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第十九話 九月十五日(木) ヤマト街を巡ろう! ―前編―

公開日時: 2022年8月12日(金) 21:01
文字数:2,152

「よーし! また一段と、きれいになったな!」


 例の廃教会で、額の汗を拭いながら、いい顔をするクク。


「っすね。あと一息で、内側は完璧っすね」


「外壁は……危ないから、一階をモップがけするぐらいになっちゃうけど、いい?」


 隣に佇むアイちゃんに尋ねるバーシ。今日は彼女も、念動力でお掃除に参加しました。


「はい。もう、十分じゅうぷんすぎるぐらいで……」


 両ほっぺに手を当てて、笑顔のアイちゃん。


「今回が終わっても、定期的にお掃除にこなきゃだからね。寂しい思いは、なるべくさせないよ」


 笑顔を向けると、彼女も笑顔を返す。


「お疲れ様でした。職員室で、お茶飲ませてあげるわね」


「いいんですか? あの緑のお茶、どんな味か楽しみだったんスよ!」


 顔を、ぱあっと輝かせるクク。


 緑茶、前世のボクが知ってるのと同じ味かな? 楽しみだなあ。


「じゃあ、また来週ね!」


 みんなでアイちゃんに手を振り、バス停に向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「へえ! 緑茶って甘いんですねえ!?」


 職員室で、初緑茶の味に驚く、ボク除く三人。緑茶は、ボクの前世が知っている味だった。


「これ、砂糖とか入ってないんすよね?」


 シャロンも興味深げだ。


「砂糖なんか入れたら、かえって変な味になっちゃうわよ。まあ、抹茶っていうお茶を使った、スイーツもあるけどね」


 「へ~」と、またも三人から感心の声。


「ボク、前世では抹茶スイーツ、食べたことなかったなあ……」


 ドクターに止められちゃってね。


「あら、じゃあ今度、みんなでヤマト人街めぐりする?」


 「したいです!」と四人ですごい食いつき。


「さすがに、これを部活動と言い張るのは無理だから、土曜か日曜にしましょう?」


「あ、じゃあ土曜でいいですか? 日曜はお店のヘルプ頼まれてて」


 恐縮して挙手。


「みんなが構わなければ、先生は土曜でもいいけど。どう?」


 三人から、「異議なーし」の反応。


「じゃあ、次の土曜に決定! 九時に校門前でいいかしらね?」


 「はい!」と一同。


 いやー、楽しみだなあ。まさか、こんな身近に、ヤマト食品への道が拓けていたとは。



 ◆ ◆ ◆



 バーシと一緒に校門に来ると、茶色い乗用車が停まっていました。中には、先生とククシャロコンビの姿。


「おはよーございまーす」


「おはよう。乗っちゃって。あんまり長々と路駐するのもよくないから。


 シャロンが一番小柄なので、彼女を真ん中に挟んで、ボクは助手席。


「じゃあ、行きましょうか」


 エンジンを入れ、先生カーはボクらの住まいと、反対方向に向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



 駐車場に車を停め、市場へ。


「はー。こりゃ、イコクジョーチョってやつですねえ!」


 居並ぶ建物に、感心するクク。


 このルンドンベアからは、とても浮いている、前世で何かの資料で見た、昭和日本の商店街みたいな光景が広がっていた。


「三毛さんが多いね」


 バーシの言う通り、三毛色髪の人が多い。


「うち、お父さんも三毛なのよ。私は、お母さんの血が強く出たようでね」


 シルバータビーの髪を、くりくりいじる先生。


「この、緑色の板は何すか?」


 乾物屋らしき店で、束ねられた緑の板に興味津々なシャロン。


「それ、昆布っていってね。すごくいい、おダシが取れるのよ」


 「へえ~!」と感心する一同。


「お父さんたちに、買っていってあげたいなあ」


 こういうのに目がないあたり、ボクも食堂の娘だ。


「いいんじゃないかしら。でも、お小遣い足りる?」


「う……豆腐と醤油の値段にもよるけど、厳しそうですね」


「昆布は逃げないから、また今度ね。トクさん、子供たちに、塊の鰹節見せてあげられます?」


「いいよー。まっててね」


 店長のおじさんが奥に引っ込んだかと思うと、塊の鰹節を手に戻ってきました。


「やや、こりゃまた、何すか?」


「鰹節っていってね。これも、いいおダシが出るの」


「ちょっと、叩いてごらん」


 コツコツと叩くシャロン。


「や! こりゃ固いっすねー! こんなので、どうやっておダシ取るんすか?」


「薄くね、カンナで削るんだよ」


 そういうと、カンナも持ってきて、実演してくれた。


「おおー! ヤマトの食材っておもしれえなあ!」


 ククも興味津々。


「せっかく削っていただいたし、一袋くださいな」


「毎度! ありがとうね、ネコザキ先生」


 こうして、ボクがよく知る花かつおの姿になって、ビニール袋に収まりました。


 続いて、市場を練り歩いていくと……。


「あ、いい匂い~」


 ほんとだ。お茶の、あの匂いだ。でも、さらに香ばしいな。


「ほうじ茶ね。緑茶もいいけど、こっちも美味しいのよ。おごってあげるから、ちょっと一服しましょうか」


 そう言って、ほうじ茶五人分を頼み、和情緒漂う椅子に腰掛ける先生とボクたち。


「なんか、あれねえ。トマルナーさん、反応薄いわねえ」


「すみません。前世で、見知ったものばかりなもので」


「いえ、謝る必要はないのだけれど。本当に転生者なのねかしらねえ……」


 不思議そうな顔で、ボクを見つめる理科教師。うーん、幽霊に会っても、こっちは半信半疑?


 そんなことを言っていると、店員さんがお茶を配膳してくれました。


 五人で、いただきますを言う。


「へえ! 香ばしい~! 紅茶とも、また違った香ばしさですね!」


 バーシが、感動気味に言う。


「でしょ」


 美味しそうに、飲む一同。ああ、懐かしい味だ。こっちでも、ほうじ茶が飲めるなんて。


 ヤマト街散策は、始まったばかり。懐かしいものだらけで、心が踊っちゃうな!

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