エロビデオとバイトとストーカー

昔はストーカーって言葉がなかったから捕まらなかったんだよね……
まっしぐら
まっしぐら

エロビデオから始まるバイト生活

エロビデオ屋

公開日時: 2020年12月30日(水) 15:36
更新日時: 2021年1月16日(土) 13:04
文字数:1,839

 僕は学校からの帰り、いつもつるんでいた友人深沢とエロビデオ販売店にいた。


 「これなら大丈夫だろ」

 「だな。絶対バレねえって」


 僕たちは申し訳程度に膨らんでいるボンタンの裾を折り込みジャージのような形にして短ランとワイシャツを脱ぎ、肌着に革ジャンやブルゾンを羽織るといった奇妙な恰好をしていた。


 「よっしゃ!いくべ!」


 僕らは内心ビクビクしながらも平静を装い、エロビデオ販売店に入っていった。


 店内は物音一つ立たない静寂の空間であった。僕らは無言でアイコンタクトをとり、散開した。

 事前打ち合わせで決めていたジャンルでそれぞれ好みのビデオを選び各自購入、その後店外で合流する手筈となっている。


 僕の担当ジャンルは有名どころ、五木るり子か桃木ルイあたりを選定すれば問題無い。楽勝だ。

 店内に長くいれば長くいるほどバレる可能性が上がる為、迅速に選定を行い手に収め、店員と目を合わせないようにしながらスッとレジへ差し出した。


 「君、高校生?」


 (マジか! めっちゃバレてる!)

 と焦りながらも、


 「いえ?違いますけど?」


 と上ずった声で返しはしたものの、


 「歳は何歳?」

 「……十九です」

 「生まれの干支は?」

 「えっと……」

 (おい!深沢!緊縛もので悩んでる場合じゃないぞ!早くこっちに来てフォローしてくれよ!)

 「……」

 「あのねえ、悪いんだけどウチは高校生には売れないから帰ってくれるかな」

 「……」

 

 僕はすごすごと退散。異変に気付いた深沢も慌てて僕の後を追って店外へと逃げ出した。

 

 「はあ……どうすんよ深沢。わざわざ遠征してきたってのに電車賃無駄にしちまったじゃんか」

 「なんでバレたんだろなあ……」


深沢はしきりに首をかしげ、納得のいかない様子だった。


「学生服でさえいなけりゃ全然余裕って聞いてたんだよ。ほんと……」

「そっこーバレたんだけど……」

「まあ、しゃあねえ、帰るか……」

「……」


 もう卒業だから三年間頑張ったご褒美をとわざわざ遠出をしてきたのだ。ご褒美は諦めるとしても、ここで何もせずに帰ってしまったら我々の三年間はなんだったのかという話になってしまう。


 「じゃあさ、バイト探すべ」

 「おおー、バイトねー」

 「そうだよ。深沢もようやく親が出てきて施設から出るんだから一緒にバイトすんべよ。おねえちゃんいっぱいいるところで働いたりしたらもうウハウハよ?」

 「お、おう……やべえな!」


 深沢は家庭の事情というやつで児童養護施設にいた真面目青年だったのだが、僕が高校であれこれ教え込んだ事ですっかり真面目で無くなってしまった。

 バイトも未経験で興味を持っていたし、せっかく学校の時間外で時間を作って遠出(学校最寄りから駅二つ)もしたし、バイト探しをするにはちょうど良かった。


 が、この辺りはエロビデオ販売店しか知らず、どこに行けばバイト情報が手に入るかさっぱりわからなかった。


 「そういや一緒にバスケしてたアイツ、山越だっけ?奴なら人が良さそうだからなんか知ってたら教えてくれるんじゃないか?」

 「そうねえ、もしかしたらいいとこ知ってるかもなあ。」

 「じゃあ、とりあえず電話してみんべ」


 僕らの高校では残念ながら部活動は盛んでなく、バスケットボール部もあったのだが、深沢と別のクラスの山越の二人しか活動をしている部員がおらず、部員ではないがバスケが好きだった僕と顧問の先生の計四人でいつもお遊びバスケをしていたのだった。

 山越は大柄な体と穏やかな性格が、さながら北斗の拳の山のフドウのようだったが、なぜかバスケになると急にサモハンキンポーばりに恐ろしく機敏な動きをし始める変な奴だった。


 二人は近くにあった電話ボックスに入り同じ部員である深沢が山越へ電話をした。


 「やあ、深沢くん、君から電話なんて珍しいね」

 「突然だけど今バイト探しててさ、あの大学に行く途中でなんか良いバイトとか知らない?」

 「え?バイト?そうねえ……おれ今横浜でレストランの厨房のバイトやってるけどそこで良ければ紹介しよっか?」


 「横浜だって」

 「おおー、横浜なら通り道だしちょうどいいじゃん」

 「人手が足りなくて困ってるからチーフも喜ぶんじゃないかな」

 「え?おねえちゃんはいるかって?あのさ……そのバイト先なんだけど、女の人はどれくらい働いてる?」

 「うちはホールはほとんど女だよ」


 笑顔でうなずく深沢。サムズアップで応える僕。


 「急がないから次に言った時にでも話しといてくれるかな」

 「オッケー」


 こうして、あちこち探しまわる苦労もせずバイト先の目星もつけられ、卒業記念遠征は成功裏に終わったのだった。



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