シリアルキラーガールズ

殺人鬼テッド・バンディ、転生して女子高生になる
松屋大好
松屋大好

公開殺人号

公開日時: 2020年12月1日(火) 22:54
文字数:1,908

 ユートンが笑い出した。


「はっはっは、なんじゃ愛、まるで禁煙できない禁煙家じゃな」


 愛は苦虫を咀嚼するように、顔をしかめて口をもごもご動かした。


「あたしは、この人生こそ、ちゃんとするんだよ。だから、わざわざ〝狩人〟の巡を頼ったんだ」


「その心意気はいいが、少々いい友達を持ってしまったようじゃな」ユートンが向かいの三脚椅子に座った三つ子を見た。「お主ら、仲間が正しい道を歩もうとしたときには、足をひっぱっちゃあ、いかんじゃろうが」


 真ん中の席に座った、二番目の男の子がいった。


「だって、ママがはじめたんだよ」


 その右側に座る一番目が頷いた。


「そうよ。わたしたち家族はママがつくったのよ。見つけるたびに、一人ずつ、家族に加えていったんだもの。そうして人を殺す喜びを教えてくれた。なのに、いまさら一人だけ抜けるなんてダメだと思う。わたしたち、ママがいないとうまくできないんだもん」


 愛がいった。


「たしかに、あんたらを誘っちまったのはあたしだよ。そりゃあ、悪かったさ。でも、あたしはもう嫌なんだ! だいたい、あんたらわかってるのかい? ジュニア、シニア、あんたら前世でどうして死んだと思ってるんだよ。あたしだよ、あたし。あたしは、あのタイラーの兄貴を殺したあと、あいつが持っていたタイラーのからの手紙を見た。だから、すぐに〝よろずや〟を引き払わないとヤバイってことはわかってたんだ。なのに、もたもたしちまったのは、タイラーがくれば、ぜんぶ終わらせてくれるかもって思っちまったからだ。前世でのあんたたちの死はあたしのせいなんだよ」


「そんなことわかってるよお」二番目がいった。「ママがぼくたちからはなれようとしたのは、もう四回目じゃないか。でも、だいじょうぶ!ぼくたちはおこってないから!ねえ、パパ!」


 三番目が頷いた。


 二番目がいう。


「だってさ、ぼくたちはなんかいでも生き返るんだから!」


「そうそう」と、一番目。「ママがなにしたって、わたしたちのこれまでの、そしてこれからの長い長い人生からすれば、ほんの一瞬のことだもん。怒ることなんて何もない。だから、安心して戻ってきていいんだよ、ママ」


「ふざけろ。誰が戻るかってんだ」


 三つ子が顔を見合わせた。


 二番目がいう。


「ママ、ちょうしわるいのかな」


「ううん。ママは毎回こんなじゃない。一人殺せば元に戻るよ」と、一人目。


 三人目がゆっくり頷いて、テーブルの上のハンマーを押し出した。


 一人目がいう。


「ねえ、ママ、さっさと、そこの小学生ちゃんを殺してもらっていいかな?」


 食洗機がひときわおおきく唸る。


 愛がため息をついた。


「しゃあないな」

 


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 

「おいおいおい」ユートンが足をバタバタはせた。「愛! お前、変わり身が早過ぎるじゃろう!」


 三人目が拍手した。


 二人目は「うわあい」と万歳すると、愛の後ろに周り、愛の手と背もたれを結んでいる結束バンドを外そうとした。


 だが、一人目が掌を下に向けて落ち着くよう示した。


「待って待ってよ二人とも。いまの流れはおかしいって。ママって、いつも最初の一人を殺すまで、すっごい抵抗するじゃない。こんなにあっという間に考えを変えるのはおかしいよ。もっと何日もかけて説得する気だったのにさ」


 愛が首を振った。


「まあ、そんなこともあるさね。あたしはもう長いこと殺しを我慢してたんだ。そろそろ限界だったってだけさ」


「そうかなあ? 自由になった瞬間に、わたしたちを攻撃するんじゃない?」


「まさか。ケイト、そんなことするもんか」


 一番目が首を傾げた。


「どうかなあ。でも、まあ、ママがいってることが本心からって可能性もあるからなあ」


「どうすればいいのさ」と、二番目。


「わたしにいい考えがあるんだ。ほんとは、もっとあとに使う予定だったんだけどさ。中古車売り場でバンを〝社長さん〟に買ってもらったとき、いっしょに売ってた面白い車も買ったんだ。あれを使えば、ママの本心がよくわかると思うんだ」


「くるまあ?」と、愛。


 一番目が両手を広げた。


「そう!名付けて〝公開殺人号〟だよ!」



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 

 彗は裸で横浜駅前を通り過ぎる人々を見つめていた。


 大半の人は彼女に気づかず通り過ぎていくが、いく人かは立ち止まって彼女の方を見つめている。


 彼女は太ももを閉じようとしたが、足首を椅子の脚に固定されているせいで、太もも同士がくっつかない。


 ユートンがいった。


「これ、本当に見えとらんのじゃろうな」


 彼女も裸で椅子に縛られている。


 愛も同じだ。


 三人は中型トラックのコンテナ内にいた。コンテナの壁と天井はガラスで出来ており、外が丸見えだ。


 だが、三つ子たちの言葉を信じるなら、外からは見えない。ガラスはマジックミラーなのだ。

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