天才魔王VS最強勇者

【追放された皇子は、魔王となって帝国に復讐します】
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1-3》王の魔力

公開日時: 2020年12月9日(水) 21:22
文字数:2,566

「君、もしかして、魔族なのか?」

 そう尋ねてみた。

 少女はただ、瞬きをするだけだった。肯定しているように見えた。返答が辛いのかもしれない。

濃厚なまつ毛が小刻みに揺れていた。



 魔族。人間を襲い、人間を食らう、人間の敵だった。冒険者たちは魔族を倒すために存在しているのだ。



(そうか……)



 だから、都市の騎士団に追われていたのだ。合点がいった。



 魔族のなかには、人の敵意をかわすために、魅力的な姿を持っているものもいると聞いたことはある。



 この目の前の少女が、悪意に満ちた存在にはどうしても見えなかった。ロドウにとっては、自分が助けようとして、失敗した命にほかならなかった。



「悪いな。オレには君を助けることができなかったけど、看取ってやるぐらいのことは出来る」



 少女は両手を天井にむかって、突き出した。抱き起して欲しい。そう訴えているように見えた。その体調で上体を起こすことなど、無理である。死期を早めるだけだ。放っておいてもそれは同じことだった。なら、望むがままにしてやろうと思った、手を差し伸べた者としての責任をマットウしようと思った。



 ロドウは彼女のことを抱き上げようと、カラダを近づけた。

 瞬間。

 少女はロドウの背中に手を回すと、チカラ強く抱き寄せてきた。



 ケガ人とは思えぬほどの怪力だった。そのチカラはまぎれもなく、少女が魔族であることを示していた。油断していた。アッサリと抱き寄せられてしまった。



 少女の唇が、ロドウのウナジにあてがわれている感触があった。生温かい吐息が、ロドウのウナジを愛撫していた。



(食われるのか?)



 べつにそれでも良いかもしれない、と思った。自分なんて生きていても仕方がないのだ。



 ロドウ・フェレンツェ。

 それは仮の名に過ぎない。



 本名は、ロドウ・アルテイア。このアルテイア帝国の、皇子のひとりだったのだ。第13代皇帝――ジロ・アルテイアが夫人のひとりに生ませた子だった。



 6歳になったとき、母は殺された。ロドウは皇族から追放されることになった。皇族にはふさわしくないスキルを、もって生まれてきたから――という理由だった。ロドウという能無しを生んだという名目で、母は殺されたのだ。裏では、貴族たちの策謀があったのかもしれない。だが、表向きではそうなっている。



 それ以来、冒険者になって今日明日を食いつないでいくといった生活がつづいている。そんな命をムリヤリ引き延ばすような生き様に、意味なんてあるとは思えなかった。



 もしロドウが、もっと立派なスキルを持って生まれていたのならば、母も殺されずに済んでいたのだ。そういう意味では、ロドウが、母を殺したようなものだ。殺される前の母が、ロドウにたいして酷く落胆していたことを覚えている。



(オレなんて、生まれて来なければ、良かったんだ)



 その暗澹とした気持ちがずっと、ロドウの胸裏に棲みついているのだった。もしもここで、この少女に食い殺されるのならば、その胸裏の魔物もともに食い殺してもらえることだろう。そうすれば、楽になれる。そんな気がした。



 来るべき、痛みを待った。



 チク……ッ



 鋭い痛みがロドウのウナジに走った。しかし、それは食い殺されるというような暴力的な痛みではなかった。むしろ、愛情すら感じるような痛みだった。極力、ロドウに与えられる痛みを、少女がやわらげている感じがした。



 本格的な痛みは、これからやってくるに違いない。身構えていた。少女の抱き寄せるチカラが弱まった。ユックリとロドウは、少女から身を離すことができた。



(もしや、チカラ尽きたのか?)



 少女のことを確認した。いつ死んでもオカシクない傷だった。



「え?」

 と、声をあげてしまった。



 傷。完治しているのだった。少女の素肌は血で塗り固められていた。その血の泉たる傷口が、何事もなかったかのように閉ざされていた。



 もしかして塗りこんだ回復薬が、いま効いてきたのだろうか。フローリングの床に転がっている、回復薬のアキビンを拾いあげた。



 もし効果があったのならば、銀貨3枚をはたいたカイもあるというものだ。アキビンのなかには、取り切れなかった緑色の粘液が、テラテラとかがやいていた。



(しかし、すごいな……)



 あれだけパックリと開いた傷口が、閉じていることに感心してしまった。思わず少女の腹についていた傷跡を、人差し指の腹でナでていた。どうして自分が、そんな無遠慮なことが出来たのか、わからなかった。自然と手が動いていたのだ。



「くくくっ」

 と、少女がくすぐったそうに身をよじった。



「あ、悪い……。ってか、しゃべれるのか?」



 ついさきほど食われそうになったことも忘れて、そう問いかけていた。凄まじい回復力に驚いてしまった。



「ついに見つけたのですよ。魔王の器」

 少女はそうつぶやくと、上体を起こした。ロドウは少女に馬乗りになるようなカッコウであった。少女が上体を起こしたことをキッカケに、後ろに身を引いた。



「おい、そんな急に動いたら、また傷口が開くぞ」



 少女の身を案じる気持ちもむろんあった。少女が魔族であることはさておき、その傷を閉ざすためにロドウ自身も危険をおかしているのだ。迂闊に傷口が開くようなことは、ロドウの苦心を水の泡にされるような気もした。



「心配ないのです。私の傷は、王の魔力によって治癒されたのですから」



「王の――魔力?」



 なにを言ってるのか、意味がわからなかった。致命傷の後遺症によって、頭がどうかしてしまっているんじゃないかと心配になった。



「私は今まで、いろんな人の魔力を吸ってきたのですよ。そして今、ヌシさまの魔力を吸ったときに確信したのです。これこそ魔王の魔力。全身が悦楽にしびれるような、この世のものとは思えぬ天上の味」



 少女はそう言うと、舌舐めずりをした。少女の風貌には似つかわしくない、色気にとんだ表情をしていた。稀代の大淫婦が悦楽にひたったようなその表情に、見てはいけないものを見てしまったような気になり、目を伏せた。表情から視線を下げると、少女の裸体が目に入った。コタルディを裂かれた少女は、その上半身をさらけ出していた。つつましくも形の良い乳房や、細くひきしまった胴回りなどは、たしかに男を惹きつける形状をしていた。しばし、見とれた。



「くくくっ。ワッチのカラダは魅力的ですか?」

 そう問いかけられて、あわてて少女の体躯からも目を離したのだった。

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