「アユムは、部活決めた?」
学校の休み時間、バーシが不意に話を振ってきた。
「うーん、正直悩んでる」
雨が降らなければ、毎日走り込みしてるぐらいだから、足の速さには自信がある。でも……。
「陸上にしようか悩むんだけどさ、そしたら、バーシやククたちと過ごせる時間が減っちゃうなって。あと、家の手伝いがあるから、やっぱり陸上は無理かな」
陸上選手への道を進む、なんてのもカッコイイけど、やっぱりボクは家業を継ぎたい。おじいちゃんの時代から、ずーっと続いてきたお店だもん。
「そっかー。私は服飾部なんか興味あるけど、確かにうちも、お店の手伝いがねー」
二人で腕組みして悩む。放課後、あまり自由になる時間がない。それが、ボクらのネックだ。
「よ。ご両人! 何の話?」
「あ、クク、シャロン! 実はね……」
部活絡みで悩んでいたことを、打ち明ける。
「二人が陸上と服飾にコダワリがないなら、ミョーアンがあるっすよ」
びっと人差し指を立てるシャロン。
「自分たちで、部活作っちゃうんすよ」
その発想はなかったとばかりに、「おお~」と声を上げる一同。
「確か、ここ、四人から作れたよな?」
「っす。だから、あとは内容決めて、顧問のセンセーをゲットすれば、おっけーっす」
なるほど。
「そういやさ、二人の店も定休日ってあんだろ? いつ?」
「うちも、バーシんところも、毎週火曜。家族ぐるみでお付き合いがあるから、定休日を合わせてるんだ」
火曜、とかナチュラルに脳内翻訳しちゃったけど、もちろん、この国の言葉での曜日名が、別にあります。
ちなみに、小学生のときは、さすがにお店の手伝いがなかったので、陸上やってました。得意種目は、長距離走。
「そっか。じゃー、やるならそこかな? うちらも、特に何もない日だし」
ククの言葉に、こくこく頷くシャロン。
「問題は何をやるかだね! やっぱ、オカルト部とかどう!?」
生き生きと、提案するバーシ。
「冗談でもやめてくれ。もっと、穏便なので頼む。第一、そんな変な部、申請通らねーだろ」
二の腕を抱いて身をすくめるククに、不満そうな我が幼馴染みの顔が、好対照。
「じゃあ、ボランティア部とかどうかな?」
代わりに、ポンと出てきたアイデアを口にする。
「いかにも、教師受け良さそーだな。やっぱ、ゴミ拾いとかか?」
「それだけが、ボランティアじゃないよ。お年寄りの話し相手になってあげたり、逆に子供の遊び相手になってあげたり」
「へー。子供と遊ぶのはいいな!」
「じゃー、決め打ちっすかね。あとは、誰か顧問のセンセーを探すだけっすね」
「とりあえず、昼休みに、担任のネコザキ先生に話してみよーぜ」
話もだいたいまとまったところで、ちょうど予鈴が鳴ったので、各自席に戻る。
部活、楽しみだなー。
◆ ◆ ◆
給食が終わり、ネコザキ先生が職員室に戻ったので、給食を片付けた後、ボクらも職員室へ向かう。
「失礼しまーす」
先陣を切って、扉を開ける。
先生は、ショートカットで、シルバータビーの髪色としっぽをしていて、ちょっと目立つ。それに何より、大体白衣を着ていることが多い。……あ、いたいた。
「ネコザキ先生、部活のことで相談があるんですけど」
「あら。なんでもどうぞ。こっち、いらっしゃい」
ネコザキ先生に招かれたので、近くに寄る。彼女は、珍しい緑色のお茶を、小さなカップに入れていた。前世でいう、緑茶と茶碗だ。
先生、ネコザキなんていう珍しい名字だけど、お父さんが、東の国・ヤマト出身らしくて、こんなエキゾチックな名字らしい。ちなみにフルネームは、アメリ・ネコザキ。
ともかくも、ボランティア部の設立を申請する。
「ボランティアとは、いい心がけね。最終的には、校長先生のご判断になるけど、ダメ出しされることはないんじゃないかな。で、活動日が、火曜のみ?」
「はい。ボクとバーシが自由にできるのが、その日だけなんで」
ふむ、と考え込む先生。
「わかりました。あくまで部活ですからね。運動部のようにノルマ至上主義でもなし、いいでしょう」
「それで先生、顧問のことなんですけど……」
「私で良ければ、やりますよ。ちょうど、何も受け持ってなかったですし」
「おおー!」と、幸先の良さに、四人でハイタッチする。
「まあ、とりあえず承認待ちね。先生のほうから、書式を整えて提出しておきますから」
「ありがとうございます!」
一同お礼して、退出する。
そういえば、ヤマト……前世の日本を連想させる名前だな。もしかすると先生、お豆腐や和食について詳しかったりするかも? 今度訊いてみよ!
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