明日でお別れかぁ。」


……結局1本もとれなかったな。


「なぁ、坊主、よかったら一緒に来ないか?領都には冒険者を支援するギルドもあるし、予備校だってある。坊主にとっても悪い話じゃないと思うが、どうだ?」


……住むところも世話してやるぞと言ってくれる。


正直ありがたい話だ。遅くとも来年ぐらいには、どこか大きな街で腰を落ち着けて冒険者になるための準備をしたいと思っていたし、それが今でも問題ない…はず。


「ありがとうございます。正直言うと、俺なんかのために、そこまで気にかけてくれること、とっても嬉しいですよ。」


でも・・・。


「今、俺が向かうべきところは領都じゃない。そんな気がするんです。ハッキリと説明できないのですが…変だと思われるかもしれませんが。」


「いや、変だとは思わんよ。きっと『神託』ってヤツじゃないか。」


たまにあるんだよ、そういうことは…と静かに言う。


「ま、神託が降りてるんじゃ仕方がないか。でも、領都に来たときは訪ねてきてくれよ。」


じゃぁ、訓練の続きをやるかぁと立ち上がる。

その日は、倒れるまでオッサンに稽古をつけてもらった。



翌日、オッサンたちを見送ると俺も街を出ることにした。


さて、これからどうしようか?

東は、領都方面、北は王都方面、西は国境で、南は砂漠…か。


「ま、気が向くままに行きますか。」


そう呟いて、俺は次の街を目指して歩き出した……。


◇ ◇ ◇


「・・・というわけでして、その坊主には、見事に振られてしまいやしてね。」


一緒に来てくれればいい話し相手になると思ったんですがね・・・話しながらも、彼は周囲への警戒を怠らない。頼もしい限りだ。


「そうですね。聞いてる限りですと、とぼけた感じとか、意外と負けず嫌いなところとか、私の知っている方とよく似ています。一度お会いしてみたかったですわ。」


「領都にいればそのうち会えますよ。」


冒険者を目指しているらしいですからね…と彼は言う。


そうですねと私は答えつつ、来た道を振り返る。


今回は会えなかった。でもいつか必ず会う日が来る。それは定められた未来。


彼かどうかわからないが、その人に会うことで何かが大きく動く…来るべき日の為に私は力をつける。


だから待っててね、今度は私から会いに行くよ・・・。

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