ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!

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第八話 九月六日(火) ミギャーッ!!

公開日時: 2022年8月1日(月) 21:01
文字数:1,861

「ここが、恐怖への入口というわけか……」


 満月のもと、廃教会の扉を前に、今にも「ごくり」という音が喉から聞こえそうな声で、つぶやくクク。大げさだなー。


 この教会、火事の後建て直されたそうだけど、出る・・という話が広まりすぎたのと、新任の司教様が鎮魂を試みたけど、それでも怪現象が収まらないという話のダブルパンチで、結局廃することになったらしく。


 バーシはというと、カメラを手にフラッシュを焚いて、一人盛り上がってる。相変わらずだねえ。


 ちなみにこの世界のカメラ、スマホどころかデジカメですらなく、フィルムっていうのを使う。これ、専用の設備使わないと、写真にできないんだって。不便だね。


 インスタントカメラっていう、その場で写真にできるのもあるけど、色々お高くて、バーシには手が届かないらしい。


 で、シャロンは……見事な大あくび。休日とか、一日中寝てるんだろうなあ。先祖返りってやつかな?


「よーし、いい写真撮れた~。じゃー、行きまっしょー!」


 ムードも何もなく、楽しげに扉を開けて、中へ入っていくバーシ。ボク、クク、シャロンと続く。


 「なー……やっぱりやめとかねー……?」と、ククが小声で撤退を提案するけど、オカルトを前に引くバーシではない。諦めよう、クク。


 懐中電灯の明かりが、教会内をさまよう。異変ナシ。


「うーん、ガセだったのかなー? おばけさーん、いるなら出てきてー」


 バーシが残念そうにこぼすと、突如、「ブァーン!!」と、パイプオルガンの音が鳴り響く!


「ウギャーッ!!」


 ククの悲鳴!


「ミギャーッ!!」


 ボクの悲鳴!!


 ウギャーはともかく、ミギャーは人の悲鳴としてどうなんだろ……とか考えてる場合じゃない!!


「バーシ! マジだよこれ! これはダメだ!!」


 バーシに連れ回されて、場馴れしたこのボクも、さすがに撤退を提案する。


「え? なんで? ここからが本番じゃない!」


 すっごい嬉しそうに、シャッター切ってるし……。


「あ、あああ……シャロンがいねえええええ!!」


 再度、ククの悲鳴!


 ほんとだ! シャロンが消えてるゥ!?


 パイプオルガンが、厳かにメロディを奏で始めた!


「「ヤダァァァァーッ!!」」


 ククと抱き合い、悲鳴の合唱!


「あー、もう! テープレコーダーも、持ってくるんだったー!」


 バーシは相変わらずだ!


 すると、長椅子の背もたれから、にゅーっと白い手が伸びる!


「「出たああああああああああッ!!」」


 急激に腕が重くなる。ククの意識が飛んでしまったようだ。


「クク! 大丈夫、クク!?」


 ゆすり起こすが、完全に気絶している。


 どうしよう!? どうしたらいいの!?


 バーシはなんか、アハアハ笑いながらシャッター切りまくってるし!


 すると、窓から差す月明かりに照らされ、空中に人影が浮かび上がる!


「ギャアアアムッ!!」


 もはや、人のものとは思えない悲鳴をあげるボク。もうやだぁ~……。


「あの……」


 誰かが、なにか言った気がするけど、ボク自身の泣き声と、バーシの笑い声で、よくわからない。


「あのッ!!」


 今度ははっきり聞こえた!


 ぐずりながらも、声のしたほうに目をやると、空中の人影……うっすら透けてる、金髪ツインテールの女の子が、困った顔をしていた。


「すみません、驚かすつもりはなかったんです!」


 ぺこりと頭を下げる女の子。改めて見ると、八、九歳ぐらいに見える。バーシも、一枚だけ写真を撮って、少女の話に耳を傾けることにしたようだ。


「うう~ん? さっきから、なんなんすか~。うるさくて、眠れないっすよ~」


 いなくなったと思っていたシャロンが、長椅子からのっそり体を起こす。手の主はシャロンか! 人騒がせな……。


「やや? なんすか、この子は?」


 アイマスクを外して、取り乱すこともなく、平常モードで女の子を見る彼女。バーシとは別方向に、マイペースだね……。


「すみません。今、降りますね」


 空中から、スゥーっと降りてくる女の子。とりあえず、悪霊とかそんな感じには見えない。


 あ、そうだ!


「クク、クク! 起きて! 悪い幽霊じゃないみたいだよ?」


 ゆすり起こすが、ダメ。


 しょーがない。


「ゴメン!」


 スパーンと、頬を勢いよくひっぱたく。


「いってえ! なにす……いや、シャロンは!?」


 真っ先に、妹分の心配をする彼女。


「えーとね……」


 今の状況を、かいつまんで説明する。


「シャロン、お前な! 勝手にいなくなって寝るなよ! ほんとに……」


 怒りながら安堵するという、小難しいことをしながらも、状況を受け入れるクク。


「えーと、自己紹介してもいいですか?」


 幽霊の女の子が、所在なげにしてるので、一同促す。


「わたしは……」


 彼女が、ぽつりぽつりと語り始めた。

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