神奈川県、某所。
住宅街の中の一軒家。
そこに“彼女”は居た。
ヘルメット型の機械を持ち、ベッドに座り、“ソレ”を眺める。
神崎花鈴。
それが、彼女の名前だった。
「はあ……今日、か……」
今日は“彼”の言っていた“あのゲーム”を遊べる日なのだ。そして───────
「“アイツ”にアプローチできるチャンス…逃すわけには行かない……!例え、私の幸運値使い果たしていようとも!」
そう。
彼女は、彼が好きなのである。
彼のプレイするゲームに参加してまで、彼を追いかけるほどには。
「アイツみたいに、……あの時のアイツみたいに、かっこいい所見せてやるんだから!待ってなさいよ、“春樹”!!!」
本人が知らぬ中、そんな“彼”を好く人間は、もう一人いる。
東京都、江東区。
ビルの立ち並ぶ中にあるマンションの中。
“彼女”は、ゲーミングチェアに座り、父から誕生日にプレゼントされた───────何故娘にそんなものをプレゼントするのか甚だ疑問だが ───────執務机を思わせるデスクの上に置かれていたデスクトップパソコンの画面を見つめていた。そこに書かれていたのは───────
「『明晰夢の理論を応用し、ユーザーに快適な夢を提供します』、『脳を永続的なレム睡眠状態にし、現実と見紛うほどの仮想世界を体験いただけます』、か。「『幻想と魔法の世界を体験いただけます』『さあ、あなたも夢の世界へ!』なんてのもあるや」
今回参加しようと思っていたVRMMOとそれに必要な端末のサイトであった。
確かにこれは“彼”も惹かれるなと思い、ふたつ開かれていたブラウザのウィンドウを閉じる。
「なんの問題もなく端末も手に入ったし、準備準備、っと」
“コレが欲しい”なんてお父さんの近くで言ってしまったが故に、その翌日にはもう既に彼の元にあって、それをプレゼントされたのには驚いた。
ただ、『いつも仕事を手伝ってくれているんだ、このくらいはしてあげないとね』とか言ってくれたのは嬉しかった。
「さてと……」
違う場所にいながらも、二人の少女は同じ動きをする。
端末を頭に装着し、起動する。
「「さてと」」
時間は、13:59。
「「始めますか」」
歯車が、動き出した。
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