「さあ、参りましょうか」
「え、ええ……」
わたしは抵抗しても無駄と考え、天馬さんについていこうとした。
「おいおい、こっちが優先だろうが?」
ブレムさんが横槍を入れてきます。
「優先もなにも無いと思いますが……とりあえず近場から解決していくべきかと……」
天馬さんが笑顔で、自身の考えを話す。
「……とりあえずは彼を支持させてもらうよ」
「我もだ」
「オレもだね」
功人さんと、ジャッキーさん、ノリタカさんが天馬さんを支持する。
「ちっ、しゃあねえなあ。さっさとしてくれよ……ん? おいおいまさか……」
「そのまさかってやつだね」
ブレムさんの言葉にノリタカさんが反応する。そう、いつもの裏庭にやってきたのだ。
「皆、揃って同じ場所に導かれるとは……」
「~♪ これは素敵な偶然だね」
ジャッキーさんが顎に手を添える横で功人さんが口笛を鳴らす。
「……移動する手間が省けましたね……」
天馬さんがわたしに微笑みかける。いや、妖にヴィラン、モンスターにエイリアン、さらには悪魔、それぞれの退治に参加しないといけないみたいだから、わたしの手間は大して変わってないと思う。っていうか、もうこの場合、移動なんて単なる誤差のようなものだろう……などと言ってもしょうがないので、わたしは微妙な笑みで返す。
「ははっ……」
「来ました! これは……!」
天馬さんが珍しく驚いた様子を見せる。九本の尻尾の白い狐が姿を現したからである。
「来たな! ほほう、こいつは……」
功人さんがライオンの顔をした怪人が現れたのを見てやや意外そうにする。
「来た! むう……!」
緑色の巨体をした、鬼のようなモンスターを見て、ジャッキーさんが顔をしかめる。
「来たね! おっと……」
サメのようなエイリアンの登場に、ノリタカさんは身構える。
「来やがった! ちっ……」
天使の羽根を右側だけに生やした者の出現に、ブレムさんは舌打ちする。
「えっと……」
わたしはリアクションに困る。なんだろう、恐らくはレアな相手の登場っぽいんだけど、こういう場合は五人それぞれに反応してあげた方が良いのかな? テンポが悪くなるよな……いや、テンポってなんだよ?などと考えている内に……。
「先手必勝です……! 九尾といえど、化け狐の類、氷の術で……」
天馬さんが動き出した。印を結んで術を発動させようとする。
「コン!」
「なっ⁉ 大きな氷を解かすほどの狐火⁉」
天馬さんの半身が一瞬火に包まれる。なんとか消火したが、膝をつく。
「もらったよ!」
「ガオッ!」
「ぐはっ……こ、これが、百獣の王の顔を冠したヴィランの力ってわけか……」
功人さんがライオン顔の怪人に素早く殴りかかるが、それを凌駕する力で返り討ちに遭ってしまう。功人さんは攻撃を受けた腹部を抑えてうずくまる。
「行くぞ! オーガ、何するものぞ!」
ジャッキーさんが剣を抜いて、構える。オーガというモンスターらしい。
「グウ?」
「衝撃魔法で牽制し、その隙に斬りつける……!」
ジャッキーさんが左手で衝撃波のようなものを放ち、間髪入れず斬りかかる。
「グウン!」
「⁉ 魔法を障壁で跳ね返した……? そ、そのような頭脳的な戦い方をするとは……」
自らが放った魔法をそっくりそのまま食らってしまったジャッキーさんは両膝をつく。
「サメさんは海以外では力が半減するだろう? 恐れるに足りない!」
ノリタカさんが勢いよくサメのようなエイリアンに殴りかかる。
「シャア!」
「どわっ⁉ ……お、陸の上でその速さ……まったくの計算外だ」
サメのエイリアンはスピードで上回り、ノリタカさんの肩に嚙みつく。なんとか振り払ったノリタカさんだったが、顔を歪めながら後退し、尻餅をついてしまう。
「堕天使だろうがやることは変わらねえ! 光で浄化してやる!」
「……!」
「うおっ、眩し⁉」
堕天使とやらが発したドス黒い光を受け、ブレムさんが倒れ込んでしまう。五人が揃って圧倒されている……ん? っていうことは……?
「わたしがなんとかするしかないってコト⁉」
間の抜けた声を上げている内に、九尾の狐らが、こちらに視線を向けてくる。いやいや勘弁してよ。初心者には厳しい相手でしょうが。何の初心者かはよく分からないけれど。
「……コン」
「くっ、『華土竜』!」
「コン⁉」
わたしは適当に九字を結び、地中からピンク色のモグラを呼び出した。モグラの体当たりを受けた九尾の狐はその姿を消す。意外だったのかな?
「……ガオ」
「え、えっと……『クラムチャウダー、ボルシチ、マーラータン』!」
「ガオッ⁉」
わたしが単語をいくつか口走ると、銃撃、爆撃、打撃が次々と繰り出さる。それを食らったライオン顔の怪人はその場から走り去る。ものすごい適当だったんだけど。
「……グウ」
「オ、オーガって良く知らないけど、オークの凄いバージョン? 違うのかな? ええい、ままよ! 『神、斬った?』!」
「グウッ⁉」
わたしは発生させた剣を右手に持って、オーガに勢いよく斬りつけだ。オーガは驚いた様子で素早く後退していく。さすがにあの巨体はにわか剣法では両断出来なかったな。
「……シャア」
「あ、生憎サメ映画とか趣味じゃないから……ス、スペースステーション、願います!
……それっ! 『花崗岩』!」
「シャアッ⁉」
わたしは空に向かって右手をかざし、スペースステーションからレーザー照射を受けて、授けられた能力でサメのエイリアンを退却させた。すごい手間がかかっているけど、単純に岩で殴りつけただけだ。テクノロジーの無駄遣いのような気がする。
「………」
「黒い光を放つ堕天使とか……そういうのは中二で卒業しなさいよ! 『イグアナ』!」
「⁉」
わたしはペンダントを握ってイグアナと化し、堕天使に噛みついて撤退させる。我ながら何を言っているのかさっぱり分からない。とはいえ、なんとかなった。ビギナーズラックってやつか。それなりに達成感を味わっているわたしとは対照的に天馬さんたちは一様に雰囲気が暗い。しばらく間を置いて、それぞれ何かを決意した表情になる。
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