端的に紹介するならばタイトルの通り。
昭和終盤から平成初期を舞台にした二十代前後の男女が織りなす真面目な恋愛もの。ファンタジーものが流行する令和の現代においては非常に珍しいタッチの小説ではあるが、そのぶん他の小説にはあまり見られない、人と真摯に向き合おうとする若者の姿が印象的。
学生時代からの馴染みである水沢貴之と舞川涼子はある事件をきっかけに、微妙な距離のまま別離してしまうが、数年後涼子が地元に戻ってきたところから物語が始まる。お互いの存在を確認し合うように少しずつ距離を詰め、けれど距離を詰めてからも万事うまくいくわけでもなくお互いの心の傷をひとつずつ確認し合いながら関係を深めていく丁寧な構成になっている。
ふたりの主人公だけでなく友人たちの存在も大きく、まさに平成の古き良き恋愛小説だ。今の流行には合致しないが、古き良き平成に浸りたい人には懐かしい気分になる小説だろうと思う。
縦読みでも問題なく読める文体になっているため、Web小説ではなく普通の電子書籍としても読める。