「ここが、恐怖への入口というわけか……」
満月の下、廃教会の扉を前に、今にも「ごくり」という音が喉から聞こえそうな声で、つぶやくクク。大げさだなー。
この教会、火事の後建て直されたそうだけど、出るという話が広まりすぎたのと、新任の司教様が鎮魂を試みたけど、それでも怪現象が収まらないという話のダブルパンチで、結局廃することになったらしく。
バーシはというと、カメラを手にフラッシュを焚いて、一人盛り上がってる。相変わらずだねえ。
ちなみにこの世界のカメラ、スマホどころかデジカメですらなく、フィルムっていうのを使う。これ、専用の設備使わないと、写真にできないんだって。不便だね。
インスタントカメラっていう、その場で写真にできるのもあるけど、色々お高くて、バーシには手が届かないらしい。
で、シャロンは……見事な大あくび。休日とか、一日中寝てるんだろうなあ。先祖返りってやつかな?
「よーし、いい写真撮れた~。じゃー、行きまっしょー!」
ムードも何もなく、楽しげに扉を開けて、中へ入っていくバーシ。ボク、クク、シャロンと続く。
「なー……やっぱりやめとかねー……?」と、ククが小声で撤退を提案するけど、オカルトを前に引くバーシではない。諦めよう、クク。
懐中電灯の明かりが、教会内をさまよう。異変ナシ。
「うーん、ガセだったのかなー? おばけさーん、いるなら出てきてー」
バーシが残念そうにこぼすと、突如、「ブァーン!!」と、パイプオルガンの音が鳴り響く!
「ウギャーッ!!」
ククの悲鳴!
「ミギャーッ!!」
ボクの悲鳴!!
ウギャーはともかく、ミギャーは人の悲鳴としてどうなんだろ……とか考えてる場合じゃない!!
「バーシ! マジだよこれ! これはダメだ!!」
バーシに連れ回されて、場馴れしたこのボクも、さすがに撤退を提案する。
「え? なんで? ここからが本番じゃない!」
すっごい嬉しそうに、シャッター切ってるし……。
「あ、あああ……シャロンがいねえええええ!!」
再度、ククの悲鳴!
ほんとだ! シャロンが消えてるゥ!?
パイプオルガンが、厳かにメロディを奏で始めた!
「「ヤダァァァァーッ!!」」
ククと抱き合い、悲鳴の合唱!
「あー、もう! テープレコーダーも、持ってくるんだったー!」
バーシは相変わらずだ!
すると、長椅子の背もたれから、にゅーっと白い手が伸びる!
「「出たああああああああああッ!!」」
急激に腕が重くなる。ククの意識が飛んでしまったようだ。
「クク! 大丈夫、クク!?」
ゆすり起こすが、完全に気絶している。
どうしよう!? どうしたらいいの!?
バーシはなんか、アハアハ笑いながらシャッター切りまくってるし!
すると、窓から差す月明かりに照らされ、空中に人影が浮かび上がる!
「ギャアアアムッ!!」
もはや、人のものとは思えない悲鳴をあげるボク。もうやだぁ~……。
「あの……」
誰かが、なにか言った気がするけど、ボク自身の泣き声と、バーシの笑い声で、よくわからない。
「あのッ!!」
今度ははっきり聞こえた!
ぐずりながらも、声のしたほうに目をやると、空中の人影……うっすら透けてる、金髪ツインテールの女の子が、困った顔をしていた。
「すみません、驚かすつもりはなかったんです!」
ぺこりと頭を下げる女の子。改めて見ると、八、九歳ぐらいに見える。バーシも、一枚だけ写真を撮って、少女の話に耳を傾けることにしたようだ。
「うう~ん? さっきから、なんなんすか~。うるさくて、眠れないっすよ~」
いなくなったと思っていたシャロンが、長椅子からのっそり体を起こす。手の主はシャロンか! 人騒がせな……。
「やや? なんすか、この子は?」
アイマスクを外して、取り乱すこともなく、平常モードで女の子を見る彼女。バーシとは別方向に、マイペースだね……。
「すみません。今、降りますね」
空中から、スゥーっと降りてくる女の子。とりあえず、悪霊とかそんな感じには見えない。
あ、そうだ!
「クク、クク! 起きて! 悪い幽霊じゃないみたいだよ?」
ゆすり起こすが、ダメ。
しょーがない。
「ゴメン!」
スパーンと、頬を勢いよくひっぱたく。
「いってえ! なにす……いや、シャロンは!?」
真っ先に、妹分の心配をする彼女。
「えーとね……」
今の状況を、かいつまんで説明する。
「シャロン、お前な! 勝手にいなくなって寝るなよ! ほんとに……」
怒りながら安堵するという、小難しいことをしながらも、状況を受け入れるクク。
「えーと、自己紹介してもいいですか?」
幽霊の女の子が、所在なげにしてるので、一同促す。
「わたしは……」
彼女が、ぽつりぽつりと語り始めた。
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