「コレがあの……………まさか当選するとは思わなかった……………………………」
ここは、尽良月市の住宅街、そこに建つ一軒家。
そんな一軒家の一室で、ヘルメット型の機械を眺める少年がいた。
「初期設定も終わったし、後は時間を待つだけ、か。」
否。少年ではない。端末を眺めていたのは、少女であった。
内部動作補正を済ませた彼女は、サービス開始までの時間、パソコンをいじっていた。
画面に映っていたのは、とある人物のインタビュー記事。
そこには、『MDUメインプログラマー、未山阿騎軌氏と星河柚優木氏のインタビュー』というタイトルに、20代の男性と……………なんか中学生くらいの少年の写真が貼られていた。
『未山さんに質問です。貴方は何故MDUを作成しようと考えたのですか?このD2システムは、使いようによっては軍事転用なども可能でした。それなのに何故、ゲームの形としてこのように発表したのですか?』
『それは我々がソレを望まないからだ。考えてもみてくれたまえ。自身の作った技術が知らぬ地で知らぬ人を虐殺、など、考えたくもない。それに、だ。私がこの世界を構築したのは、ゲームであることが目的ではない。私がこの世界を構築したのは、真なる異世界の観測、そして、人間の脳の限界を見ることにある。人間の脳は未だほとんどがブラックボックスなのだ。ソレが故に、私は人間の脳がどのような奇跡を起こすかがどうしても知りたくなってしまったのだよ。だからこそ、ダイバーギアにモニタリングのための装置を取り付けた。もしかしたら、この世界に“超能力者”なる非科学的存在が産まれるかもしれないのだからな。』
『超能力、ですか………………興味深いお話をありがとうございます。それでは、次は星河さんに質問です。…………貴方がこの技術に求める物とは何でしょう?』
『ボクがコレに求める物……………………そう、ですねぇ…………医療の新たな可能性、でしょうか』
『医療の可能性、ですか?』
『はい。このD2システムには、体感覚・動作のキャンセル機能というものが搭載されています。これは、人間の神経に作用して、現実の五感をシャットアウトして現実世界の体を一切動かさずに仮想世界のキャラクターを操作できる。そう言った方法でゲームをプレイできるんです。……………考えてみて下さい。大きな副作用のある薬物の投与の際、この機能を利用することで─────────』
「やっぱすごいな、こう言うのって」
天才である彼らとただの凡人である私では頭の出来が違う。こんなことは考えつかない。
まあ、コレのお陰で私は自己像の通りになれる。例え仮想現実……夢の世界だったとしても。
部屋の机の上に置いてあるデジタル時計、それが13:58を示していた
その時計を見た彼女は、デバイスをかぶり、首元のスイッチを入れる。
ぶぉん、と低い音がして、下ろしておいたバイザーに様々な情報が映し出される。
それらを無視して、彼女はベッドに横になる。
「─────ふぅーーー…………緊張してきちゃった………………」
運命の時はあと少し。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!