「さあ、ともに戦おう!」
「ええ……」
「レッツゴー!」
「―……」
「レッツジョイン!」
「ノー……」
「レッツファイト!」
「ノー!」
「ええっ⁉」
わたしの大声による拒絶に、功人さんは戸惑う。
「い、いや、すみません、大声出しちゃって……」
「そ、それは構わないが、何故にノーというアンサーなんだい?」
「いや、ノー一択でしょ、それは……」
「どうして?」
功人さんは両手を広げる。
「どうしてって……」
「もう一度言う、君は選ばれし存在なんだよ?」
「いや、そう言われても……」
「よく考えてもみたまえ……」
「え?」
わたしは首を傾げる。
「これは絶好のチャンスなんだ!」
「チャ、チャンス……?」
わたしは戸惑ってしまう。
「そう、チャンスだよ」
「チャンスって……」
「君はそのチャンスをみすみす逃してしまうというのかい? いいや、そんな馬鹿なことはあり得ないよね?」
「……逃します」
「ええっ⁉」
「ですから、みすみす逃します」
「ど、どうしてだい?」
功人さんが信じられないという表情でこちらを見てくる。
「どうしてって……別に望んだものではありませんから……」
「ちょっと待ってくれ、少し落ち着いて考えてくれ」
「え?」
「……ここで活躍すれば、名実ともにスーパーヒロインになれるんだよ?」
「嫌ですね」
「い、嫌⁉」
「はい」
「な、何故だい⁉」
「え……」
「理由を教えてくれないか?」
「いや、とくにこれといっては無いですけど……」
「な、無い⁉」
「は、はい……」
「い、いや、無いということは無いだろう? もうちょっと考えてみてごらんよ……」
「う~ん……」
わたしは腕を組んで考える。
「……」
「………」
「…………」
「ど、どうだい?」
「……一応ですがありましたね」
「あ、あったかい? 聞かせてもらおうか……」
わたしは理由を告げる。
「恥ずかしい」
「は、恥ずかしい⁉」
「ダサい」
「ダ、ダサい⁉」
「面倒臭い」
「め、面倒臭い⁉」
「……うん、大体はそんな感じですかね」
わたしは顎をさすりながら呟く。
「そ、そんな……」
功人さんが愕然とする。
「……大分ショックを受けられていますね」
「そ、それはショックだよ……」
「…………」
蜘蛛女がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ヴィ、ヴィランが接近してきていますよ」
「……共に戦えると思ったのに」
功人さんはがっくりとうなだれている。
「……………」
「エ、功人さん!」
「……!」
「……残念だよ!」
「!」
蜘蛛女が飛びかかってきたが、功人さんは視線を下に向けたまま、強烈なパンチを蜘蛛女のみぞおちに食らわせる。蜘蛛女は後方に思いっきり吹っ飛ばされる。
「つ、強い……!」
わたしは感嘆の声を上げる。
「君が協力してくれれば百人力だと言うのに……」
功人さんが顔を上げて、残念そうな表情でわたしを見つめてくる。目が潤んでいる。
「い、いや! 別に協力しなくても十分強力だと思いますが⁉」
わたしは困惑する。あなた一人で良いんじゃないかな。
「………………」
「あ、ヴィランが立ち上がりました!」
「…………………」
「ま、また近づいてきていますよ!」
「……‼」
「と、飛びかかってきた!」
「しつこい!」
「‼」
功人さんがジャンプキックを繰り出し、蜘蛛女の頭部を吹き飛ばす。蜘蛛女は地面に落下して、跡形もなく霧消する。わたしは唖然とする。
「な、なんという破壊力……!」
「今日のわたしは機嫌が悪い……運が悪かったね……」
蜘蛛女の霧消を見届け、功人さんは背を向ける。
「………!」
「どわっ⁉」
蜘蛛女の代わりに出現したものが口から糸を吐き出し、功人さんを絡め取ってしまう。
「功人さん!」
「くっ、油断した……」
「……………………」
「蜘蛛女の親みたいなものかなね……さながら蜘蛛男か?」
「功人さん、余裕ぶっている場合じゃないんじゃ……」
「うん、そうだね。糸に絡まって動けない……ミス静香、ここは君のヘルプを求めるよ」
「ヘ、ヘルプって……」
「まさか私を見殺しにするつもりかい?」
「い、いや、そう言われると困っちゃいますけど……」
「では、よろしく頼むよ」
「よろしく頼むって……」
「君の内に秘められたスーパーパワーを解放するんだ!」
「そ、そんなものを秘めた記憶は無いんですが⁉」
「選ばれし存在だ……きっと君の寝ている間にでも授けられたんだよ……」
「め、迷惑な話ですね⁉」
「………‼」
「う、うわっ⁉ こっちに向かってくる!」
「パワーを解放だ! 両手に力を込めて!」
「そ、そんなことを言われても⁉ ええいっ! ピ、ピロシキ!」
わたしはよく分からないことを口走ってしまう。すると、襲いかかってきた蜘蛛男の攻撃を弾き返すことが出来た。功人さんが叫ぶ。
「今だ!」
「マ、マンジュウ、ハンバーガー、お団子!」
「⁉」
わたしがまたしても分からない言葉を口走ると、爆撃、銃撃、斬撃が次々と放たれ、それをまともに食らった蜘蛛男は霧消する。
「い、今のは、『四か国語戦法』……意外なスキルを持っているね……」
「し、知らないスキルですけど⁉」
「やはりスーパーヒロインとしての才能があるね……」
戸惑うわたしをよそに、功人さんは深々と頷く。
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